「はあ……」
第五音素の譜石の僅かな明かりを頼りに、廃工場を奥へと進む
魔物は大したことはなかったが、視界の悪さと足場の不安定さで慎重に進まざるを得ない
ルーク達を心配してきた以上、早く追いつきたいと気ばかりが焦ってしまった
「どこにいるのやら……」
彼らが通ったであろう軌跡を探しつつ進むが、いっこうにその姿は見えてこない
先に行ったナタリアの背中すらも見えていない始末だ
「まったく……何をしてるんだか、私は……」
独り言ちて、錆び付いた梯子に手をかける
「――?」
つん、と何かの匂いが鼻を突いた
べっとりと重たくて、濃厚な匂い――
「これは……油?」
匂いを辿っていくと、次第に何かの物音が聞こえてきた
キーン、と金属のぶつかり合う音
ドォン、と物体が爆ぜる音
それは、戦闘音そのもの
「まさか……!」
は考えもそこそこに、急いで梯子を駆け上った
「――みんな!」
音の発生源――戦闘が行われている場所にたどり着いたは、一瞬目を疑った
ルーク達が戦っていたのは、巨大な蜘蛛の化け物だった
「!どうして?!」
仲間達の驚く声に、の中でスイッチが切り替わる
今は、皆を助けなければ――
「説明は後だ!先にコイツを片付ける!」
応答しながらは状況をさっと読みとる
ティアとナタリアは回復役に徹している。傷は少ないが、疲労の色が濃い
攻めの方は……ルークとアニスがダウン気味で、ガイとジェイドが応戦している
見たところ、刃物はそれ程通じそうにもない。
自分が剣で突っ込んだところで大した戦力にはならないだろう
「仕方ない……」
はすうっと大きく息を吸い込むと、
「しばらく時間を稼いでくれ!一撃で吹き飛ばす!」
前衛に指示を出して、その場にどっしりと構えた
「どういうことだよ?!」
「ルーク、今はの指示通りに!」
ルークらが攻撃している間に、は自分の精神を集中させる
余計な思念は捨て去って、純粋に自分の音素にだけ集中する
「――……集え、水と炎の力よ
我が手に宿りて全てを滅ぼせ」
ぽう、との足下に浮かび上がった譜陣が赤と青の光を放った
「舞え、灼熱の霧よ…………
――全員伏せろ!」
が叫ぶと同時に、かざした両手から譜術が放たれる
「吹き飛べ!――レイジングミスト!!」
渾身の一撃をまともに食らった化け物は、もがき苦しみ、やがて溶けるように消滅していった
「はー……」
長く息を吐き、は構えを解く
「!」
皆が駆け寄ってくると、はばつが悪そうに頭を掻いた
「――……ぉぅ」
「どうしてこんなところに?」
「その……なんだ……」
城でああ言った手前、下手なことは言えない
元はといえば”ナタリアが入っていった”=”ルーク達がこの危険な廃工場に入っていった”かもしれないから気になっただけで、着いていこうと思っていたワケじゃない。職業柄というか、一度助けた人間に何かあったりしたら後味が悪いのだ
とはいえここまできて引き返すのも、何というか、シャクだ
ようは、このあとどうするか考えていなかったのだが
「あー……」
なんて無様な。“砂丘の銀狼”にあるまじき失態だ。師匠にバレたら殺される。あの世からでもやってくる
「おーい、ー?」
「うわっ?!」
突然肩を揺すられて、は思わず飛び退いた
「……?」
「……」
ああ、今日は厄日だ。師匠、あなたの仕業ですか。
「どうしたんだ?百面相して」
「……いや、何でもない」
何だかガイやティアには本気で心配され始めてる
は溜め息をついて、皆に向き直った
「えーっとだな……街を歩いてたら、ナタリア姫がここに入っていくのが見えたもんだから、気になって追ってきたんだよ。
俺が住んでた頃からここは危ないって言われてたしな」
開き直ってやる。と半ばヤケになって話す
「まあ、そうでしたの。感謝しますわ。さん」
ナタリアが感心したように手を握ってきた
でも、後ろでジェイドと、ガイまでが楽しそうに笑っているのを見ると素直に彼女の気持ちを受け取れないのは何故だろう
「……俺のことは良いとして、そっちはどうしてこんな所に来てるんだ?」
とりあえずまともに話を聞いてくれそうなティアとアニスに訊ねる
「実は……」
主立った説明はティアとアニス、途中からガイが加わってしてくれた
「――なるほどな。イオンが……
ご丁寧に街の入り口まで封鎖か……それに……」
ざっと説明を聞いたは、腕を組みじっと考え込む
ザオ遺跡に連れて行った……?
馴染みのある遺跡なだけに、疑問は膨らむ
「……俺も、同行させてもらおうか」
ぽつりと零すと、ルークが驚いたように目を見開いた
「なっ……お前、伯父上の依頼は断ったじゃねーか!」
「そうだな」
はさっくりと言葉を返す
「嫌だというのなら無理にとは言わない。どうだ?」
ぐるりと、はルーク以外の面子を見回す
「私は良いと思うわ」
「かまいませんよ。戦い慣れた人間が多いに越したことはありませんし」
「私もさんせーい」
「ミュウもですの!」
「私も、よろしいと思いますわ」
「俺もだ」
賛成多数。反対は無し
「ありがとう」
がふ、とどこか嬉しそうに微笑む。
「お、おい!」
すると、ルークがと仲間達との間に割って入って来た
「俺を無視するな!親善大使は俺なんだぞ!」
「……」
はすうっと笑みを消し、ルークをじっと睨み付けた
「……な、なんだよ」
「……いや、どうも親善大使様は俺が気にくわないのだと思ってな」
はくっと冷たい笑みをルークに零し、その背後のアニスに向き直った
「なら、考え方を変えよう。――アニス、」
「え?」
突然指名され、アニスは驚く
「アニスは、イオンを救出するのに俺が同行してもかまわないか?」
「う、うん。私は良いけど……」
「ありがとう。それで十分だ」
若干混乱しながらもアニスが頷くと、はいつもの微笑みを見せた
「さてと、俺はアニスに同行することになった。
これなら問題はないな?ルーク」
「な、何勝手に決めてんだよ!」
「お前に文句を言われる筋合いはない。
俺はあくまでアニスに同行するんだからな」
それでいいな?と皆に同意を求める。やはり反対の声は無い
「ううっ……」
ルークだけは納得がいかないと言う様子でを睨むが、は気にもとめない。
「そう拗ねるなって、ルーク。
が強いのは事実だし、人手は多いに越したことないだろ?」
ガイになだめられ、ルークも渋々納得した
「えーと……もしかして私、ダシにされた?」
そんな中、アニスはぼそりとそう呟いていたとか
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あとがき
えーと、吹き飛ばしちゃいました☆(蹴
だいぶ前に譜術が使える云々の話をしていたので、一度どかーんと
やりたかったんですよ。
レイジングミストとか全然使ったこと無い技なのにやりましたww
これからはちょくちょく譜術使います
次はザオ遺跡いけるかなー
2008 1 18 水無月
2010 3 3 修正