「――あそこです」
ジェイドが、前方の一角を指した
「どうやら間に合ったみたいだな
――だが、奴らもすぐそこまで来ている」
外を覗き、が小声で告げる
先ほどのリグレットを含め、何人かの神託の盾兵が待機していた
「なぁ、タルタロスが停止したこと、奴らは気づいてるのか?」
「気づいているでしょう。ですが、待ち構えていることまではわからないはずです」
「イオンもいるし……一気に畳みかけるか」
ジェイドとティアが頷く
「ですが、このタイミングでは術の詠唱が間に合いません」
そう付け加えたジェイドにルークが噛み付いた
「どうせ、封印術のせいでセコい術しか使えねーんだろ」
「ルーク!」
それにさらにティアが食いついた
「大佐は少しずつ術を解除しているのよ。そんな言い方、最低だわ!」
「かまいませんよ、ティア。それは事実です
ですからルーク。あなたの力が必要なんです。いいですね?」
ジェイドが二人を仲裁していると、が人差し指で口を閉じるよう合図した
「そのくらいにしておけ。――ハッチが開く。構えてろ」
直後、ガコン、と低い音が響いた
「行くぞ!!」
半分ほど開くと同時に、ルークとジェイドが飛び出す
「おらぁっ!火ぃ吹けぇっ!!」
ルークはミュウを振り回し、敵兵を蹴散らし、ジェイドは槍で真っ直ぐにリグレットを叩きにかかった
「はっ!」
は双剣で容赦なく敵兵を切り伏せながら、ティアと共に半拍遅れて出る
「――さすがだな。ジェイド・カーティス。
譜術を封じても上手く駒を回す。侮れぬな」
言いながらリグレットはちらりとを見やる
「お褒めいただき光栄です。――さて、武器を棄てていただきましょうか」
リグレットは無言で従う
がしゃん、と粗雑な音を立てて二丁の譜銃が地面に落ちた
「よし――ティア、譜歌を」
の指示に、ティアとリグレットが同時に反応した
「ティア……ティア・グランツか」
その呟きに、前に出たティアが目を見開く
「リグレット教官?!」
驚き、一瞬固まったティアの背後に、ゆらりと影が立つ
「ティア……ッ!」
「?!」
どすん、と後ろから突き飛ばされ、とティアはハッチから転がり落ちる
「!」
その一瞬の隙に、リグレットがジェイドに蹴りを入れ、足下の銃を拾い上げた
「くっ……」
不意を付かれたジェイドは苦々しげに眉根を寄せる
背後から襲ってきた影――ライガと、リグレット、神託の盾兵にそれぞれ取り押さえられ、も表情を苦くした
押さえられているのがティアかジェイドだけなら、強行突破も出来る
だが、イオンとルークが押さえられている以上、も手荒なことはできなかった
「アリエッタ」
リグレットが声をかけると、ライガと共に現れた少女、アリエッタは小さく頷いた
「このコ達が障壁引き裂いてくれてここまでこれた……」
見かけにそぐわぬ抑揚に乏しい声
その報告に、リグレットは微笑みを浮かべる
「よくやったわ。さぁ、彼らを拘束して……」
指示に従い、アリエッタが歩み寄ってくる
しくじったか――
がそう思った次の瞬間、
黄金の弾丸が、ルグニカの空を翔けた
「!!」
キィン、と甲高い音が響き、咄嗟に撃ったリグレットの弾丸がはじかれる
「なっ……」
「――ガイ様華麗に参上」
若い、テノール調の声
おおよそこの場には似つかわしくない台詞だったが、どうやら味方の登場らしい
「きゃ……!」
突然のことにアリエッタは困惑し、立ちすくむ
その隙にジェイドは素早く体制を立て直し、すかさず敵を取り押さえる
「ったく……ウチの坊ちゃんを捜しにこんなとこまで来てみりゃあ……
何の騒ぎだ?これは」
鋭く睨まれ、今度はリグレットが表情を苦くする
「形勢逆転ですね」
皆が驚く中、一人冷静にジェイドが口を開く
「もう一度武器を棄てて、タルタロスの中へ戻ってもらいましょうか」
今度こそ大人しく従い、リグレット達は順に艦内へ連行された
「――これで、しばらくは全てのハッチが開かないはずです」
確認するように言って、漸くジェイドは表情をゆるませた
つられて皆の表情も穏やかになる
「助かったぁ……
ガイ、よく来てくれたな!」
強張っていた表情を緩ませ、ルークはガイと呼ばれた金髪の青年に声をかける
「いやー、探したぜ。こんなところにいやがるとはな」
くだけた物言いに二人の親密さが伺える
「ところでイオン様、」
ジェイドが再度口を開く
「アニスはどうしました?」
イオンの表情が暗くなる
「敵に奪われた親書を取り返そうとして、魔物に船窓から吹き飛ばされて……」
「外へはぐれたか……」
「ただ、遺体が見つからないと言っていたのでおそらく無事でいてくれると……」
「彼女も立派な導師守護役です。信じましょう」
ジェイドの言葉に皆も頷く
「とりあえずイオン様の奪還には成功したことですし、次の行動に移りましょう」
「まさかこんなところで突っ立ってるわけじゃないんだろ?どこへ行くんだ?」
「そうですね……まずはセントビナーへ向かいましょう
アニスとの合流先として予定している町です」
「セントビナーって?」
「ここから南東にある町ですよ。そう遠くはないはずです」
イオンの答えにルークはふーん、と頷き、確認するように訊ねる
「わかった。そこまで逃げればいいんだな?」
「そういうことになるな。追っ手の可能性もゼロではないだろうし」
答えたの傍らで、ガイがふと訊ねる
「ところで、そちらさんの部下は?
まだ中に残ってるんじゃないのか?」
「……乗ってはいるでしょうが、生き残りがいるとは思えません。
一人でも生きていれば、彼らはこの件の証人になりますから」
「証人?」
「ここで起こったことが誰かの耳に入れば、マルクト国とローレライ教団の間で争いになりますから」
争い、という言葉にルークはおそるおそる訊ねる
「な、なぁ……何人くらい、乗ってたんだ?」
「およそ百四十人ほどです。常時の半数ですが」
「敵兵も加えれば総死者数はさらに増えるだろうな」
の冷静な分析が皆の表情をくもらせる
「……とにかく、この場に長居は無用、だろ?
俺たちは先に進まなきゃならないんだ」
「そうね。
私たちが動かなければもっと多くの人が命を落とすことになるのだから……」
複雑な思いを抱えたまま、一行はその場を後にした
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あとがき
出ましたガイ様!真の主役!M型後退が心配な苦労人!(笑
漸く出せました。九話。長かったです。
今回は二、三行しか喋ってませんが、次でヒロインと会話させます。
とにかく「ガイ様華麗に参上」が書きたかっただけです!(蹴
漸く物語がまともに進みそうです。ヒロインは相変わらず男装ですが;
2008 7 13 水無月