「はっ!」
大鎌と双剣が交錯し、火花が飛び散る
が動くたびにコートがひらめいて、金板が鈍く光を反射した
「どうした、攻めてこい!」
「っ!」
剣を振りかぶり、甲冑目掛けて振り下ろす
「甘い!」
それは届くことなく弾かれ、反動では一歩後ずさった
「くそっ」
悪態をつきながらも、剣を持つ手はゆるめない
だが、その表情は苦く、額には汗が浮かんでいた
状況が状況なだけに、自分一人でこの場をひっくり返すのは難しい
場も悪いし、周囲の条件も悪い。なにせこちらには守らねばならない対象が多い
とにかくジェイドらが言葉なり行動なりでサポートできるまで何とか時間を稼ぎたかった
ルークはもとよりジェイドも現在は戦闘不能となり、アニスはイオンを守っている。
ティアの譜歌を借りるか、と一瞬考え、今は指示が出せないと判断する
大鎌を受け止めた方の手は未だ痺れて上手く力を込められない
対処法を誤ったか、と内心舌打ちし、は一歩半間を取ると剣を片方鞘に収めた
「――?」
訝しげに眉をひそめるラルゴに対し、はにやりと不適な笑みを浮かべる
「両手持ちなんて何年ぶりか……まぁ、片手が使えないなら仕方ないか」
持ったままの剣に空いた手を添えながら呟く
半分は強がりだったが、の表情はそれを感じさせない
むしろ、一種の挑発だった
「こいよ、獅子の旦那。アンタの鎌は見えた。もう捌ける自信があるぜ」
「少し見ぬ間にずいぶんとお喋りになったな
――いいだろう。その余裕、貴様の身諸共砕いてやる!」
自分の身の丈ほどもある鎌に向かって、は一振りの剣を斜めに構えた
「……、……、……」
ぽつ、ぽつ、と極小さな呟きがその唇から漏れる
呼応するように、蒼の刀身がぬらりと妖しげな光を放った
「……」
その様子をじっと見つめていたジェイドが、ゆっくりと腰を上げた
その手には槍が構成されつつある
「なるほど……あれが“砂漠の銀狼”の力ですか」
蒼の剣を手に、は鮮やかに、しかし力強くラルゴの鎌を弾いていく
その度に青白い火花が飛び散り、の身体は大きく跳躍する
だがその勢いが衰えることはなく、金属音は鳴りやまない
そして、が何度目かの大きな跳躍をしたとき、
「――ミュウ、天井に炎を!」
ジェイドはその真意が伝わるよう、鋭く言い放った
「はいですの!」
直後、ミュウが飛び上がり、天井に向けて思い切り炎を吐く
第五音素を受け、灯がより強い光を放つ
「――!」「くっ――?!」
はすかさず視界を守り、同時に二つの影が動いた
「アニス!今のうちにイオン様を!」
「はい!」
ラルゴの目がくらんでいる隙に、アニスはイオンの手を引いて走りだす
「行かせるか!」
直後、視界の戻ったラルゴがそれを追おうとする
その懐に、銀色の体躯が矢のように飛び込んで――
「――そこまでだ」
一瞬、世界が止まった
「ぐっ……――」
ラルゴの動きが止まる
その身体目掛けてとジェイドの腕がまっすぐに伸びていた
その手にはそれぞれ武器が握られている
赤黒い液体が滴り落ち、漆黒を纏った巨体がその場に倒れ込む
「……さ……刺した……」
震えるルークを横目に、は剣を軽く振るって鞘にしまう
痺れていた手を軽く振ると、床に赤い液体が滴り落ちた
「……?」
ふと、自分の腕を見てみると、上腕に赤い線が引かれている
「ふむ――掠ったか」
「、大丈夫?」
ティアの言葉に、はあぁ、と頷く
「慣れないことはやるもんじゃないな。
出来るだけ無傷でやり過ごしたかったが……」
苦笑気味に言って、斬られた箇所を手持ちの包帯で縛る
「ま、大した傷でもないし、痛みが感じれる分剣が握りやすい」
「では、戦闘も可能だと考えていいですね?」
ジェイドは傍らに倒れるラルゴを一瞥し、に訊ねる
「無論だ。このくらいでくたばるようなら傭兵業やってないさ。
それより、これからどうする?アニスたちを追うか?」
「いえ、あちらのことはアニスに任せましょう。
アニスはあれでなかなかにしっかりしていますから」
「そうなのか?」
「でなければこんな危険な所につれてきたりしませんよ」
断言するジェイドに、それもそうか、と苦笑気味には呟く
「それなら、私たちはどうしますか?」
「こちらはブリッジの奪還をしましょう」
「ですが、大佐は封印術で譜術を封じられてるんじゃ……」
「ええ、その通りです」
ジェイドははっきりと頷いた
「この封印術を解くには相当な時間がかかるでしょう
少なくとも一月や二月で解けるような代物ではありません」
「アンタほどの譜術師でもか」
「まったく……情けない話です」
そう言って肩をすくめるが、ジェイドはすぐに話を戻した
「ですが、あなたに居ていただけたのは幸いです」
ちらりとジェイドの鋭い視線がをとらえる
「あなたの実力なら私とルークの力不足を補えるでしょう」
「おいおい、買い被りすぎじゃないか?」
「そうでしょうか?」
ピン、と冷たい視線が交錯する
「……大佐、私たちは何をすれば?」
控えめに訊ねたティアの言葉でその空気は引き裂かれる
「そうですね……ティアの譜歌と組み合わせれば私やルークでもそこそこ戦えるでしょう。幸いにも全ての譜術が使えなくなったわけではありませんし。
この四人でもブリッジを奪還することは可能でしょう」
「――了解だ。
だが、俺たちはこの艦のことをよく知らない。先導や指示はあんたに任せっきりになるが」
「わかっていますよ」
「そうか。――おい、ルーク」
納得したように頷き、は固まったまま動かないルークに声をかける
「…………」
だが、ルークは未だ硬直状態から抜け出せないでいた
「ルーク!何をしている!」
「!」
もう一度強く声をかけると、漸くルークは立ち上がった
「しっかりしろ、ルーク
今は大佐もあの状態だ。お前の力が必要になってくる
生きてバチカルに帰りたかったら、剣をとれ!」
「……あ、あぁ」
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あとがき
と、いうわけでラルゴはあっけなくやられてしまいました☆
ひたすら書いてて楽しかったです。いろんな意味で戦闘狂(爆
多分ヘタレルークは殆ど出てこれません;;
そしていっこうにガイ様が出ないです(蹴
2008 6 15 水無月