「――っ……」
街道を進んでいると、不意にイオンががくりと崩れ落ちた
「おい、大丈夫か?!」
傍らのルークが訊ねるとイオンは小さく頷いたが、とても歩けそうには見えない
「……イオン様。またダアト式譜術をつかいましたね?」
ジェイドの問いに、イオンはすみません、と小さく呟く
身体に適していない譜術を使用したための疲労
元より体力のないイオンにとって、それは命に関わる問題だった
「……大佐、少し休憩しよう。
タルタロスから脱走してずっと歩きっぱなしなんだ。どのみち休まざるを得ない」
「そうですね。このままですとイオン様の寿命を縮めかねません」
「……よし。こんなものか」
カップの中をかき混ぜ、は香りで塩梅を確かめる
「イオン、これを」
「これは?」
「ちょっとしたハーブティーだ。セントビナーの薬屋に教えて貰ってな
気持ちを落ち着かせると同時に、滋養効果もあるそうだ」
「ありがとう。いただきます」
弱々しく微笑み、イオンはカップの中身を一口啜る
「どうだ?」
「美味しいです。確かに、気持ちがほっとしますね」
「口に合ったようで良かったよ」
出涸らしとなった葉を片付け、は話の輪に加わる
「……で、どこまで聞いたんだった?」
「僕たちがバチカルに向かう目的です」
「あぁ。戦争を回避するための使者、ってことだったな」
傍らで話を聞いていたルークとガイも頷く
「しかし妙な話だな。イオンは教団の導師で、モースは大詠師なんだろ?
なのになんだってモースはイオンの邪魔をしたがるんだ?」
「そうだな。しかもこれだとまるでモースは戦争を望んでいるようだ。
……どういうことなんだ?」
継いでとガイから訊ねられた内容に、イオンは表情を硬くした
「それは……教団の機密事項に属しますので、お話しできません」
「何だよ。ケチくせぇな」
「すみません」
不満げに呟くルークに、ジェイドが言葉を差す
「どのような理由であれ、戦争は回避しなければなりません」
「そうだな」
うんうん、と頷くガイをちらりと見、はぽつりと漏らす
「ところで……すっかり聞くのを忘れていたんだが、」
「何をだ?」
「アンタ、何者なんだ?」
ぴ、と隣のガイを指しては訊ねた
一瞬だけ場が静まり、
「そういや、自己紹介がまだだったな」
ガイが苦笑しながらその場に立ち上がった
「俺はガイ・セシル。ファブレ公爵のところで世話になってる奉公人だ」
イオン、ジェイド、と簡単な挨拶がてら握手をしていく
も同じように差し出された手を握り、簡単に自己紹介する
「よろしくな。」
「よろしく」
握った手のひらは自分のそれより大きく、暖かく感じた
「ウチのルークが世話になったな」
「事情は粗方聞いたが……
我が侭でヘタレで世間知らず。とんだ箱入り坊ちゃんだな」
「手厳しいな」
「けど、度胸と見栄だけは上出来だ。そこは面白いよ」
「はは。なるほどな」
ルークに気取られないよう二人して笑いを噛み殺す
金髪の青年――ガイの第一印象は、直後のティアとの会話も含めて、
『良識のある、面白くていい奴』 となった
「ガイ、一つ訊いて良いか?」
が不意に訊ねる
「ファブレ家の使用人ってことは、ルークを探しに来たんだろう?」
「あぁ。旦那様に命じられてな」
旦那様、というのはルークの父親であるファブレ公爵のことだろう
「使用人、なのにか?」
実子であり王位継承権を持つルークの捜索を、そこそこ腕が立つとはいえ、使用人にまかせる?
は眉を潜め考え込む
公爵はいったい何を考えているのだろうか、と
「――、どうかしたのか?」
ガイに声をかけられ、は顔を上げる
「……いや、なんでもない。
それより、どうやってここまで?」
話しを切り替えると、ガイもあぁ、とそれに応じた
「マルクトの方に消えたってのはわかってたからな。
俺は陸づたいにケセドニアから、グランツ謡将は海を渡ってカイツール方面から、二手に分かれて捜索してたんだ」
ガイの出した名前に、ルークとティアの表情が一変する
「ヴァン師匠も探してくれてるのか!」
先ほどまでの疲れていた表情からうってかわって笑顔になるルーク
「……兄さん」
困惑を露わにぽつりと呟くティア
一瞬、皆の視線が交錯して――
「――敵だ!」
の声が鋭く響いた
「まだ神託の盾が残っていましたか」
ジェイドの呟きに、各々武器を構える
だが、ルークだけは相手が人間とわかると、その場に立ち竦んでしまった
「ルーク!お前は下がってろ!」
の言葉に従ってか自主的にか、ルークは二、三歩後ずさる
「逃がすか!」
それを弱者と捉えたのか、兵士がルーク目掛けて突っ込んできた
「させるか!」
ルークを庇うように件を構えたガイが先頭の一太刀を弾き、
「はっ!」
継いで襲いかかってきた兵士をの双剣がなぎ払った
「後ろは援護する。突っ込め!」
「おう!」
タン、と軽く跳躍し、二人は兵士に斬りかかる
「よっ――と」
剣を軽く振り、返り血を落とす
「お見事」
「そっちもな」
他はジェイドとティアが片付けている
ほ、と安堵の息をつきかけたその時、
「ルークっ!」
高い叫びが響き、赤い血飛沫が飛び散った
「ティア!」
ルークを庇い倒れるティアをが受け止める
同時にジェイドが最後の一人を片付けた
「ティア……俺……」
真っ青な表情で、それでも何か言おうとルークの唇が震える
「……ばか……」
呟いたティアの表情はどこか哀しげだった
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あとがき
十話です。一番後に始まった連載のくせに一番早く二桁重ねちゃいました
まぁ、ひとえにガイ様愛のなせる技だと……げふg(以下略
剣に譜術にお茶くみと、何でも出来ちゃうスーパーヒロインです。
譜術はまだ全然使ってませんが(殴
これからセントビナーに向かいます。
相変わらずルークの扱いが酷いですがお気になさらず(蹴
2008 8 31 水無月