「――この先がザオ遺跡だ。
俺も何度か調査に同行したが……未だ解明されていない部分も多い。
油断はするなよ」
陽炎に揺らめく遺跡を指し、はルークたちを振り返る。
「ここはどういった遺跡なの?」
「古代都市やら神殿やら……そもそも昔このあたりは砂漠ではなかったらしいな」
「へ?そうなの?」
「何らかの天変地異で砂漠と化したとか……諸説あるが、なにせ調べる手立てとなるものが少ないんでな。
ここは昔何かの都市があって、何らかの理由で砂漠になってしまった。
わかっているのはそれだけだ」
「さすが砂漠の銀狼、だな。ここらのことならお手の物か」
「仕事柄さ。なんにでも知識は必要だからな」
遺跡の入り口に立ち、は譜石に明かりを灯す。
「発掘の影響もあって足場が悪い。気をつけろよ」




コツ、コツ、と暗い遺跡に複数の足音が響く。
を先頭に、一行は遺跡の奥へと進んでいた。
「何だってこんなところにイオンが……」
暗く、先の見えない遺跡の奥を見つめながらルークが呟く。
「六神将に連れ去られたことは前にもあったな……
奴らの一連の行動には何か関係があるのかもしれない」
「ええ。何かあると見て間違いないでしょう。しかし……」
考え込むとジェイドに、痺れを切らしたようにアニスが声を上げた。
「そんなの後で良いじゃないですか!
早くイオン様を助けないと……こんなところに連れてこられて、きっと辛い思いをなさっているはずです!」
「そうだな。悪かった。先を急ごう」





魔物を倒しながら、古い遺跡を奥へ奥へと進んでいく。
「そろそろ一番奥のはずだが……」
「みんな、あれを見て!」
ティアが暗がりの奥を指差す。
「!」
暗がりに浮かび上がる二つの影。
皆の表情が険しくなる。
「六神将――!」
奥にいたのは、六神将のシンクとラルゴだった。
その背にはイオンとアッシュの姿も見える。
「ここで何をしてる。どうも遺跡の調査には見えないが?」
「アンタたちに教えてやる義理はないね。
こっちは今取り込んでるんだ。さっさとお引取り願おうか」
「そういうわけにはいかないな」
「シンク、ラルゴ!イオン様を帰して!」
「そうはいかない。コイツにはまだ働いてもらわなきゃね」
「やはり交渉しても無駄か……」
が剣を抜き、それに合わせて全員が武器を構え、臨戦態勢に入る。
「どうやら穏便に事を済ませる気はなさそうだな」
「そっちが言えた台詞か。――行くぞ」
舞い上がる砂に包まれて、両者が激突した。





「はっ!」
「やあっ!」
砂に埋もれた地下の空間に響く剣戟の音。
相手はさすがの六神将だけあって、ただ数で押すというわけにもいかない。
「ふんっ!」
「きゃあっ?!」
鎌で大きく薙ぎ払われ、アニスがトクナガごと吹き飛ぶ。
ち、と内心舌打ちし、は返ってくる重たい一撃を双剣で止める。
「どうした狼。お前の実力、その程度ではなかろう!」
「はっ……ずいぶんと高く見てもらって。嬉しいね」
「無駄口を叩ける程度には余裕ということか。――ならば!」
の剣を弾き、ラルゴは大きく踏み込んで技を放つ。
「地龍吼破!!」
「くっ――」
うねるような斬り上げをすんでのところでかわし、慎重に間合いを取る。
――そう容易く倒れてはくれないか、
内心呟いた瞬間、斜め後方から風のような殺気を感じた。
、危ない!」
声とともに突き飛ばされ、地に倒れる。
ほぼ同時に、シンクの鋭い一撃が頭上を掠めた。
「大丈夫か?」
「ああ、すまない」
を突き飛ばし、一緒に倒れこんだのはガイだった。
一瞬正体がバレてしまったかと不安がよぎったが、表情から察するに気づいてはいなさそうだ。
「さて……どうするか」
気づけばガイと背中合わせになり、シンクとラルゴにその前後を挟まれる形になっている。
ルークたちは負傷していて、ティアとナタリアが二人がかりで治癒に当たっていた。
「はは、所詮数だけで大したことないね」
「譜術が使えねば、死霊使いもこの程度か」
ざり、と二人がそれぞれの間合いに詰めてくる。
「譜術、ねえ……」
はポツリと呟き、背後のガイを剣の柄で小突く。
?」
「俺が隙を作る。合図したら、ガイは後ろに下がってくれ」
「しかしそれだと……」
「隙を突いて奇襲できれば勝機はある。
3カウント後だ。いくぞ――」



1、
ちゃき、とが剣を握りなおす。


2、
ラルゴとシンクが攻撃の構えに入る


3、
ガイが半歩後ろに下がる




「――今だ!」
が叫ぶと同時にガイが後方へ跳躍する。
そしては、手に持っていた双剣をラルゴとシンクの足元めがけて放り投げた。



「炎熱・降雷!!」



すさまじい爆風が、地面の砂を豪快に吹き飛ばす。
その衝撃は拳ほどの瓦礫を破壊し、強烈な熱風がその場を吹き荒らした。
「なっ?!」
「くそっ――」


「遅い」
先ほどの一撃で怯んだシンクに、灰銀の影が襲い掛かる。
シンクがすかさずガードの構えを取るが、は勢いに乗せて全体重をかけた強烈な蹴りを放った。
「くっ!」
大きく蹴り飛ばされたものの、シンクは空中で受身を取り、そのままに反撃する。
は低い姿勢で地面に刺さった剣を抜き、突っ込んでくるシンクを迎え撃った。
「はっ、なかなかやるじゃないのさ」
「あれを喰らってまだその余裕か。たまったもんじゃないな」
虎の子の一発だ。それなりにダメージはいくと思ったが。
「だが――」
隙は突いた。奇襲は成功だ。
「ここからはそうはいかない」
呟きと同時に、シンクの足元に譜陣が浮かび上がる。
「!」
「燃え盛れ、赤き猛威よ――イラプション!」
譜陣から熔岩吹き上げ、シンクを襲う。
「ちっ、死霊使いか!」
「あのまま後ろで見ていても良かったんですけどねぇ。
十分すぎる時間を稼いでいただいたので、出しゃばってみました」
いつの間にかの後方に立っていたジェイドが、おどけたように肩をすくめて見せる。
!」
直後、声とともにの足元に何かが飛んできて、勢いよく地面に刺さった。
朱の輝きを放つ、双剣の片割れ。
ちらりと視線をやると、他の仲間達も回復し、ラルゴを相手に善戦している。
そして、剣を投げたであろうガイは親指を立ててこちらに合図を送っていた。
ふ、と意識せず笑みがこぼれる。
「さて、第二幕の開幕といこうか。烈風の」
地面に刺さった剣を抜き、二刀の構えに戻る。
再び、両者が激突した。




「はあっ!」
「ふっ!」
小柄な体躯から繰り出される連撃を双剣で裁いていく。
「疾風雷閃舞!」
「爪竜連牙斬!」
互いの技と技が相殺し合い、その衝撃で大きく間合いが開く。
、伏せなさい!」
ほぼ同時に、ジェイドの手のひらから譜術の光が走った。
「大気の刃よ、切り刻め!タービュランス!」
「くっ!」
シンクの体が撃ち上がり、再び大きく吹き飛ばされる。
形勢は逆転。押し切れる。
が剣を構えなおしたとき、奥の影がゆらりと動いた。
煌く焔の色
それは他の誰でもない、ただ一人を狙っていた。



「――よけろ、ルーク!!」


ぶつかり合う剣

向かい合う二つの”焔”

一瞬にして、場の空気が変わった。

「鮮血のアッシュ――!」
何とか剣を止めたルークは、たたらを踏んで踏みとどまる。
だが、その瞳には驚愕の色が浮かんでいた。
「お、俺と……同、じ……」
「当たり前だ!俺はっ……!」
怒号とともに再び振り下ろされるアッシュの剣。

「アッシュ!」
それを静止したのは、六神将のシンクだった。
「熱くなりすぎるなと言ったはずだ。剣を収めな」
「……ちっ」
アッシュは忌々しげにルークを睨み付けると、小さく舌打ちして指示に従った。
「次はアンタたちだ」
強く打ち付けたのか、肩を押さえながらシンクがこちらに向き直る。
「取り引きをしようじゃないか。
こっちは導師を渡す。その代わり、ここでの戦闘は打ち切りだ」
「そっちで攫っておいて、ずいぶんな言い方だな」
「フン。どうするんだ?取り引きに応じないのか?」
「このままお前らをぶっ潰せば、そんな取り引き成立しないな」
ガイが武器を構えなおす。
確かに、こちらが優勢なのは変わりない。
いくら鮮血のアッシュが無傷といえど、多勢に無勢で押し切れば可能性は大いにある。
「いや……ガイ、待て」
だがはガイを制止し、何かを問いかけるように六神将に向き直った。
「さすがにお前は飲み込みが良いようだな」
「この手の地形で戦う場合、最も懸念しなければならないことだ」
の瞳がす、と細くなる。
「どういうこと?」
「この遺跡は砂漠の地下にあり、今いる場所はその一番奥だ。つまり……」
「そう、アンタたちを生き埋めにすることも出来るんだよ。導師もみんな一緒にね」
皆の表情が険しくなる。

「……わかった」
そんな中、逸早く剣を収め、口を開いたのはだった。
「取り引きに応じよう。
ただし、戦闘の打ち切りは導師が無事こちらに渡ってからだ」
「いいだろう」
アッシュに促され、イオンがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる、。
「イオン様!」
「すみません。迷惑をかけてしまって……」
「気にするな。さて……」
イオンを迎え、は再び六神将に向き直る。
「そのまま外へ出ろ。
途中で引き返してきたら、迷わずこの遺跡を沈めてやる」
「……わかっている」
を殿に、一行は遺跡を出口へと引き返した。




  ※は「砂漠マスター」の称号を手に入れた!※


   BACK    NEXT

―――――――――――――――――――――
 あとがき
遺跡来ましたー。戦闘めっちゃかけて楽しかったですwww
ヒロインが言ってることとやってること矛盾してるのはスルーで。
双剣投げるネタはFateの映画見て思いつきました。
あとわかりづらいので補足させていただきますと、
リアの剣の爆発→炎のFOF発生→ジェイドのロックブレイク+FOF=イラプション
てな感じです。わかりづらくてすみません;;
技は考え付かなかったので他シリーズのものをちょっぱってきます。
あと久々の称号!わ、忘れてたわけじゃないんだからねっ!!
  2010 3 3  水無月