「……よし。」
軽く呼吸を整え、はセントビナーの街を眺める。
最初の激しい揺れが収まってからはさほど崩落は進んでいない。
「ひとまず動けそうだな……」
ティアやジェイドの話によれば、今すぐ大地が魔界に落ちることはないらしい。
とはいえこのままの状態で待っているのも危険だ。とにかく残ったものたちを守らなければ――
まずは崩壊の少ない場所を探して、そこに残った全員を集めた。
「怪我人はいないな。魔物の気配もない。」
「これだけは不幸中の幸いじゃな。」
「ああ。……とにかく生き残ることが最優先だ。
街中の食料や水は使ってもかまわないか?」
マクガヴァン親子に尋ねると、頷き一つで了承が返ってきた。
「こんな状況じゃ。使えるものは使わんとな。」
「感謝する。」
軍の人間に食料の調達などはまかせ、は地面に向けて手をかざし、意識を集中する。
「……っ」
目に見えるほどの音素を練り上げ、それが消えないうちに譜陣を描く。
「光よ、患い招きし悪意を阻む壁となれ――。フィールドバリアー!」
の詠唱に反応して譜陣が起動する。
「はー……さすがにジェイドのようにはいかないか。」
長く息を吐き出すと、食料を集めに行った者たちも戻ってきた。
「ティアの譜歌ほどの効果は期待できないが……多少はマシなはずだ。あとは持久戦だな。」
「すまんの。本来ならワシらが率先してやるべきことをお前さんに任せてしまって。」
「かまわない。……これも仕事だ。」
「こんな状況じゃ。お前さんたちに頼るしかないが……無理はせんようにな。」
「心配は無用だ。……それに、傭兵は出来ない仕事を引き受けたりはしない。」
私の言葉を信じてくれた皆に応える為にも、ここはで諦めるわけにはいかない。
「任された以上、守り通してみせる。」
ルークたちがシェリダンへ向かって数日。
たちは一箇所に固まって彼らの帰りを待っていた。
幸い人数に対して十分な量の食料が集まったので誰かが危険な状態に陥ることは無かったが、
「!……またか。」
ゴゴゴ……と時折低い唸りを上げて、大地は確実に魔界へと降りつつあった。
「そろそろ限界かもな……」
の譜陣も効力が薄れてきている。何か次の手はないかと冷静だった表情に焦りが見え始めた頃――
「……ん?」
風の音に混じって、何か聞き慣れない音が近づいてきた。
弾かれたように顔を上げ、は音の方向を探す。
「見えた!」
南西の空に機影を確認して、は素早く譜術で光弾を打ち上げた。
ほどなくして、頭上を大きな影が覆う。
「あ、あれは……?!」
「飛晃艇だ……」
その場にいた者たちが呆然と見上げていると、ハッチが開いて赤い髪が風になびいた。
「おーい!!」
「ルーク!」
応えるように手を振り返すと、今度はジェイドの声が響いた。
「そこに着陸します。離れてください!」
船は器用に着陸し、ハッチからルークが駆け下りてくる。
「、マクガヴァンさん、みんな!大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな。」
「話は後にしましょう。とにかく乗ってください。」
ジェイドの誘導で順に人を乗せていき、を残して最後の一人が乗り込む。
その直後再び地面が激しく揺れ、大地に亀裂が走った。
「っ――飛ばせ!」
最後の男の背中を押し込み、が叫ぶ。危機を察知したのか、機体はすぐに離陸した。
同時にすかさずハッチを掴もうとするが、揺れる地面のせいでバランスを崩してしまう。
「しまっ――「!!」
そのまま空を切ろうとしたの手を、ガイが掴んだ。
「ガイ……?!」
「離すなよ!」
ガイの手につかまれたまま、の足が地面から離れる。
「っ……!」
「今、引き上げる。絶対に離すな!」
ガイの手に力が込められる。はしっかりと頷き返し、強く手を握り返した。
「よし……もう少しだ……!」
不安定な足場で、ゆっくりとの身体が引き上げられる。
ようやく両手がハッチにかかり、一気に乗り込もうとしたその時、機体が大きく揺れた。
「なっ……」
「!」
全身強打か、運が悪ければ落下か――そんな結果を考え、覚悟を決める。
「……?」
だが、どこにも痛みは無かった。ゆっくりと瞼を持ち上げると、見覚えのあるベストが視界に入ってきた。
「っつつ……大丈夫か、?」
「……ガイ?」
「怪我もなさそうだな。よかった。」
そう言ってガイは身体を起こす。
「――っ」
そこで、ようやく背中に回された腕に気がついた。
どうやらあの瞬間、ガイが私を抱き込むようにして船内に転がり込んだらしい。
――ドクン、と心臓がはねる。なんだ、これは。
「どうかしたのか?」
「何でも、ない。……助かった。」
ガイから背を向けて、呟くように礼を告げる。
平静を取り戻すのには、少し時間がかかった。
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あとがき
飛行艇なのか飛空挺なのか飛晃艇なのか。
ここではどっかのメディアで出てた飛晃艇を使います。
女の子してきたさんです。
2012 6 24 水無月