ガイやイオンの調子もよくなったところで、皇帝への謁見することになった。
「よう、お前らか!俺のジェイドをさんざん連れ回してくれたのは!」
若い皇帝からかけられた言葉に、ルークたちはぽかんと口を開けて固まる。
「……こほん。陛下、客人を戸惑わせてどうしますか。」
ジェイドの呆れたような咳払いに、マルクト皇帝――ピオニー・ウパラ・マルクト九世は「はっはっは」と快活に笑った。



ジェイドが大体の事情は説明してくれていたようで、話はそれほどややこしくはならなかった。
「……だ、そうだ。ゼーゼマン。
ジェイドもこの件に関してはこいつらを信じていいと言ってるぜ。」
「陛下、こいつらとは失礼ですじゃよ。」
話の間は真剣だった皇帝と参謀長の表情が穏やかなものになる。
「住民の救出、避難は私の隊とルークたちで行い、北上してくるキムラスカ軍はノルドハイム将軍が牽制なさるのがよろしいかと愚考しますが。」
ジェイドの提案にゼーゼマン参謀長はふむ、と頷く。
「よかろう。その方向で議会に働きかけておきましょうかな。」
「恩に着るぜ、じーさん。」
ピオニー皇帝はまた笑うと、立ち上がってルークの前に進み出た。
「俺の大切な国民だ。救出に力を貸して欲しい。」
「全力を尽くします!」
そう答えたルークの表情は、以前よりも強く、頼もしく見えた。



「救出のルートは私の隊が確保しますが、いつ崩落が始まるかわかりません。
街の中での避難誘導は私たちが中心になるでしょう。」
宮殿を歩きながらジェイドが話す。
「詳しくは現地で説明します。……と、ここです。」

――謁見の後、何やらジェイドと皇帝の間でやり取りが交わされ、ここまで案内されることになった。
ノックをして中に入る。
「うわっ?!」
ジェイドに続いて入ったルークは、足元の思わぬ物体に間抜けな声を上げた。
「こ、これは……」
「……ブウサギ?」
ピオニーの私室は、その地位にいるものの部屋とは思えないほど雑然と物が散らばり、そして、部屋のあちこちをブウサギが歩き回っていた。
「お、よく来たな。」
「あの、陛下……」
これはなんだ、という目をしたルークに、ピオニーは餌をやっていた一頭を抱き上げて頭を撫でる。
「俺の自慢のペットだ。可愛いだろ。」
「か、変わったペットですのね……」
大抵のことは受け入れるナタリアも、さすがに唖然としていた。
「陛下、ペット自慢のために呼んだわけではないでしょう。」
またもジェイドに窘められて、ピオニーはそうだな、と笑う。
「ガイラルディア・ガラン。お前に話があって呼んだんだ。」
本名を呼ばれ、ガイは静かに膝を突き、頭を垂れた。
「……申し訳ありません。領地を預かる伯爵家の者としてすぐにでも馳せ参じなければならないところを、私情に走り、長らく義務を放棄したこと、どのような責めも受ける所存です。」
長年付き合いのあるルークやナタリアが驚く傍らで、は静かに彼の背中を見つめる。
――あんな振る舞いもできるんだな。
貴族としての丁寧な立ち振る舞いを見て、少し複雑な気持ちになる。
「なにも責めようってワケじゃねえさ。
お前の家、ガルディオス伯爵家の資産は国庫に預けられているからな。
お前が望むならすぐにでも爵位を戻してやれるが、どうする?」
爵位、と聞いてアニスが目を輝かせるが、ガイは首を横に振った。
「今の俺には、やるべきことがありますから。……ルークたちと共に。」
「ガイ……」
「ま、お前がそれでいいんならかまわねえさ。」
ピオニーも深くは追求しなかった。
若いが、皇の器にはまっている人物のようだった。
元々和平の提案もこの男からであり、見た目に寄らず思慮深い人物だ、とは思った。






「……ガイ、」
セントビナーへ立つ準備をしながら、は口を開く。
昨日橋の上で別れてから、ガイとは話をしていなかった。
「少し、訊いてもいいか。」
「何だ?」
「ルークのことは……もう憎んでいないんだな?」
「ああ。」
なら、と一瞬躊躇ってから、は訊ねる。
「アッシュ……被検体のアイツは?
それと……公爵は、どうなんだ。」
ガイは準備の手を止めて、困ったように肩を竦めた。
「……答えにくいことを訊かれたな。」
も手を止めてガイの方を向く。
「まったくわだかまりがないといえば嘘になる。憎んでいたのは事実だしな。」
「……そうか。」
「アッシュに関しては……いきなり被検体だレプリカだって話になったから何とも言えないな。
それに、アイツは六神将としてヴァンに従っていた。今更昔のことでどうこうしようとは思わないさ。
ただ……」
ガイは手元に視線を落として呟く。
「公爵はどうなるか……」
「どういうことだ?」
「まあ……俺にもわからないってところ、か。
……悪い、こんなところでいいか?誰かに聞かれると心苦しい。」
思い出すだけで辛く、苦しい記憶なのだろう。ガイの表情は浮かないものだった。
「ああ……すまない。嫌なことを聞いたな。」
詫びの言葉を述べて、は再び準備に戻る。


「……ありがとうな、。」
不意に、ガイがそう言った。
「何だ、いきなり。」
「いろいろと心配してくれたみたいだし、昨日のこともちゃんと礼を言ってなかったからな。」
「……別に、心配とかそういうわけじゃ……」
「何だかんだでみんなのこと気にかけてるだろ。
キミがいてくれるだけで、助かってるんだ。」
は少し固まって、
「それは……褒め過ぎ、だ。」
照れたように呟いた。

今までと変わらない、いつものようなやりとり。
そんな気遣いを見せるガイに向けて、このお人好し、と聞こえないように付け足した。



 BACK   NEXT

――――――――――――――――――――――――――――――
 あとがき
ヒロインデレ回……?
ピオニー陛下がガイを呼ぶ話はアニメからちょっぱってきました。
結構気に入ったシーンというか、演出だったので。
台詞うろ覚えだけどね!
 2012 1 22   水無月