翌朝――
ルークの体調もすっかり元通りになり、一行は領事館へ向かうことにした。
「俺はギルドで依頼の引き受け手続きをしてくる。港で落ち合おう」
「それなら、俺も一緒に行っていいか」
がそう言うと、意外な申し出があった。
「ガイ、お前ギルドになんて興味あったのか?」
ルークが訊ねると、ガイは苦笑をこぼしながらをちらりと見る。
「そりゃ、あれだけいろいろ聞かされればな。
どんなところか一度くらい見てみたいと思うさ」
「……別に面白く無いぞ」
酒の勢いではあったが、言ったことは大体事実なのでも言い返せない。
それでも自分に直接関わることを漏らさなかったあたりはしっかりしている、
とガイはこれもまた感心していた。
「かまいませんよ。現在の状況の確認と乗船の手続きだけですから」
「のことも、話を通しておきましょう」
「悪いな」
ギルドカウンターは昨夜の酒場のすぐ近くに設けられていた。
狭い建物にはとガイのほかに数人、傭兵や商人らしき姿がいくつかあった。
「クラスナンバーxxxx、・。
向かいのマスターからの紹介がきてるはずだ」
受付の男は手元の書類を何枚かめくり、小さく頷いた。
「アクゼリュス鉱山内部の調査……で、間違いないな?」
「ああ」
「了解だ。
……しかし、アンタがこんな小さい仕事引き受けるなんて珍しいな」
「たまにはな。
手数料は好きなだけもっていけ。もともとたいした額でもないだろう」
「ワケありか。まあいい」
男は二枚の書類に判を押し、片方をに渡した。
「期限は半月だ。せいぜい障気に当てられないようにな」
男の言葉を背中で流し、は建物を後にした。
とガイが港に着いてから程なくして船がやってきた。
「ヴァン師匠は先にアクゼリュスへ行ったってさ」
「僕たちも急ぎましょう。船はすぐに出してもらえるそうですから」
「わかった」
船が出発すると、一行はまず客船の食堂に集まった。
「とりあえず何のトラブルも無く乗れたな」
「ここにくるまでが十分トラブルだったがな」
は地図に視線を落としつつ水を差してやる。
「船はカイツールまでだったな。その後はどうするんだ?」
目的地に着くまでの先導はとジェイドが主になる。
ジェイドはしばし考えを巡らせた後、地図の一点を指した。
「北東にあるデオ山脈を越えましょう。
カイツールから向かうにはそこしかありません」
ジェイドの言葉に、はう、と顔をしかめる。
「越えるって……道わかるのか?」
「かつては山道として使われていましたし、その名残くらいはあるでしょう」
「どういうこと?」
アニスが二人を見上げて訊ねる。
「デオ山脈の山道ってのは今はもう使われていないんだ」
「何でだ?」
「元々アクゼリュスがキムラスカ領だったことに使われてた道だからだ。
前に一度土砂崩れがあったとか聞いたが……それでも人の手が入らなくなってんだ。
道が生きてるか……あっても相当荒れてるだろうな」
げんなりとはため息を吐く。
「けどまあ、マルクト側の道が使えないんじゃ仕方ないさ」
「……だな。山なんてさっさと越えちまおうぜ。
急げば師匠に追いつけるかもしんねーし」
「ああ。どちらにせよカイツールまでは一日かかる。
しっかり体を休めておけよ」
割り当てられた船室は二人で一部屋だった。
もう仲間内ではすでに『ガイ=友人=』といった等式が成り立っているらしい。
自然と二人は同じ部屋に当てられた。
「やれやれ……面倒なことになりそうだな」
ギシ、と音を立てるパイプ椅子に凭れ、は呟く。
「そんなにキツイ道なのか?」
「昔、一度だけ通ったことがあるが……
あそこはもともと山の勾配が急なんだ。道自体は整備されていたが、それも今じゃな……
普通に通れたらラッキー、ぐらいに思っといたほうがいい」
「前途多難、って顔だな。
まあウチにはその手に疎いのもいるし、俺たちが気をつけるしかないか」
「……はあ」
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あとがき
船でのひととき。
ちょっとヒロイン設定のページもいじりましたが、お酒強いです。
酒場から帰った後ガイに付き合わせるほど飲んでたのにけろっとしてます。
お酒の話はまた書いてみたいです
2011 7 18 水無月