セントビナーのあった一帯は泥の海へと崩落し、街の部分だけがかろうじて浮かんでいた。
アルビオールは街の上空をゆっくりと旋回する。
艦橋からその様子を眺めていたルークが、ぐ、と拳を握る。
「……本当に、なんともならないのかよ。」
その傍らでティアが説明をしたり、皆が何かと言葉を交わしているが、どうも頭に入ってこない。
「……っ」
軽い眩暈を感じて、は右手で顔を覆った。
「どうした?」
ガイに訊かれ、何でもない、いう風に首を振る。
「少し疲れただけだ……気にするな。」





崩落を止める手がかりを求め、ひとまずユリアシティに進路をとることになった。
街に入るとエントランスには市長のテオドーロをはじめ、数人の部下が待っていた。
「来ると思っていた。」
「お祖父様、力を貸して!セントビナーを助けたいんです。」
テオドーロは難しい顔で頷いた。
「それしかないだろうな。預言から外れることは我々も恐ろしいが……」
「その前に、セントビナーの方たちを休ませてあげたいのですが。」
イオンが前に進み出て言う。ガイもの肩を軽く叩いた。
もだいぶ疲れてるみたいだ。一緒に頼む。」
「いや、私は……」
大丈夫だ、という言葉は声にならなかった。
酷い眩暈がして、意識が遠くなる。
「──っ」
今度は、何かを考える暇もなかった。



!」
ガクン、と崩れ落ちたの身体を慌てて抱きとめる。──明らかに体温が高い。
「酷い熱だ……ティア、前と同じ治癒術師の人は頼めるか?」
「え、ええ。すぐに呼んでくるわ。」
小さく頷き、ティアは早足で街に入っていった。
、大丈夫なのか?」
ルークが心配そうに訪ねてくる。
「診てもらわないとなんともいえませんが……」
「障気で身体が弱っていたのでしょうか……?」
仲間たちの話を後ろで聞きながら、そっとの身体を抱き上げる。


前に初めてここへ訪れたときも、こんな風には倒れていた。
あの時も思ったが、の身体は見た目よりずっと軽い。体つきも華奢で、強く抱きしめたら壊れてしまいそうだった。






「こちらへ。」
案内された部屋で、の身体をベッドに横たえる。
「……症状としては、過労から来る発熱ですね。
2,3日ゆっくり休めば回復すると思います。」
検診の結果にほっと胸をなでおろす。
「お話を聞くに、またお一人で無理をなされたのではないですか?
障気の影響で体力が低下していたので、身体がついていかなかったのでは……」
「……多分、そうだ。」
思えば、アルビオールに乗っているときから様子がおかしかった。
気づけたはずなのに──
ぐ、とやり場のない憤りを拳にこめる。
「何でこんな無茶ばっかりするんだろうな、は。」
ルークがポツリともらす。
「強いヤツだってのはわかるけど、キツいんなら俺たちを頼ってほしいよな……」
「……ああ、まったくだ。」
眠るの顔をじっと見つめる。
解熱剤を飲ませてもらったので、時期に熱は引いていくだろう。
「──みんな、お祖父様が会議室に集まってほしいと言っているわ。」
タイミングを見計らってか、ティアがそう声をかけてきた。
「わかりました。……行きましょうか。」
ジェイドに促され、部屋を出る。
「……はあ、」
知らず、ため息がこぼれた。
とりあえず、どうやって彼女を大人しくさせるか。何か納得の行く理由を見つけなければと思いながら。


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 あとがき
ぶっ倒れまくるさん。最強設定なのに←
ガイ様の気苦労が絶えない。
 2012 6 24  水無月