子供の遺体を丁寧に埋葬していると、奥からルークとミュウがやってきた。
「気が付いたのか、ルーク」
「こ、ここは一体何なんだよ?何が起きたんだよ?!」
呆然とした様子で辺りの様子を見渡して、ルークは近くにいたティアに訊ねる。
「ここは、魔界と呼ばれている場所よ」
「魔界……?な、なあ、ヴァン師匠は?」
「……ここは、」
混乱するルークを冷ややかな目で見つめ、ティアが口を開きかける。
――その瞬間、大地ががくん、と大きく揺れた。
「っ?!」
「ここも沈んじゃうの?!」
「タルタロスに行きましょう。緊急時の浮標が作動して、なんとか持ちこたえています」
ギリギリまで遺留品や手がかりになるものを探そうとしたを、ガイが呼びに来る。
「も早く」
「あ、ぁ――」
もみんなに続いてタルタロスへ向かおうとして――
「ぐ……」
身体が上手く動かず、その場に蹲った。
「?」
「っ……は……」
全身が鉛を含んだみたいに重く、息苦しい。
どこが、というわけではなく、身体の中心からつま先まで、じわりじわりと速度を増しつつ蝕まれていく。
「?!おい、しっかりしろ!」
「す、こし……吸い……過ぎた……か」
「!おい、!!」
立ち上がることも出来ず、はとうとうその場に倒れこんだ。
――暗い海の底で夢を見る。
守れなかった命
壊れた誓い
今は遥か遠く、消えるように無くなった夢
――二度と、見ることはないと思っていたんだがな
「ぅ……」
救い上げるように意識が浮上する。
「――ああ、気が付いたんだな」
声のしたほうに視線を向ける。
ほっとした表情でガイがこちらを見ていた。
「ガイ……?ここは……」
「ユリアシティという街の医療施設だ。……どのくらいまで覚えている?」
はしばし考えて、口を開く。
「アクゼリュスが落ちて……生存者を探して……
……あの子供を、助けられなくて」
思い返して、は悔しさを噛み締める。
「……確か、あそこが沈む前にタルタロスに避難しようとしたんだったな。その辺りまでだ」
「大体倒れる直前までか……」
「あれから……どのくらいたった?」
「三日と半日だ。
ずっと意識が戻らないから、心配したよ」
本当によかった。とガイは口の中でもう一度呟いた。
「他のみんなは?」
「みんなは……」
ガイは少し間を置いてから、今までに起きたこと、聞いた話を順を追って説明した。
「魔界、セフィロトツリー、外郭大地……それにレプリカ、か」
難しい顔で呟き、は長く息を吐く。
「……正直、理解しがたいな」
「ああ、俺も話についていくのでやっとだった」
「だが――見てしまった以上、信じるしかないか」
崩れ落ちていく大地、眼下に広がる泥の海、薄暗い空に覆われた世界――
「……みんな上に戻ったんだったな。
ルークはどうしてる?」
「まだ眠っている。ミュウとティアが付いていてくれてる」
「そうか……」
は小さく頷くと、肘を付いて身体を起こそうとした。
「……っ」
が、身体はまだ重く、思うように動かない。
「無理するな!
……薬は効いてるが、身体にはまだ障気が残ってるんだ」
「……」
は拳を小さく震わせ、ゆっくりと横になった。
「歯痒いかもしれないけど、今は身体を直すことに専念してくれ。
……腹減ってるだろ。何か食べるもの貰ってくる」
ガイはそう言い残して部屋を出て行く。
少しして、入れ替わるように一人の女性が入ってきた。
「お目覚めになられたんですね。身体の調子はいかがですか?」
「……アナタは?」
は逡巡した後、女性に訊ねた。
「私はレイラといいます。
ティアにさんの看病を頼まれまして」
「ああ……」
そういうことか、とは安堵の息をつく。
「随分と無茶をしましたね。
あの泥の海に飛び込むなんて……」
「絶対に助けられるとは思っていなかった。
……ただ、性分でな。見過ごせなかったんだ」
生きようとするものが生きられないなんて、耐えられるか。
「俺の身体は……どうなってる?」
レイラは手元のカルテをめくり、そのうち一枚をに渡す。
「急激に大量の障気を吸い込んだため、ショック症状を起こしたようです。
幸い、吸い込んでから処置までが早かったので、臓器へのダメージはほとんどありませんわ」
「身体を動かせるまでどのくらいかかる?」
「このまま一週間から十日程度安静にしていれば問題ないと思います」
一週間、とは口の中で呟く。
「もう少し早く……長くても五日以内に……「無茶を言うな、」
諌める声は、ガイのものだった。
「君が強いことは知っている。
だが、今回は尋常じゃない無茶をしたんだ。これ以上すれば本当に死んでしまうぞ」
「自分の身体のことだ。自分で管理できる」
「!」
「あれだけのことが起きたんだ。こんなところで寝てられるか。
――これ以上、見殺しに出来るか!!」
珍しく声を荒げるに、ガイは言葉をなくす。
「うっ……ゴホッ……!」
声を出した反動で、も苦しげに倒れこんだ。
「?!」
「抑制剤を持ってきます、見ていて下さい」
レイラが部屋を出て行く。
部屋の中は二人だけになった。
「っ……く」
悔しげに握り締められた拳が小さく震えている。
「……今は、身体を治すことが先決してくれ。
もしまた無茶をしようとしたら、力ずくでも止めるからな」
ガイが諭すように言うと、は皮肉気に微笑った。
「出来るのか?」
「やってやるさ。
……命には代えられないからな」
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あとがき
そろそろ無茶のツケが回ってくると思った人、正解です(笑
最強ヒロインとはいえ、これで倒れなかったらチート。世界観崩壊します。
TOA既知の人しか読まないと思うので、魔界の説明とかはいいですよね……?
そのへんについての小話とかはまた書くと思います。
2011 7 18 水無月