「はっ!」
朱と蒼の双剣が閃く
分散して戦う仲間達を気にかけつつ、は砂漠の魔物を次々に仕留めていく
「はうあっ?!」
「アニス!」
背後で聞こえた悲鳴にいち早く対応し、は倒れ込むアニスを受け止めた
「大丈夫か?」
「うん。ありがと、
すぐさま体勢を立て直し、アニスは目の前の魔物を一掃。
は他の仲間のサポートに回った。
「――ふぅ」
カチン、と剣の鍔が鳴る
襲いかかってきた魔物を倒し、とりあえず一息つく
「大丈夫か、」
砂漠では暑さと足場の悪さで体力を消耗しやすい
はまめに仲間達の体調を伺いつつ、オアシスへと案内した。




ざり、と踏みしめる大地の感触が少し変わってきた
「砂漠が近いな」
「ザオ砂漠か……抜けるのにどれくらいかかるんだ?」
「街へ抜けるだけなら一日もあればつくだろう。だが……」
「イオン様……大丈夫かなぁ……」
ちらりと女性陣の横顔を見て、は言葉を続ける。
「……今からなら日が沈む前にオアシスまでたどり着ける。
今夜はそこで休んで、夜が明けたらザオ遺跡に向かおう。」
「んなちんたらやってたら余計に師匠を待たせちまうじゃねーか。もっと速く進めねーのかよ」
「進みたければ進めば良い。
途中で干し肉になって魔物に食われても俺は責任を持たないからな。
お前をバチカルまで護衛するという任務はすでにやり遂げた。
今はお前を守る義理も理由もない」
好きにしろ、とは冷たく言い放つ。
するとナタリアが、に負け怖じしない強気な態度で言葉を挟んだ。
「ですが、少し急いでもよろしいのではなくて?
そうしている間にも導師の身が危険にさらされているのですから」
はふむ、と少し間をおいて、それから言葉を返す。
「イオンの身を案じるのはもっともだが――
今イオンを助けに行けるのは俺たちだけだ。
その俺たちが無茶な進み方をして途中で倒れでもしたら、イオンはどうなる?」
「あ……ごめんなさい。私、そこまで考えが至らずに……」
「謝らなくても良い。誰かの身を案じ、それを行動に移そうとする。
あなたの意気込み、見せていただいた。ナタリア王女」
先ほどの冷たい視線とは打って変わって穏やかな表情に、ナタリアはまあ、と感心したように目を見開く。
そしては言ってからはっと気づいたように咳払いをして、
「……っと、そういえばあなたは王女であられたな。
つい素の言葉で話してしまいました。ご無礼をお許しください。」
言葉遣いを改めると、深々と頭を垂れた。
「かまいませんわ。今は王女の身分を隠していますもの。
どうぞ、私のことはナタリアと呼び捨てになさってください。」
「なるほど。なら、そうさせてもらおう。」
はそう言って頷くと、再び前方――砂漠の方向に向き直った。
「少し時間を使ってしまったな。
急ぐか。オアシスはここから東の方角だ」




「……にしても暑いなー。体中砂だらけだし」
「砂漠ってのはそういうものだ」
淡々と言葉を返しつつ、は背後を振り返る。
ジェイドとガイは大丈夫そうだが、女性陣はだいぶ暑さにやられているようだ。
やられているのはルークも同じだが、無駄口を叩けるだけの体力が残っているならよし、と判断し、は一度立ち止まる。
「ティア、ナタリア、アニス、大丈夫か?」
「え、ええ……なんとか」
「大丈夫……ですわ」
「うん……」
やはり返事に元気がない。
「あまり無理はするなよ。こまめに水分は補給しておけ。
足りなかったら、これも飲んで良いからな」
「でも、それはあなたの水でしょう?
私たちが飲むわけにはいかないわ」
「そうですわ。砂漠に入ってからずっと戦闘にも参加しているでしょう。
あなたも疲れているのではなくって?」
「俺は慣れているからな。多少飲まなくても大丈夫だ」
の差し出した水筒を受け取るべきかティアたちが迷っていると、
「んじゃ、遠慮なくもらうぜー」
ルークが横からの水筒に手を伸ばしてきた。
「暑いし喉カラカラ……「お前は後だ」
すんでのところで腕を引っ込め、はルークの手をかわす。
「何すんだよ!」
「あまったらわけてやる。ただし彼女たちが優先だ。
治癒術師はパーティの命綱だってのがわからないのか」
「ちっ……わぁーったよ」
ルークが手を引っ込めると、はティアたちの水筒に少しずつ水を分けてやった。
「これでよし、と……ガイ達は大丈夫か」
「ああ、大丈夫だ。こそ、無理するなよ」
軽く頷き、は顔を上げて前方を指す。
「このまま行けば日が傾く頃にはオアシスにつける。行くぞ」






の宣告通り、少しずつ日が低くなり始める頃、遠くぼやけていたオアシスがはっきりと視界に入ってきた。
「今日はここで夜を明かすか。
まずは休める場所を確保だな」
オアシスについてほっとする一行に、は声をかける。
だが、「それでいいな?」と続けようとして、は口を紡いだ。
体力のあるガイやジェイドは大丈夫そうだが、ルークを始めとする若者組はへばっているのが一目でわかる。
「……場所の都合は俺がつけてこよう。
みんなは先に水源で休んでいてくれ」
はそういって水源の方向を指し、一人別の方へと歩いていった。
「んじゃ、さっさといこーぜ。もう喉がカラカラなんだよ」
「そうだな。ここはに任せておくか」
先に歩き出したルークに続き、ガイも水源へ向かう。



少し遠くなったの背中を、ガイは一度だけ振り返った。
黄金の砂原に相対するような鈍色の出で立ち。
なのに、一人で佇むその背中は、砂漠の一部のように溶け込んでいる。
その姿が、バチカルに着くまでのとはどこか別人に見えてならなかった。







「…………」
ぱちり、と焚火の炎が小さく爆ぜる。
は砂に突き立てた剣に体重を預け、す、と瞳を閉じた。
肌に馴染んだ砂漠の風が頬を撫でていく。
一人寝ずの番を引き受けたは、傍らで眠りに突く仲間達を横目で見、やり場のない想いをため息にして吐き出した。

――砂漠の夜は、嫌いだ。
 忌まわしい記憶ばかりが蘇ってくる。

 大切な人を失った
 自分の手を血で染めた

夜の砂漠は心を持っていかれそうなねっとりと深い闇を孕んでいる。

す、と瞳を閉じた刹那、目の前が真っ赤に染まった。
「!!」
慌てて、自分の手のひらを覗き込む。
「あ――」
グローブの下は、所々に傷の見られる女の手だった。無論、血などついていない。
「幻覚……いや、夢か……」
目の前が真っ赤になった瞬間、いくつ物出来事が脳裏を掠めた。
何年経とうと消えることのない傷がじりじりと疼く。
「……ああ」
雲一つない星空を仰ぎ、は小さく呟く。


――だから、砂漠の夜は嫌いだ




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 あとがき
多分ザオ砂漠は結構広いので渡るのに時間かかるだろうなー
という考えから生まれました。
あとこの作品では長髪ルークはこの上なくウザいです。
是非苛々してくださいww

 2010 3 3  水無月