「……うっ……うう……」
少年の呻く声にたちは視線をそちらへやる
「ルーク!」
ティアが駆け寄り、横になっていたルークが目を覚ます
「大丈夫?うなされていたみたいだけど……」
「あ、あぁ……」
ルークはゆっくりと体を起こすが、その身体はまだ小刻みに震えている
「ルーク、落ち着け。
深呼吸をして……ゆっくりと……そうだ。」
が背中をさすってやると、何とかルークは落ち着きを取り戻した
「ここは……」
「タルタロスの船室です」
ルークの呟きにジェイドが短く答える
「そういえば……たしか、魔物が襲ってきて……」
思い出したのか、ルークの顔が青くなる
「さて……ルークも目を覚ましたことですし、やるべき事をやってしまいましょう」
それを知ってか知らずか、ジェイドは淡々とした口調で話し出す
「どうするつもりだ?」
「まずはここから脱出し、イオン様を救出します」
「イオン様はどこかに連れて行かれたようですけど……」
「どうやらアニスは一緒じゃないみたいだな」
「そのようですね。ですが、イオン様はこちらに戻ってくるようですし……
アニスとは合流地点で会えることを願いましょう」
なるほどな、ととティアは頷く
「となると……待ち伏せから奇襲をかけての奪還になるな」
「お、おい!」
話を進めていると、一人入れなかったルークが急に立ち上がった
「ちょっと待てよ!そんなことしたらまた戦いになるぞ!」
「それがどうした」
ごく普通にが問う
「また人を殺しちまうかもしれねえって言ってんだよ!」
怒鳴ったルークの瞳に宿るのは、恐怖。
――――ああ、そうか
一度軽く目を伏せ、は冷淡な声で言葉を返した。
「仕方のないことだ。殺さなければこちらが殺される。」
「な、何言ってんだ!人の命を何だと思って……!」
「……そうだな。確かに人の命は大切なものだ。
だが、それはこちらとて同じこと。
死にたいわけじゃないんだろう。ルーク」
「け、けどっ……!」
「もうここは戦場だ。法や兵士に守られた街の中とは違う。
生きるか死ぬか、戦うことでしか自分の身を守れないんだ」
長らく戦場に身を置いてきたの言葉は、静かながらもルークに深く突き刺さる。
「ここでお前が死ねば戦争が起きる。
そうなったらより多くの人が戦場(ここ)に駆り出されて、死ぬことになるぞ
その時……同じことが言えるのか?」
「っ……そんなこと俺は知らねぇ!俺には関係ねぇっ!!」
苦虫を噛み潰したような表情でルークが怒鳴った。
「俺はそんなこと知らなかったし、好きでここに来たわけじゃねえっ!」
「驚きましたね」
それを見て、呆れたようにジェイドが言葉を差す。
「どんな環境で育てばこの状況を理解できないのか」
「マルクトに誘拐されかかって以来、身を守るためにお屋敷に軟禁されていたそうですから……」
ティアが答えると、が一瞬はっと目を見開いた
「それではこの世界のことを知らなくて当然……ですか」
納得したように、けれどさらなる疑問を抱えたような複雑な表情でジェイドは頷く
「仕方ねえだろ!ガキの頃の記憶もねえんだ!俺は何も知らないんだ!
俺は……「――たしかに」
駄々をこねるルークの言葉を、ティアの静かな声が遮った
「こんなことになったのは私の責任だわ。
だから、私が必ずあなたを無事に家まで送り届けます」
淡々とした口調にルークは黙り込む
「そのかわり、足を引っ張らないで。
戦うことが出来ないなら、あなたは足手まといになる」
「た、戦わないなんて言ってないだろ!」
思わず反論したルークに、は短く、小さく問う
「……覚悟は出来てるのか?」
「俺は……人を殺したくないだけだ!」
「そうか……愚問だったな」
言って、は目を伏せた
「――で、結局戦うんですね。ルーク?戦力に数えますよ。」
「お、おう」
「なら、話はまとまりましたね。急いで行動に移しましょう」
言うなり、ジェイドは足下の床を踵で小突いた
すると、床板の一枚が跳ね上がり、中の収納部分が姿を現した
「仕込み?」
「こういう時のための伝声管です」
ガチャガチャと手際よく組み立てながらジェイドはルークに話しかける
「ルーク、もし戦えなくなったら素早くの側に行ってください。
彼にはあなたの護衛を頼んであります。いいですね?」
「そんなわけ――」
反論の言葉は視線で遮られた。
「――死霊使いの名によって命じる」
組み立てた伝声管に向けられた声が狭い船室に小さく響く
「作戦名『骸狩り』始動せよ!」
ジェイドが言い放って数分も経たないうちに、急に艦内が暗くなった。同時に機械音も全て止まる
「何が起こったんだ?」
「あらかじめ登録してあるタルタロスの非常停止機構です。
復旧にはかなり時間がかかるでしょう」
「これから何処へ向かいますか?」
「左舷ハッチへ。非常停止した場合、あそこしか開かなくなります」
「つまり、神託の盾もそこからしか入ってこれないと。」
「そういうことです」
ことを理解し、そこへ向かおうとして、
「あ、でも……俺たちの武器、取り上げられてるぜ」
ルークの言葉が三人の足を止めた
「そうだな。大佐とティアには譜術があるが、俺とルークは武器がなけりゃただの荷物だ」
頷き、は周囲を見回す
「多分どこかその辺においてあるだろう。探すか」
「あったな。全部一緒だ」
「意外と近くにあったな。見張りもいねえし」
辺りを見回しルークが呟く
「おそらく見張りはいたのだと思いますよ」
傍らでジェイドが答える
「タルタロスが非常停止したので、その復旧作業に追われているのでしょう」
「なんにせよ、戦力が一箇所に集中しているのはありがたい。
俺たちはこの隙に行動だな」
チャキ、と腰に双剣をさげ、は先を促した
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あとがき
なんてこった!/(^0^)\ ガイ様が出てこなかった!
でも三話分一気に更新するので余り関係ありませんが(蹴
ルーク坊ちゃんのわがまま珍道中(仮)の回でした。
自分なりに言葉を繋いでみたのですが……難しいです。
アビスのテーマって根本的に考えていくと終わりがありません;;
とりあえず、次の話ではガイ様が出てきますので!!
2008 7 13 水無月