「……やはりこっちも封鎖済みか。」
呆れたようには肩をすくめた。


マルクトの管理するテオルの森は、戦争に備えての厳重警戒中となっており、通ることが出来ないという。
「大佐お一人でしたらお通しできますが……他の方はたとえダアトの方でもお通しできません。」
「皆さんはここで待っていてください。私が話をつけてきます。」
そのため、ジェイドが通行の許可をもらってくるまでは森の入り口で待機することになった。





「ちゃんと許可が下りてくれるといいな。」
「あの大佐のことだ。特別何か起こらない限り普通にもぎ取ってきそうだが。」
「もぎ取ってくる、という時点で普通じゃないんじゃないかしら……」
「いいや、大佐ならやるね。」
アニスの言うことはもっともだ。
「ところで、は初めて会ったときグランコクマから歩いてきたと言っていましたね。
そのときはどうだったのですか?」
「ここまでの状態ではなかったからな。
きちんと身分の保証もされていたから普通に通れることができた。」
のような傭兵の身分はローレライ教団の承認を受けたケセドニアのギルドで保証されている。
間接的に教団の保証を受ける形になるので、大抵どの街でも通行は可能だ。
「へえ……便利なんだな、ギルドって。」
「そのかわり教団の支援がなければやっていけないところがある。それはそれで面倒だがな。」
「どういうこと?」
「……身分の保証はギルド単位だから、普通に辻馬車や商人の護衛をする程度の傭兵なら自由に仕事をこなせる。
ただ、俺のような肩書き持ちや、昔からいる古株の傭兵はそのお偉方からの依頼も多い。」
「そういうことか。」
「大変なのですわね、傭兵というのは。」
パキン、と手持ち無沙汰にいじっていた枝を折り、はふ、と微笑んだ。
「それでも、後悔はしてないつもりだ。俺の性分には合ってるからな。」
らしい考え方ね。」
ティアやイオンが穏やかに笑う。
こんな雰囲気の心地よさに、慣れすぎてしまったのかもしれない。だから──


「うわあーーーっ?!」
森の異変に気づくことができなかった。
「今のは?!」
「悲鳴だな。森の奥からだ。」
「行ってみよう!」
森を少し進むと、マルクトの兵士が怪我をして倒れていた。
「しっかりなさい!」
「誰の仕業だ?!」
ナタリアとルークが真っ先に駆け寄る。
「神託の盾の兵士が……くそっ……」
マルクト兵はかなりの重症で、喋るのもやっとという状態だった。
「まさか、兄さん……?」
「グランコクマでいったいなにをするつもりなんだ?」
治療が一段落したところで兵士を安静にさせる。
「セフィロトツリーを消すための準備をしにきたのかもな。」
「いえ、このあたりにセフィロトは無いはずですが……」
「ここで話していても埒が明かない。追うか?」
森の奥をちらりとみてが問う。
「ああ、とっ捕まえてやる!」
「こんな狼藉、許すわけには参りませんわ!」
ルークとナタリアは今にも走り出しそうな勢いで賛同した。
「待って!勝手に入っていって、もしマルクト軍に見つかったら……」
「本末転倒だ。マルクトまで敵に回すことはないだろ。」
ティアとガイの言葉には小さく頷く。
「兵士に見つからないよう進むぞ。慎重且つ迅速にな。」





「神託の盾の奴ら、見つからないな」
「もう街に入ったか、もしくは撤退したか……」
が先行し、木の陰に身を隠しながらあたりの様子を伺う。
ルークたちもその後に続き、開けた場所に出た直後──

「っ?!――よけろ!」

の声と同時に、風が鋭く唸った。

「!」
驚き振り返ると、そこには見覚えのある漆黒の甲冑。
「いい反応だ。さすがだな」
「黒獅子!」
を始め、ルークたちも武器を構える。
「マルクト兵をやったのはアンタか?」
「さて、どうかな。」
「グランコクマに何の用だ!」
強く剣を握りなおしてルークが言う。
するとラルゴは不敵に笑って、

「前ばかり気にしていてはいかんな。坊主」
そう、静かに言葉を返した。

「っ──ルーク!!」
「えっ?」
の叫びと同時に振り返ったルークの目の前に、白銀の刃が迫る。
「なっ……?!」
咄嗟に剣を構えて対応するルーク。
「ちょっとちょっと、どうしちゃったの?!」
仲間達の顔に困惑が浮かぶ。


ルークに斬りかかっていたのは――ガイだった。


「ぐぁっ……!」
強烈な一撃でルーク手から剣が弾かれた。
間初入れず、ガイが切り返してくる。
「くそっ!」
はギリギリのところでルークを突き飛ばし、剣の峰でガイの一撃を受け止めた。
「……っ」
無茶な受け止め方をしたせいか、押される態勢になってしまう。
「ガイ……!おい、ガイ!!」
名前を呼ぶが、反応は無い。
ただわかるのは、本気の殺意。それだけだった。
「カースロットです!」
アニスの背中越しにイオンが仲間達に呼びかける。
「ガイはカースロットで操られています!どこかにシンクがいるはずです!」
イオンの言葉を受け、は周囲に気を配る。
だが、ガイはその隙を逃さなかった。
の双剣を弾き、鋭く切り込んでくる。
「っ!」
かろうじて剣の軌道を逸らせはしたが、一瞬後、頬に熱が走った。
「このっ……!」
続く二撃目を強く弾き返して、バックステップで距離を空ける。
「「魔神剣!」」
ガイはすかさず斬撃を放ってきた。すぐに同じ技で相殺する。

──やはりガイは強い。
何度か打ち合いはしたが、あれが本気でなかったことをつくづく痛感する。
周囲に気を回しながら戦えるような相手ではない。
ルークたちがシンクを探し当てるまで持ちこたえねば、と思うが、彼らもラルゴを相手になかなか動けずにいる。
どうにか、彼を殺さずに止める方法を考えなくては――
しかし、考えている間もガイは容赦なく打ち込んでくる。
「ガイ、止めろ……!」
鍔迫り合いのなかでは声を絞り出す。
「戦いたくない……!
アンタと、こんな戦い……したくないんだ!」


ガイとなら、上手く付き合っていけると思った――友人になれると思った。
正体がバレてしまったのが、ガイでよかったのかもしれない。


そんな風に思えるようになっていたのに――



「お願いだ、止めてくれ……」
キィン、と音が響いて蒼の剣が弾かれる。
一瞬、間隔が空いて、再びガイの剣が振り下ろされようとした――
「ガイ──!」


その瞬間、地面が激しく揺らいだ。


「また地震?!」
「ナタリア、上!」
皆が驚く中、ティアが木の上を見上げて呼びかけた。
ナタリアがすかさず矢を放ち、枝葉の影で何かが揺れる。
「!」
その瞬間ガイの動きが止まった。
「!」
はすばやく剣を逆手に持ち替え、柄の部分でガイの鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。
「――すまない。」
どさり、と崩れ落ちるガイの体を受け止める。
ルークたちの方を見やると、木の上にいたらしい、シンクが降りてきていた。
右腕にはナタリアが放った矢が刺さっている。
「やっぱりイオンを狙ってきたのか!」
「大詠師モースの命令?それとも主席総長?」
「同じことよ。俺達は導師を必要としている。」
「渡すと思っているのか。」
ガイを木の幹に凭れ掛からせ、が剣を握りなおす。
「今回ばかりは容赦しない。この場で完全に叩きのめす。」
珍しく怒りの感情を露わにするに、仲間達も驚いていた。
ピタリと胸の高さで止まる剣。
今にも戦闘が再開しそうな雰囲気の中、遠くから足音と人の声が聞こえてきた。
「何の騒ぎだ!」
視線をよこすと、マルクト軍の兵士がこちらへ向かってくるのが見える。
ち、と舌打ちしたのはシンクで、戦闘態勢を解き、
「ラルゴ、一旦退くよ!」
そう言い残して森の中へと消えていった。
「やむをえんな……」
ラルゴもそれに続き、その場にルークたちだけが取り残される。
「何者だお前達!」
駆けつけたマルクト兵はすぐに周囲を取り囲んだ。
「俺たちは……」
「カーティス大佐をお待ちしておりましたが、悲鳴が聞こえたので追ってきました」
いち早く冷静を取り戻したティアが問いに答える。
「悲鳴?」
「不審な人影もありました。神託の盾騎士団の者です。」
兵士はティアやアニスの軍服を見て、訝しげに眉を寄せた。
「だが、お前達の中にも神託の盾騎士団の者がいるな……怪しい奴らだ。連行するぞ。」
それぞれに兵士がつく。
「その男もお前たちの仲間か?」
気を失っているガイを指して兵士が訊ねた。
「ああ……俺が担いでいく。後は好きにしろ。」
はガイの体を抱え、ルークたちを振り返る。
「怪我はないな。このまま行くぞ。」
そう呼びかけた声は、普段よりも静かで低かった。



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 あとがき
これがやりたかった!戦闘好きの私にとってこのシーンはやりたくてしかたなかったシーンの一つです。
同じ技で相殺ってなんかぐっと来ませんか?
 2012 1 22   水無月