話のまとまったところで、ティアの祖父――市長のテオドーロに話を聞きに行くことになった。
「失礼します。」
ティアの案内で通された会議室には、一人の老人がいた。
何やら手元で書類をめくっている。
「おお、ティアか。ん?そちらは……」
順に名を名乗ると、テオドーロはじっとルークを見つめて、
「なるほど……キミがルークレプリカか。よく似ている。」
ぽつりと、そう呟いた。
「お祖父様、そんな言い方は……」
「いいんだ、ティア。
えと……アクゼリュスのことでは……ご迷惑をおかけしました。
す……すみませんでした。」
ずっと言うべきことを考えていたのか、言い終えるとルークは深く頭を下げた。
「顔を上げてください。
それに――アクゼリュスのことは、我らに謝罪していただく必要はありませんよ。」
「え……?」
「その口振りだと、当事者じゃないから……というわけではなさそうだな。」
は普段の冷静な口調で問う。
「起こることがわかっていた、と言っているようにも聞こえるが?」
「如何にも。アクゼリュスの崩落はユの預言に詠まれていました。
あなたの言うように、起こるべくして起こったのです。」
「何だって?!」
「どういうこと、お祖父様!」
ティアまでもが珍しく声を荒げた。
「私、そんなこと聞いていません!
それじゃあ……ホドと同じだわ!」
「これは秘預言。教団でも詠師職以上の者しか知らぬ預言だ。」
テオドーロはいたって冷静に話を続ける。
「だが、預言で最初から知ってる人間はいたってことだな。
……少なくとも市長殿、アンタはそうだ。」
表情には出さないが、も内心で小さな怒りが渦巻くのを感じた。
「わかっていたなら、どうして止めなかったんだ!」
そうしたら、死なずにすんだ人だって……!」
「それが問題なのですよ。
人は自分の死が詠まれると穏やかではいられなくなる。」
「当たり前だ!誰だって死にたくはない!!」
「この預言はかつてユリア・ジュエがオールドラントの繁栄を詠んだ七つの預言の一つ。
すなわちこの預言を遵守することでこの世界には繁栄が約束される。」
その繁栄を守るための道具が教団であり……
監視者としてユリアシティの人間がいるのだ――と、テオドーロは静かに告げた。







「すべて預言どおり、か。」
「だからって、あんなにたくさんの人が……」
「……ふざけた話だ。人の命をナメてやがる。」
ティアの部屋に戻るなり、三人は憤りを露にした。
「でも、セントビナーの崩落は預言に詠まれていないと言っていたな。」


――セントビナーのことを訊ねると、
『セントビナーの周辺は戦場として預言に詠まれている。崩落の心配はない。』
お前たちの杞憂なのだ。と答えて、テオドーロは会議に行ってしまった。



「戦場として読まれてるから、か。ふざけるのも大概にしろってんだ。」
「……でも、お祖父様が嘘をつくとは思えないわ。」
「戦争は起きて欲しいみたいがだがな。……正直、信用できん。」
は忌々しげに呟いてから、
「……すまない、言い過ぎた。」
隣で項垂れるティアの表情に気づいて、すぐに詫びた。


「――だけど、」
しばらく何かを考え込んでいたルークが、口を開いた。
「やっぱり俺、心配だ。
の言うように、戦争が起きるのかもしれないし……
セントビナーのこと、放っておけねえよ。
自分の目で確かめてくる。」
意志を固めた口調に、もああ、と頷く。
「俺もルークの意見に賛成だ。
崩落の心配がないというには、預言だけでは合理的な理由に欠けているからな。」
「となると、とりあえずはセントビナーを目指すか。ティアはどうするんだ?」
ガイが訊ねると、ティアも同じように軽く頷いた。
「私も行くわ。」
「大佐たちと合流しなくていいのか?」
「セントビナーのことは大佐も聞いていると思うから、向こうで会える可能性もあるわ。
それに、私もセントビナーを放っては置けないから。」
生真面目に答えるティアにはふ、と微笑む。
「満場一致だな。……あとは外殻大地に戻るだけか。
ティア、『ユリアロード』ってのはいつでも通れるのか?」
「ええ。道を明けるのに少し時間がかかるけど、すぐに通れると思うわ。」
「なら、明日通れるようにしておいてくれ。
一日あれば準備も済ませられるだろ。」
「すぐに行かないのか?」
「急いては事を仕損じる、というヤツだ。」
それに、とは少し間を置く。
「……裏で手を引いているのはヴァン・グランツと六神将だ。
できる限りの準備をしておくに越したことはない。」
「……師匠……」
師事し、尊敬していただけにその傷はまだ癒えるには遠いようだ。

「……よし、」
は腰の得物を確認して、腰を上げる。
「――ルーク、少し付き合え。」
「え?」
「人を助けるにしても、誰を相手にするにもお前はまだ力不足だ。
明日まで俺がみっちり鍛えてやる。
付け焼刃程度だが、しないよりマシだろう。」
「いや、でも……」
「お前の覚悟は聞いた。だが、それに見合う力がなければ意味がない。
死にたくない……死なせたくない……。そう思うのなら剣を取れ。」
静かな面持ちで告げて、はさっさと部屋を出て行った。
「お、おい!待ってくれよ!」





はシティのエントランスホールまでやってきた。
後からルークたちも追ってくる。
「ちょっと待ってくれよ!急に鍛えるとか言われたって……」
「いいから付き合え。うだうだ考えるのはお前のキャラじゃないだろうが。
ずっと横になってて身体も鈍ってるだろうし、そのままだとあっさりやられるぞ。」
「はー……わかった。付き合うよ。」
ルークは大きく溜め息を吐いて、自分の剣を確認した。
「よし。軽く振って慣らしておけよ。」
「ちょっと待てって。、キミだってまだ完全には回復してないだろ。」
軽く素振りを始めているに、ガイが諌めるように言う。
「病み上がりはお互い様だろ。
こいつの相手をするくらい、ちょうどいいリハビリだ。」
「だが……」
「無茶はしないさ。何だったらアンタがやるか?」
挑発的な口調に、ガイはやれやれ、と肩をすくめた。
「仕方ないな……二人とも、本当に無理はするなよ。」
「ああ。――それじゃ、始めるぞ。」
す、とは双剣の片方を構える。ルークも腰の剣を抜いて構えた。





キィン、と刃のぶつかり合う音が響く。
「もっと攻めてこい!腰が引けてるぞ!」
「はあっ!」
大きく振りかぶったルークの剣を軽く払い、がら空きになった胴に剣を突きつける。
「……一度、休憩するか。」
「あ、ああ……」
剣をしまい、体勢の崩れたルークに手を差し出す。
「よっと……本当に強いな、って。」
「当たり前だ。……とはいえ、人に胸を張って教えられるような腕でもないがな。」
額の汗をぐい、と袖で拭う。と、近づいてくる足音が聞こえた。
「二人とも、大丈夫か?」
歩いてきたガイは、ほら、と二人に水のボトルを放って寄越した。
「悪いな。」
「気にするなって。調子はどうだ?」
「まあまあだな。そこそこ基礎の形は出来てる。」
「屋敷での唯一の楽しみだったからなー。打ち込んだ甲斐があったぜ。」
「あとは実践での駆け引きを覚えればそれなりにやれるようにはなるだろ。」
「うーん……でも”それなり”か……」
項垂れるルークの肩を、ガイは苦笑まじりに叩く。
「仕方ないさ。とは圧倒的に経験の量が違うんだ。
それなりって言ってもらえるだけいいと思えって。」
「そういうことだ。
たかだか数年かじっただけの素人にあっさり追いつかれて、狼の二つ名が名乗れるか。」
ボトルの水を飲み干し、はもたれていた背を起こす。
「休憩はこのぐらいだ。次、行くぞ。」
「おうっ!」




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  あとがき
ツンデレ街道まっしぐらなヒロイン。
友情的な話は書いてて楽しいです。

  2011 11 3    水無月