「……鉱山が見えてきた。そろそろ峠の出口だ」
が山道の先を指差すと、アニスやルークはほっと表情を緩ませた。
「ここを出たらアクゼリュスはすぐ近くです」
「ああ、」
とガイが相槌を打つのとほぼ同時に、
パン!と乾いた音がの足元めがけて響いた。
「!」
反射的に足を止めると、頭上から続けて声が響く。
「止まれ!」
声のしたほうに顔を向けると、譜業式の銃を構えた女性――魔弾のリグレットが険しい目つきでこちらを見下ろしていた。
「ティア、何故そんな奴らといつまでも行動を共にしている」
「リグレット教官?!」
驚くティアに、リグレットは淡々と訊ねる。
「お前はこんなところにいるべきではない。私達と共に来なさい」
「それは出来ません。ここに来たのは教団の任務。……モース様のご命令です」
ティアも負けじと強い眼差しを向ける。
「六神将!お前たちこそ、イオンを攫ってセフィロトを回ってるみたいだが、何が目的だ?」
「――人間の自由と意思を勝ち取るためだ」
リグレットは的を射抜くような鋭い眼差しで、言葉を口にする。
「自由と、意思……?」
戸惑う仲間達の中で、はフン、と鼻を鳴らした。
「何を言い出すのかと思えば……とんだ妄言だな」
「なんだと?」
「人の自由や意思なんてものはな、誰かに勝ち取って与えてもらうようなものじゃない。
お前達はそれを何から勝ち取るつもりだ?」
「ユリアの預言――そして、預言による支配からだ」
「どういう意味ですか……」
「この世界は預言に支配されている。
人々は何をするにも預言を頼り、従って生きている。酷い者は食事の献立すら預言に頼る始末だ
おかしいと思わないか?これのどこに自由と意思がある?」
「リグレット、預言は人々が正しい道を歩むための道具にしか過ぎません」
「そうだよ。確かに預言は参考になるけど……そこまで酷くはないし」
「導師、あなたはそう考えていても、人々はそうではない。
現に、彼らは今も預言に従ってここにいるではないか。そうだろう?」
「それは……キムラスカ、マルクト両国の和平と繁栄のために……」
「預言を頼り、従って行動する――それが狂っているというのだ!」
リグレットの一喝に、アニスとナタリアが小さく身を竦ませる。
「――だがな、」
それと対照的に、静かな声でが口を開く。
「預言を捨てた者もいる。自分の道は自分で開くと、決めた人間がいることも確かだ」
「それは、自身のことか?・」
「俺もそうだが……そういう奴らは他にもいる」
まあ、数は少ないがな。
小さく笑って、はリグレットを見据える。
「そして俺たちみたいな人間を必要としている人々も、確かに存在している。
それでもお前達は世界が預言に支配されていると言うのか?」
「それは貴様達の視点から見た一方的な考えだ。
世界の大半の人間……そして国家を担う主たる者達は預言に従うことこそ正しいと考えている。違うか?」
はしばし黙ったままリグレットを見据えていた。
そして仲間達が見守る中、再度口を開く。
「……まあ、違わないな。
それに、本音を言えば俺も預言を頼っている人間は嫌いだ」
ガイの脳裏に、以前と交わした会話がよみがえる。
「……預言には、頼らないようにしている」
「俺はこの通り根無し草だからな」
「ガイは、預言を信じているのか」
「まぁ、ある程度はな。盲信しているわけではないが、その日を過ごす参考程度に、って感じだ」
「そうか……」
「は信じていないのか?」
「そういうわけじゃないさ。ただ、俺は預言を必要としていない。それだけだ」
そう、は『必要ない』と言っていた。
一瞬、自身の姿を偽っているからかと考えたが、どこか違う気がする。
「けどな、俺はこの世界が預言に支配されているとは思わない。
間違ってるだのどうだの議論する気はないが……」
その思考は、続きを語り始めたの声で途切れた。
「――ぶっちゃけて言うと、アンタ達のやり方が気に入らない。
アンタ達の勝手な理屈のせいでこっちは迷惑してんだ。
やりたけりゃ自分たちだけで勝手にやってろ」
そう言っては双剣の片方を抜く。
いつでもかかってこい、とその瞳が告げていた。
「……今は貴様らと戦っている暇はない」
銃は構えたまま、リグレットは一歩後ずさる。
「ティア、いつでもこちらに戻ってきなさい!」
そしてそう言い残すと、身を翻して去っていった。
「……魔弾のだけだったみたいだな」
気配が遠ざかったことを確認し、は剣をしまう。
「しかし六神将がこうも絡んでくると……一筋縄ではいかないだろうな」
「とはいえ彼らの計画が見えない以上、十分に注意する以外ないでしょう」
「それもそうだな……」
やれやれ、とは肩をすくめる。
「リグレット教官……」
皆が歩き始める中、ティアがポツリと呟く。
「対峙するのが怖いか?」
「……兵士としては失格ね」
「人として当然の感情だ。
俺でも、きっと師匠を相手にしたら剣が鈍る」
「そうなの?」
「ああ。ま、何年も前に逝った人だ。仮定の話だけどな」
急ぐぞ、と開いた距離を指しながら、はふと思い返した。
――そういえば、あの人と本気でぶつかり合えたことは一度もなかったな
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あとがき
に「ぶっちゃけ」と言わせたかった。
リグレット戦は戦わせるメリットがないので書きませんでした。
教官にはとのガチバトルをやってもらいたいです。
いよいよアクゼリュスですよ!
2011 7 18 水無月