「たしかブリッジは――」
ドアを開いた直後、赤いランプの点灯と共に、警報がけたたましく鳴り出した
「――!」
思わず踏みとどまると、中からルーク達も飛び出してきた
「何があったの?!」
「わからない、――大佐!」
すぐ近くにその背中を見つけ、呼び止める
「何事だ?」
「敵襲ですか?」
矢継ぎ早に訊ねるとティア、
「ルーク様っ、どうしよう!」
とルークに飛びつくアニスを横目に、ジェイドは壁の伝声管を取った
「――ブリッジ、どうした?」
一泊おいて、切羽詰まったような声が返ってきた
『前方20キロ地点上空にグリフォンの大群が!
総数は不明、約10分後に接触します!』
ピン、とあたりが一瞬水を打ったように静まりかえった
「グリフォンの……大群?」
は眉をひそめる
ついで、次の言葉が伝わってきた
『師団長、主砲一斉砲撃の許可を!』
「艦長は君だ。艦のことは君に一任する」
『了解!』
威勢の良い返事で、砲撃準備が始まる
「みなさんは船室へ戻っていてください」
「軍艦なんだろ?魔物が襲ってきたくらいで……」
「ただの魔物なら、な」
窓の外を警戒しながらが言葉を差す
「どういうことだ?」
「グリフォンという魔物は群れで行動する習性を持たないの。
魔物の異常な行動は何らかの危険が迫っているということなのよ」
ティアの補足に、ルークは理解したのかどうかはわからないが、頷く
その直後、艦体が激しく揺れた
「来たな」
は両足でその場に踏みとどまり、周りの安全を確認する
「どうした?」
ジェイドが伝声管をとると、その背景で爆音や叫び声、衝撃音が響いていた
「ブリッジ!どうした?」
『先ほどのグリフィンからライガが落下!艦体に張り付き攻撃を加えています!』
そこで伝声は一度途切れ、
『っ機関部が……うわぁ!?』
「ブリッジ!」
その言葉を最後に、完全に切れた
「応答せよ、ブリッジ!」
呼びかけに答える声はなく、一瞬重い沈黙が流れる
「……ライガって、チーグルのとこで倒したあの魔物だよな?」
そう訊ねたルークに、ティアとミュウが頷き返す。と、
「じ、冗談じゃねえ!」
突然ルークが出口目掛けて駆けだした
「おい、ルーク!」
「あんな魔物がうじゃうじゃ来てんだ、こんな陸艦に乗ってたら死んじまう!
俺は降りるぞ!」
「待って!今出たら危険よ!」
ティアの声も届かず、ルークはハッチに手をかける。すると、
「うわっ?!」
ハッチのほうが勢いよく開き、ルークは壁際まで吹き飛ばされた
「ルーク?!」
「――その娘の言うとおりだな、小僧」
ハッチから出てきたのは二人の白鎧の兵士――神託の盾騎士団の兵士と、
2メートルは在ろうかという体躯を漆黒の甲冑に包んだ大男だった
「お前は……!」
男の手に握られているのはの背丈ほどもある大鎌
隙を取ろうと双剣に手をかけたを、ジェイドが視線で止める
その足下には――青白色の譜陣
「エナジーブラスト!」
まばゆい閃光と共に、が地を蹴る
二人の兵士が吹き飛び、の大男に止めを刺そうと迫る
「はぁっ!」
朱い刀身が煌めき、漆黒の甲冑目掛けて振り下ろされる
「――っ!」
しかしその刃は届くことなく、瞬時にはじき返される
「ちっ」
舌打ちしつつも綺麗に着地する。
同時にブン、と低い唸りをあげて大鎌が無防備なルーク目掛けて振り下ろされた
「っ――させるか!」
ガキィン、と鋭い金属音が響き、空気の振動が肌を刺す
「!」
振り下ろされる瞬間ルークの目の前に飛び込んだは、間一髪のところで鎌を受け止めていた
「ぐっ……」
コートの下から鉛色のグローブが覗き、鎌を受け止めて深く食い込んでいる
「無茶よ!」
ティアの叫びが木霊し、
「大丈夫だ。俺の小手には防御の譜陣が刻んである。そう簡単にはやられない」
はに、と微笑ってみせた
「さすがだな。よほど自信があると見える」
「まぁな。……そちらも相変わらずのようで、獅子の旦那」
軋む腕に力を込めはちらりとジェイドを見やる
「なるほどな……だが、そうはいくか!」
キィン、と金属音が響き、グローブが砕けてその身体もろとも吹き飛ばされる
「っく!」
壁に叩きつけられ痛む腕を引きずりながらも駆け寄ろうとするが、
「そこまでだ」
ルークの喉元に突きつけられた大鎌がその足を止めた
「さすがだ。
どのようにして捕まえたか知らんがその”狼”を味方につけるとはな
――だが、ここから先はおとなしくしてもらおう」
にやり、と男は不適に笑う
「マルクト帝国第三師団長ジェイド・カーティス大佐、
――いや、死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド!」
「死霊使いジェイド……?!」
驚くティアの傍らで、ジェイドはしれっと言葉を返す
「これはこれは。私もずいぶんと有名になったものですね」
「戦乱の度に骸を漁るお前の噂、世界に遍く轟いているようだな」
「あなたほどではありませんよ。
神託の盾騎士団六神将――黒獅子ラルゴ」
淡々と交わされる言葉で、あたりの空気が戦慄する
大男――ラルゴは、ジェイドの言葉にもう一度不適に笑うと、
「フ……いずれ手合わせしたいと願っていたが、残念ながら今は導師を貰い受けるのが先決だ」
ぎろり、と鋭い――まさに獅子のような瞳で、アニスの背後のイオンを捕らえた
「イオン様を渡すわけにはいきません!」
アニスと並び、ティアが負けじと強く睨み返す
「おっと動くなよ。この坊主の首が飛ぶぞ」
「っ……」
ルークを人質に取られている以上迂闊には動けない
は内心舌打ちする
「死霊使い、狼、お前たちを野放しにしておくと厄介なのでな」
「あなた1人でこの状況を打破できるとでも?」
「ルークを取られているとはいえ、こちらは4人だ。
たとえ黒獅子といえど、分が悪いんじゃないのか?」
「ああ、だがこいつを使えばな、あるいは」
にやりと笑い、ラルゴは懐から何か取り出し放り投げた
「?! 避けろ!」
ばっ、とは大きく一歩引き、皆もそれに倣う
「っ?!」
だがラルゴの投げたソレは空中で展開し、手前にいたジェイドの周囲を音素の膜で覆った
「まさか……封印術(アンチフォンスロット)?!」
膝をつくジェイドにティアが駆け寄る
「しっかりしてください、大佐!」
「導師の術を封じるために持ってきたが、こんなところで使う羽目になるとはな。……まあいい」
「くっ……」
ぎり、とジェイドは奥歯を噛みしめる
「さあどうする、“狼”」
は軽く息をつき、
「愚問だな」
抑揚のない声で言い放った
「あんたを倒し、この場をひっくり返す。それだけだ」
チャキ、とは腰の双剣を抜く
――同時に、ジェイドに一瞬だけ視線を送っていた
朱と蒼の刀身が煌めき、キィン、と甲高い音が鳴り響く
「「!」」
ティアとアニスの叫びが重なった
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あとがき
ラルゴキター――(・∀・)――!!
私の中でラルゴはイイ感じのおっさんです(蹴
あと六神将の中では一番弱いんじゃないかと思ってたり。
最強ヒロインちゃんの活躍はまだまだ続きますよ☆(ぇ
2008 6 7 水無月