セントビナーの街では不安がる住民があちこちで噂話をしていた。
住民をまとめるマクガヴァン氏の屋敷では、
「キムラスカ軍が迫ってる今、軍がこの街を離れるわけにはいかんのです!」
「じゃから老人や女子供だけでも避難させろと言っておろうが!」
すでに戦場のような状態で、口論が繰り広げられていた。

「――というわけで、皇帝陛下の命は賜っています。
民間人はエンゲーブ方面へ避難させてください。街道の途中で私の軍が輸送を引き受けます。
移送が終わり次第、ノルドハイム将軍旗下へ加わってください。」
ルークが強引に割り込んで、ジェイドが速やかに説明をした。
「了解した……セントビナーは放棄するのだな。」
「このあたりも崩落の兆しが出ている。すぐにでも移動を始めてくれ。」




それからは一気に慌ただしくなった。
軍も市民も総出で避難の準備に当たり、ティアとナタリアは女性や病人に付き添い、ジェイドは軍の統括、やルークたちはすぐに動けない老人や怪我人を手助けに回った。
「いたっ!」
老人を馬車に乗せたの目の前で、小さな男の子が人に躓いて転んだ。
「大丈夫か?」
「ヒザ、すりむいた……」
「少しじっとしてな。」
口の中で詠唱し、治癒術をかける。
「これでよし。あの馬車まで走れるか?」
「うん!」
「もう転ぶなよ。」
少年が走っていくのと同時に、ルークたちがやってきた。
、そっちはどうだ?」
「あらかた馬車には乗せた。あとは大人の男がほとんどだ。」
ルークやガイたちも同じような状況だった。
「わかった。……あ、俺もう一回人がいないか見てくるよ。」
そう言って街の中へ戻っていったルークを見て、アニスが感心したように呟く。
「何か、別人みたい。アレがあのお坊ちゃま?」
「ま、アイツなりにいろいろ思うところがあったんだよ。」
「それとも、アニスにとっては前のほうが扱いやすくてよかったか?」
「あはは。まっさかー。」
談笑していると、ルークが戻ってきて、
「おーい、そんなところで突っ立ってないでこっち手伝ってくれよ!」
真剣な表情でそう言い残していった。




「こっちの避難は完了だ、ジェイド。」
「わかりました。これで大半の避難は終わりのはずです。」
「そうだな。あとは……――っ?!」
の声を遮るように、地面が激しく揺れ、そして――
「ハーッハッハッハ!!ようやく見つけましたよ、ジェイド!」
どこかで聞いたような台詞と共に、どこかで見たようなロボットが姿を現した。
「アイツは……」
「まったく……この忙しい時に……
アナタは昔から空気が読めませんでしたよねえ?」
呆れたようにジェイドは深い溜め息を吐く。
現れたのは言うまでもなく、六神将・死神のディストだ。
「何とでも言いなさい!それより、導師を渡していただきますよ。」
「断ります。そんなことよりそこをどきなさい。」
極めて冷淡にジェイドは言葉を返す。
「お黙りなさい!」
ディストは機械を操作し、こちらへ向けて光線を発射してきた。
「くっ!」
咄嗟にジェイドとは防御の譜陣を展開する。
「ジェイド!」
!」
騒ぎを聞きつけて、仲間たちが駆けつけてきた。
「あーっディスト!!」
「避難の邪魔をするつもり?!」
「フン、虫けらがぞろぞろと……目障りです!」
再び発射された光線は地面を焦がし、煙を上げた。
「何だアレ?!」
「悪趣味な発明ですよ。まったく……
ここは私とで食い止めます。住民の避難を急いでください。」
「そうだな。住民を守れなきゃ意味がない。行け、ルーク!」
、ジェイド……わかった。頼む!」
背を向けたルークたちを庇うように、双剣を構え、はジェイドの隣に並ぶ。
「術での援護は任せていいな。大佐。」
「引き受けましょう。とにかく街と人に被害を出さないようにしてください。」
「さりげにキツイこと言ってくれるな――了解だ。」
放たれる攻撃をかわし、弾いてロボットの懐に潜り込む。
「魔神剣・双牙!」
機械に物理攻撃は通り辛い。何発か攻撃を叩き込んで、バックステップで距離を開ける。
「荒れ狂う流れよ、スプラッシュ!」
すかさずジェイドの譜術による水流が敵を飲み込み、弱点を突かれたロボットは怯んでよろけた。
その隙を逃さず、は飛び上がって、渾身の一撃を叩き込む。
「凍牙衝裂破!」
ぐらり、と重たい鉄の体が大きく傾いて、仰向けに地面に倒れこんだ。
「仕留めるぞ、大佐!」
は剣を構えたまま、意識を集中する。
「蒼き命を讃えし母よ 、破断し清烈なる産声を上げよ。アクアレイザー!」
「慈悲深き氷霊にて、清冽なる棺に眠れ。フリジットコフィン!」
二つの譜術が炸裂して、ロボットは火花を散らし、異常な音を立てて盛大に壊れた。
「ああああ!私の可愛いカイザーディストRXがぁああ!!
くっそー!覚えてなさーーーい!!」
手駒を失ったディストは、捨て台詞を吐いて去っていった。
「面倒なヤツだ……」
双剣をしまい、は呆れたように呟く。
「念のため追跡しろ。」
「はっ!」
ジェイドの指示で部下が数人走って行く。


――その直後、先ほどとは違う振動が街を襲った。
「っ……!」
「これはまずいぞ……!」
低く唸りを上げ、地面が激しく揺れる。
そして、とうとう――――
「っ?!」
がごん、と一際大きい音を立てて、街を中心とした大地の一帯が、皿のように陥没した。
「しまった!」
咄嗟に地割れを避けたと、仲間たちの間に亀裂が走り、段差ができる。
!」
躊躇いなく伸ばされたガイの腕をつかもうとするが、
「くっ……」
大地は手の届かないところまで沈み、伸ばした手は虚しく空を切った。
ー!マクガヴァンさーん!」
取り残されたのは、とマクガヴァン親子を含めて十人余り。
「私が飛び降りて譜歌を……!」
ティアが一歩踏み出すが、ジェイドが制止した。
「この人数では無理です。」
ティアの譜歌でカバーしきれる範囲ではない。
同じ意味を込めても頷く。
「ワシらは大丈夫だ!それよりも街の皆を頼んだぞ!」
幸いにも残っていたのは軍人と大人の男がほとんどだ。すぐに危険が及ぶことはないだろう。
「くそっ!どうにかならないのかよ!」
「けどあれじゃあ空でも飛べないと無理だよう。」
アニスが漏らした言葉に、ははっと思い出す。
「シェリダンの飛行実験だ!」
そして、ガイに向かって叫んだ。ガイも弾かれたように顔を上げる。
「そうか!飛晃艇か!」
「あれはもう実用段階まで進んでいるはずだ!何とか持ってこい!」
もう一度叫ぶと、地面がまた一段と大きく揺れた。
「時間がない!急げ!」
そう言いながら、は懐から何かを取り出し、地面の上に向かって思いっきり投げた。
?!」
「俺の身を示すものだ。何かに使えるだろう。
――行け!ここは何とか持ち堪える!」
「……頼んだ!」
深く頷いて、ルークたちは身を翻し去っていった。



仲間たちの背を見送って、は一度大きく深呼吸する。
「さてと……踏ん張りどころだな。」



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 あとがき
これがやりたかった!(3回目)戦闘シーン楽しいです。
術技は主にDやVからちょっぱってきますが、今回は水弱点ということでRのをいただきました。
術でFOF的な何かがでて出来た技だと思ってください。
ようやくセントビナー崩落ですね。一人くらい残ってもいいジャマイカ。
最初はガイ様かイオン様と残る予定でした。
でもそしたらシェリダンで苦労しそうなので。
あと唐突に出てきたヒロインのアイテム。あまり気にしないでください。
 2012 1 22   水無月