セフィロトツリーのポイントを通って、外殻大地へと戻る。
エンゲーブを目指し、ルグニカ平野へ近づいていくと、は窓の外をみて眉間に皺を寄せた。
「おい……どういうことだ、あれは。」
「うそ……どうして……?」
同じように外を見た皆の表情が青くなる。
「何で戦争が始まってるんだ?!」
広大なルグニカ平野を埋め尽くす赤と青の勢力。
巨大な陸艦がひしめきあい、砲塔が火を吹き、土埃が平野を覆う。
大地の欠けた大陸の上で、キムラスカ軍とマルクト軍の熾烈な戦いが繰り広げられていた。


「これは……まずいな。」
「ええ。下手をすると両軍が全滅します。」
ジェイドの言葉に全員がハッとなる。
この広大な平野を支える柱はもう存在しないのだ。
「兄さんはこれを狙ってたんだわ……」
ティアの呟きに、は背筋が寒くなるような感覚を覚えた。
ヴァン・グランツという男はどこまで先を読んでいるのか。
そしてどれほどこの大地を、人を憎んでいるのか──
得体の知れない人間を相手にした、とは改めて痛感した。
ふう、と息を吐いて頭を切り替える。
「……で、どうする?このままエンゲーブに向かうのか?」
は誰にともなく訊ねる。
「エンゲーブも気になるが、このまま戦争を放っておけない。……そうだろ?」
その問いに、ナタリアが小さく頷いた。
「……私が本陣へ行って停戦させます。」
一度戦場を見下ろして、ナタリアはそう申し出た。
「戦場がここなら、キムラスカの本陣はカイツールのはずです。
総大将に会って、兵を退かせるよう話してみますわ。」
「ナタリアが行くなら俺も行く。
一応まだ王位継承者だからな。それにナタリア一人じゃ何かあったときに危険だ。」
「ルーク……」
ルークの申し出にはふむ、と頷き、
「エンゲーブの方はどうする。大佐。」
今度はジェイドに向かって訊ねた。
「あそこは補給の重要拠点と考えられているはずです。セントビナーを失った今、あの村はあまりに無防備だ。
一度様子を見て、必要なら避難させるべきでしょう。」
「……となると、二手に分かれるか。」
ガイの言葉にアニスやティアも頷く。
「ルークとナタリアはカイツールに行くんだな。」
「ああ。」
「エンゲーブには私が行きましょう。マルクト軍属の人間がいなければ話が進まないでしょうから。」

「……俺もエンゲーブに行こう。」
ジェイドの話を聞いて、逡巡した後はそう言った。
「戦場から避難させるなら護衛に慣れた奴がいたほうがいい。人手もいるだろう。」
「そうだな。俺もエンゲーブに行くか。」
に続いてガイも申し出る。
「男手は一人でも多いほうがいいだろ?」
「……おい。」
その言葉の意味するところを考えて、はじり、とガイを睨んだ。
「いや、別に深い意味はないって。のことは頼りにしてるぜ?」
「……まあいい。」
微妙に納得はできなかったが、そんなことを気にしている場合ではないので、は視線を元に戻した。





結局エンゲーブ組にはティアが加わり、ナタリアたちを先にカイツールで降ろしてからエンゲーブに向かうことになった。


アルビオールが着陸すると、混乱した様子の村人たちが集まってきた。
「カーティス大佐!」
村人たちを掻き分けて恰幅のいい女性がやってくる。
「大佐、戦線が北上するって本当ですか?!」
ティアが、「村を取りまとめているローズ婦人よ。」と耳打ちする。
ジェイドとは顔見知りらしく、不安そうにしながらも説明を聞いていた。
「どうしたもんでしょうか……グランコクマに避難したくても、もう首都防衛作戦に入っているらしくて……」
「ええ、グランコクマへ逃げることは不可能です。」
「それにどのみちルグニカ大陸は危険だろう。どこか別の場所へ避難できないか……」
戦場から逃れるために、この村の住民を受け入れてくれるような避難先──
「……ケセドニアはどうだ?」
ふと思い浮かんだ自分の住む街を、はポツリと口にした。
「あそこは商人やギルドが中心の街だ。
アスターやギルドの連中に掛け合えば、この村の住人くらい受け入れてくれるだろう。」
「そうね。それに教団の影響力も強いから安全といえるわ。」
「……しかし、この村の住人全員をアルビオールには乗せられません。
かといって徒歩で向かうのは危険でしょう。」
難色を示すジェイドに、ローズ婦人が向き直る。
「なら、年寄りや子供だけでもその……アルなんとかで運んでください。
私たちは徒歩でケセドニアまで逃げますよ。幸い橋も直りましたしね。」
決意を固めた表情に、ジェイドは小さくため息をついて、
「ではこうしましょう。アルビオールはノエルに任せて、我々は徒歩で向かう方たちを護衛します。」
かまいませんね?と最後に念を押した。たちは迷わず頷いた。




「やれやれ……まさか戦場を突っ切ることになるなんてな。」
隊列の編成はジェイドに任せ、はその様子を傍から眺めていた。
「……意外と人数が多いな。ケセドニアまで守りきれるか……?」
「なんだ、らしくねえ弱音だな、砂漠の銀狼。」
背後からかけられた声に振り向くと、顔見知りの傭兵たちが立っていた。
「アンタら……」
どうしてここに?と驚くに、傭兵の男が答える。
「橋が直ったんで食材を買い付けに来た商人の護衛でな。
とりあえず片道分の報酬はもらったが、この騒ぎでどうするか考えてたところだ。」
「そうか……聞いてると思うが、これから俺たちの護衛でケセドニアまで避難する。
とはいえ、かなりの人数だ。俺たちでは手が足りないかもしれない。」
「護衛に協力しろってことか。」
ああ、とは頷く。
「自分の身は当然自分で守ってもらうとして、周りの民間人のことも出来る限り守ってほしい。……頼めるか?」
傭兵たちはしばらく考えて、
「……ま、どのみちケセドニアまで戻るつもりだったしな。ちょうどいい機会だ。やってやる。」
そう言って、了承の意を示した。



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 あとがき
やっとここまできたーって感じです。
チーム分けはあみだで決めました。嘘です。
一応それなりに考えてはあります。
とりま戦場を突っ切るところはさらっと流す感じで。
 2012 6 24  水無月