「見えたぞ。出口だ」
先頭を歩いていたガイが光の先を指差す。
「ようやく外に出られますわね」
「う〜ん、暑くっても砂だらけで埃っぽくってもやっぱり外が一番!」
「まだ油断はするなよ。完全に遺跡を離れるまで安全とはいえない」
「そういうことですね。とりあえずオアシスを目指しましょう」
オアシスに着くころにはすっかり日も傾き始め、そのままオアシスで夜を明かすことになった。
「夜が明けたらケセドニアへ向かおう。
街までは少し距離がある。ここでゆっくり休んでおいてくれ」
ようやく一息つけて、皆の表情に安堵の色が浮かぶ。
「念のため、俺は周りを見てこよう」
「大丈夫だと思います。おそらく今は彼らは追ってきません」
剣を手に立ち上がったを、イオンが止める。
「どういうことだ?」
「はっきりとはいえませんが、ここでの目的は多分果たしたのだと思います」
「彼らはあなたに何をさせていたのです?ここもセフィロトなのですか?」
「……はい。
セフィロトにはダアト式封咒という封印が施してあるのですが、彼らはそれを解くようにと……」
「どうしてセフィロトに封印を?」
「それは……教団の機密事項なのでお話は出来ません。
でもあの封印を開いたところで、彼らには何も出来ないはずなのですが……」
「妙な話だな……六神将は何をしようとしてるんだ?」
が再び腰を下ろし、思案顔になる。
「彼らの目的は、僕にもわかりません。
すみません……僕が油断したばかりに皆さんに迷惑をかけて……」
「何を仰られるのですか!大事に至らなかったとはいえ、このような目に遭わせてしまって……」
「いいのですよ、ティア。
みなさんも本当にありがとうございます」
「気にするなと言っただろう。
それより、イオンはこれからどうするつもりだ?」
「六神将の目的がわからない以上、彼らにイオン様を奪われることは避けるべきでしょう」
「ああ、そうだな。
イオンを助けると言った手前、安全な所まで送るくらいなら付き合うが」
「いえ、もしご迷惑でなければ、僕もアクゼリュスへ連れて行ってもらえませんか?」
「イオン様!モース様が怒りますよぅ!」
「僕はピオニー陛下から親書を託されました。
ですから、アクゼリュスのことも自分の目で見て、陛下にお伝えしたいと思います」
「、あなたはどうしますか?」
「ん?俺か。俺は……」
ジェイドに訊ねられ、はしばし考え込む。
六神将の真意は不明だが、ここまで来た当初の目的は果たせた。
特別ルークたちと行動を共にする必要は無いわけだ。
「一緒に来てはくださいませんの?あなたのような方がいてくださると道中心強いですわ」
ナタリアが言うと、は驚いたように目を見開き、それからふ、と笑みをこぼした。
「驚いたな。あなたにそんな期待をされるとは」
「えっ?」
「俺が国王からの依頼を蹴ったのは見てただろう?
仮に俺が着いていくと言ったら反対されるだろうと思っていた」
「いいえ。私、あなたの事を誤解していましたの。
初めは冷たい方だと思っていましたけれど、共に戦ってみてわかりましたわ。
真っ直ぐな強さと、気配りの出来る優しさを持ってらっしゃる方だと」
「そこまで言われると照れくさいが……王女殿下に褒めていただけるとは光栄だな」
ナタリアの言葉に他意は感じられない。
父親とはまた違う思いを彼女の中に感じた。
「そうだな……とりあえず保留って事にさせてもらおう。
ケセドニアからカイツールまでは船だったな?
街を出るまでには決めておく」
「わかりました。……っと、決めるのは親善大使様でしたね」
ジェイドが傍らで気だるそうにしていたルークに話を振る。
「あーもー好きにしやがれ!俺は疲れてんだ」
「なら、そうさせてもらうか」
投げやりな態度のルークをちらりと見て、はそのまま話を打ち切った。
前の日と同じようにが野営場所を確保してくると、女の子達がなにやら話し合っていた。
表情から、何かに困っているようだと判断する。
「どうかしたのか?」
「あ、」
「何か困っているなら言ってくれ。ここのことなら詳しい自信はある」
「べ、別に大したことじゃないの」
「でもこの際だし言ってみようよ〜
ならこの面子の中で一番安全じゃん」
「そうかもしれませんが……やはり殿方の前では……」
「?」
なにやらぶつぶつと考え込む三人には疑問符を浮かべる。
「まあ、余計なお世話ならそれでいいんだが」
「あー待って!」
野営の支度に戻ろうとすると、アニスに引き止められた。
「あのさ、あそこの地面から沸いてる水って使っていいの?」
「誰の物とも決まっていないし、かまわないと思うが……どうしてだ?」
「んっとさ、この砂漠の中歩いてきて服の中がざらざらして気持ち悪くって」
「ああ、そういうことか」
水を浴びたいという気持ちはわからなくも無い。
みんな砂漠を歩くなんて初めてだろうし、のように砂の入りにくい服を着ているわけでもない。
特に三人ともお年頃の女性だ。余計に気になってしまうのだろう。
「なら少し待っていてくれ」
はそういうとオアシスにいた人何人かに声をかけ、戻ってきた。
「自己管理、自己責任の上でならかまわないとさ」
「ホント?」
「ああ。俺が見ているから、そこの譜石の影で好きなだけ浴びてきな」
「ありがとう、!」
わーいと嬉しそうなアニスに続き、ティアとナタリアも水源のほうへ向かう。
女性陣はそこそこ仲が良さそうでなによりだ、とその背中を見ては内心呟いた。
「……ん?女の子達はどこいったんだ?」
食事の片づけをしていたガイが戻ってきて訊ねる。
「水浴び。許可はもらってある」
「ああ、すごい砂だしな」
「ガイたちも後で浴びてくるといい」
「それはありがたいな。
じゃ、女の子達が上がってくる前にもう一仕事しとくか」
「まだ何かあったのか?」
「食材とかグミの買出しリスト。
ケセドニアで結構買い足す必要がありそうだからな」
「そうか」
ふ、と一息ついてはガイの向かいに腰を下ろした。
「――」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
「ありがとな。いろいろと」
「どうした?突然」
「ここまで着いてきてくれただろ」
……ああ、とは低く呟く。
「乗りかかった船というやつだ。切りのいいところまでは付き合うさ」
「でも、バチカルに何か用事があるんじゃなかったのか?」
「ああ……まあな。
とりあえず今のところそこまで急ぐ必要も無いから大丈夫だ」
「そうか。それならよかった」
ガイはほ、と安心したように頬を緩ませる。
「がいてくれて助かったよ。
ルークやナタリアもいるし、安全に砂漠を超えれるか心配だったんだ。
グランツ謡将ともしばらく別行動だしな」
「なるほど。ルークがうるさいわけだ」
「まあ、アイツにとって謡将は憧れそのものだしな。
気が急くのもわかるんだよ」
「そんなものなのか」
「は誰かに憧れたりとかしなかったのか?」
「憧れ、か……なかったわけではないな」
はふ、と表情を緩ませ、おもむろに立ち上がる。
「?」
「少し辺りを見てくる。
火は始末しておくから、ガイは先に休んでてくれ」
「それなら俺も付きあおうか」
「いや、いい。一人で大丈夫だ」
ガイの申し出をやんわりと断り、その場を後にする。
ぱちり、と背中で小さく炎が爆ぜた。
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あとがき
さてホントにどうしよう(汗
この後ヒロインがどうするのか実はまだ考えがまとまってません;;
どうにかしてルークたちと一緒にアクゼリュスへ連れて行かないと……
ヒロインはちゃんと女の子の気持ちもわかります。だって女だし。
水浴びがらみの話も書きたかったので結構満足です。
でもこれからどうしよう。
2010 3 3 水無月