翌日にはの体調もだいぶ良くなっていた。
朝食を終えたところで、ガイから詳しい状況を聞く。
「シュレーの丘にパッセージリングが……
オールドラントにそんな秘密があったとはな……」
「まったく、創世歴時代の技術は底が知れないな。あの飛晃艇にしても……」
そう言いかけて、ガイは思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。
「そうだ、コレを返さないとな。」
手、出してくれ。と言われるまま手を差し出すと、チャリ、と音を立てて何かが乗せられた。
「ああ……」
手のひらに乗せられたものを確かめ、は少し小さな声で訊ねる。
「……中、見たのか?」
ガイは正直に頷いた。
「……師匠と撮った、唯一の写真だ。」
ロケットペンダントをきゅ、と握る。
「私が初めて一人で仕事を成功させた時にな。
写り、悪いだろ?当時シェリダンで開発されたばかりの撮影機で撮ったんだ。」
懐かしむようにとつとつとは語る。
「初めて一人で得た報酬で、師匠に恩返しがしたくて……
何がほしい?って訊いたら、『写真を撮りたい』って言ったんだ。」
「記念写真、なんだな。
……それにしちゃあ、表情硬くないか?」
は苦笑交じりに答える。
「私もそうだが、元々写真なんて全然興味ない人だったんだよ。
二人で合わせても写真や肖像画なんて片手の指で足りるほどしかなかったし……
撮り終わってから、『慣れないことをするもんじゃないね。』ってようやく笑ったんだ。」
ふ、と微笑んで、はロケットを閉じる。
それを首にかけようとして、十数秒。
「……ん?」
上手く引っかからないペンダントを確かめると、金具が歪んでいた。
「これじゃあつけれないな……」
ガイはそれを見て、すまない、と頭を下げる。
「何かの拍子にぶつけてしまったのかもしれないな……本当にすまない、。」
「……頭、上げてくれ。そんなに謝られるとこっちも困る。」
「しかし……大切なものなんだろ?」
「写真が無事ならそれでいい。この鎖も一度変えてるしな。
だから……そこまで気にするな。」
そう言ってはペンダントをそっとチェストに置く。
「あ……だったら、俺に直させてくれないか?」
「これを、か?」
がペンダントを指差すと、ガイはああ、と頷いた。
「壊してしまったのは俺だし、ちゃんと元通りにして返すよ。」
はしばしガイとペンダントを交互に見つめて、
「ん……じゃあ、頼む。」
そっとペンダントを渡した。
「ありがとう、。
……じゃ、さっそく取り掛かるか。」
道具借りてくる、とガイは部屋を出て行った。
「……」
一人になった部屋で、はふとついさっきのこと思い返す。
ペンダントを渡すとき、当然のように触れた指先。
あれほど女性に近づくのを怖がっていたのに、どうして?
彼の中で何かが変わったのか──?
そんな考えが頭をよぎる。
自分が眠っている間や、見えていないところで何があったのか。
気になるのに、訊ねようと思うと二の足を踏んでしまう。
「何で……こんな、不安になるんだ……」
キリ、と胸が痛んだような気がして、は小さく俯いた。
数分経ってガイが戻ってきた。
「すぐに直すから、待っててくれ。」
借りてきた工具箱からペンチやら何やらを取り出し、黙々と作業を始める。
ガイは慣れた手つきで鎖を直し、ついでに、と全体を綺麗に磨き上げるところまでやってくれた。
「よし、出来た。」
渡す前より綺麗になって戻ってきたペンダントを受け取り、はまったく、と笑みをこぼす。
「ここまでしてくれなくてもよかったんだぞ。」
「事のついでさ。大切なものならしっかり手入れしておくべきだろ。」
「……そうだな。」
直ったばかりのペンダントを首にかける。
それを見てて、ガイはうん、と頷く。
「良く似合うよ。」
「っ……」
予想外の台詞に咄嗟に返す言葉が出ず、は視線をそらしながら何とか別の話題を探した。
「……アルビオールは、まだ戻らないのか?」
「ああ。まだ戻る気配はないみたいだ。
シュレーの丘はそんなに遠くないはずだから、中のパッセージリングにてこずってるのかもな。」
何せ二千年以上秘匿され続けた機関だ。しかも大陸一つをコントロールする力を持っている。
さしものジェイドでも慎重にならざるを得ないのだろう。
「そうか……とにかく、ここでじっとしていても埒が明かないな。」
いつもの鋭い表情に戻って、はおもむろにベッドから降りる。
「どうしたんだ?」
「アイツらが戻ってくるまでに出来ることをやっておく。」
「出来ること?……また何か無理しようってなら止めるぞ。」
「わかってる。調べ物をしてくるだけだ。ここには貴重な資料が多そうだからな。」
コートを羽織って足早に部屋を出る。
「やれやれ……仕方ないな。」
ため息混じりに呟いて、ガイもその後を追った。
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あとがき
なんでこんな展開になったのか自分でもよくわからないですけど特に深い意味は無いです。
前半のペンダント直すくだりがやりたかっただけです←
2012 6 24 水無月