夜が明けた
手早く荷物をまとめ、出発の準備を整える。
「ケセドニアまでは半日もかからない。
街に着けば施設で休める。少し急いで行こう」
さすがに連日砂漠を動き回るのは疲れたのか、特に異議も無く、一行は出発した。
「街が見えてきましたわ!」
ナタリアが遠くに見える建物を指差す。
急ぎ足といっても砂漠に不慣れな者が多いため、街に着く頃には日が傾き始めていた。
「やっと着いたぜ。
もう暑いのも埃っぽいのもうんざりだ」
街に入って、ルークが気だるそうに零す。
「船の手配はいいのか?」
は背後のジェイドを振り返って訊ねた。
「ええ。それはこちらのほうでしますので。
ところで……本当によかったのですか?」
何が、とは言わずジェイドが問う。
「……ん、まあな」
は小さく頷く。
――オアシスを発つ直前、は皆を集めた。
『俺もアクゼリュスまで同行させてもらう』
『それは心強いけど……でもどうして?』
はしばし考えてから、理由を答えた。
『……ま、アクゼリュスのことはギルドでも以前から問題になっていてな。
どうせならここらで少し様子を見ておこう。というわけだ。
多分依頼も出ている頃だろうから、それを引き受けて、と言う形になるが』
『まあ、こちらとしては一向に構いませんが……
国からの任務とされている以上、契約は出来ませんよ?』
『俺が勝手に着いていくだけだ。
たまたま目的地が一緒だった。そういうことにしといてくれ』
「船にはどこから乗るんですか?」
「マルクト側の港だろう」
「ええ。領事に言えば出してもらえるはずです」
「ふーん……んで、船ってのはすぐに出んのか、――……っ?!」
突然、気だるそうにしていたルークが頭を抱えてうずくまった。
「ルーク?!」
「っ……また……か……!」
「このごろ頻繁になってきてるな……大丈夫か?」
「……ああ」
少したつと、ルークはゆっくり立ち上がった。
「大丈夫。収まってきた」
「少し休むか?」
「ああ、そのほうがいい」
「……わかった」
頷いたルークの顔にはまだ若干疲労の色が残っている。
「ここなら俺の家のほうが近いな。……案内する」
街からやや外れた方角を指してが提言した。
「いいのか?」
「今はあまり人目につきたい状況でもないだろう。
それに、気になることもあるしな。話し合うにもいい機会だ」
「そうですね。では、お言葉に甘えさせてもらうことにしましょう」
満場一致。小さく頷いて、は先頭を歩き始めた。
にぎやかなバザーの脇を通り過ぎ、質素な造りの家が立ち並ぶ通りに出る。
「この辺りはずいぶんと人が少ないんですのね」
「ああ……ここらに住んでるのは、船乗りや傭兵稼業をしてる奴だからな」
「どういうこと?」
「家にいる時間が少ない奴らってことさ。一年のほとんどを他の街や移動で過ごしてる。」
「まあ……ご家族の方はいらっしゃらないんですの?」
「いたら、もっとまともな仕事をしてるさ。
……ま、たまにいるけどな。傭兵やって家族養ってるってのも」
そんなやりとりのうちに、の”家”が視界に入ってきた。
「あそこだ。
ルーク、大丈夫か――……」
後ろを振り返ったは、ルークの様子を見て眉をひそめる。
「おい、ルーク……」
「っ……う、るさ……い……」
「ルーク?」
ティアが声をかけようとすると、ルークは苦しそうに額を押さえて、片膝をついた。
「ルーク?!」
明らかに様子がおかしい。
まるで、見えない何かに抗っているようだ。
「や……やめろォッ……!!」
そして、最後の足掻きとばかりに声を上げて、ルークはその場に倒れこんだ。
「ルーク!
……どうなってるんだ?」
「何とも言えないな……大佐、どう見る?」
「……ひとまず彼を安静な場所へ。話はそれからにしましょう」
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あとがき
な、難産だった……orz
前回からどう繋げようか悩んだ結果がこれだよ!
んで、傭兵やって家族養う人の代表→ラルゴ
次はお家編ですw