「ん――?」
何やら騒がしいな
は意識の浮上と共にゆっくりと瞼を持ち上げる
「魔物……ではなさそうだな」
それとなく意識を探ってみる
敵なんてものは元々いないが、警戒しておくに越したことはない
体は起こさず手元の剣を確認し、感覚を最大に利かせて気配を探る
一人、二人……ゆっくりと近づいてくる
人間の気配。五人いる
そして――……
「――どうかなされたんですか?」
思ったよりずっと若い声
は思わず出るタイミングを誤ってしまった
「何者だ!」
続いて聞こえた声に自分を切り替え、剣を手に立ち上がる
「…………」
相手が出そろうのを待ちながら、は先ほどの声の主を捜した
五人の内二人は青い鎧の兵士。その後ろには同じ紋を刻んだ青い衣の男性。
共通する文様から、マルクト国の軍人であることがわかった
そして、その傍らには十代かそこらの少年と少女が立っていた
「あの子は……」
声の主らしき少年を目にとめ、は息を呑む
「……何か用でしょうか?」
「ここで何をしていた!場合によっては連行するぞ!」
「ふむ……穏やかじゃないな」
ぼそりと呟き、は後方の男性に声をかける
「そこの人……あんたが指揮官か?」
「まぁ、そんなところです」
「俺はただの旅人だ。話を聞く気があるのなら部下を下がらせてくれ」
堂々とした態度で言うと、男が部下に代わって前に出た
「では、そちらもその剣をおいていただけますか?」
代わって述べられた要求に頷き、剣をしまおうとして、
『ぐうぅ』
力を緩めた腹が、限界を訴えた
「――ごちそうさまでした」
マルクト戦艦タルタロス
食堂の一角で、何十枚もの皿が顔の高さほど積み上げられていた
三つの柱となった皿の前で手を合わせ、は満足そうに手を合わせた
『…………』
唖然とする兵士達を気にもとめず、は向かいに座る男と向き合う
「さて――改めて自己紹介しよう。
俺は・。見ての通り旅をしている」
「私はマルクト帝国第三師団長、ジェイド・カーティス大佐です」
「ジェイド?」
はふと相手の顔を見つめた
「ジェイド・カーティスといえば、死霊使いの異名で知られる……
……名は存じ上げている」
「そうですか」
すましたジェイドの様子に、はずず、と茶をすすって話を続けた
「訳あって俺はバチカルを目指している。だが数年ぶりなので迷ってしまってな。このザマだ」
「それで空腹で倒れてしまったんですね」
傍らに立っていた少年の言葉に、は穏やかに言葉を返した
「あぁ。だから本当に助かった。あなた達は命の恩人だ」
「ま、こちらとしましても領地内で勝手に餓死されては困りますし」
「そうだな、お互い面倒がなくてなによりだ」
ジェイドの皮肉を軽く流し、は少年の方に向き直る
「そちらは……教団の人間のようだな」
「はい。僕はイオン。ローレライ教団の導師です」
丁寧で穏やかな物腰だが、その瞳には強い意志を感じた
「やはりそうでしたか……御高名は存じ上げております」
頭を下げると、イオンは優しく微笑みを返した
「しかし、何故そのようなお方がこの場に……?」
「それは……「イオン様!」
幼い、といっても過言でない声が答えを遮った
見ると、イオンと同じくらいの年頃の少女である
「アニス、」
「あまり喋っちゃダメですよぅ」
「ごめんなさい、アニス」
二人のやりとりを見送り、は少女に向き直る
「キミは?」
「導師守護役を務めております、アニス・タトリン奏長です」
よろしく、とは握手を交わす
「ところで、」
不意にジェイドが口を開いた
「、あなたはバチカルに行くと仰ってましたね」
「あぁ、そうだが」
「どのように向かうおつもりでしたか?」
「この先のローテルロー橋をわたり、ケセドニアを経由して向かうつもりだったが」
「船は使わないんですか?」
「歩きの方が好きでな。それにケセドニアで必要な物も揃えるつもりだった」
「なるほど……ですが、今はローテルロー橋を使うことはできませんよ」
「? どういう事だ?」
「実は先日、漆黒の翼と名乗る盗賊団によって落とされてしまいまして」
「追いつめる所まではいったんですよね、大佐」
「まったく……とんだ迷惑ですよ」
やれやれと肩をすくめ、ジェイドは話を続ける
「とにかく、そう言った理由で橋の復旧には暫く時間がかかります」
「そうか……あの橋がないと向こうの大陸へは海路しかないからな」
どうしたものかとは地図を手に考え込む
するとイオンが、同じ高さのの瞳をまっすぐ見つめ、口を開いた
「、もしよければこの艦に乗っていきませんか?」
「?」
「実は僕たちもこれからバチカルへ向かうんです。
カイツール経由となりますが、あなたも一緒に行きませんか?」
突然の提案に、は困ったように頬をかく
「それはありがたいが……何故?」
「困っている人を助けるのが僕たちの務めですから。
それに……、あなたには不思議な空気を感じます。
ここで出会えたのは、きっとユリアの導きですよ。」
は一瞬きょとん、と目を見開いて、
「……そうか。なら、断ることもないな。
ありがたく同乗させていただくよ」
ふ、と小さく笑みをもらした
「かまいませんよね、ジェイド」
「ええ、邪魔にならないのであれば一向にかまいませんが」
「それなら問題はない。
軍属の人間が何をしようと俺には関係がないからな
邪魔をする理由も意味もない」
真紅の瞳と銀の瞳が見つめ……もとい、睨み合う
「が、タダで乗せてもらうだけってのは俺の流儀に反する。
何か俺に協力できることはないか?」
「と言われましてもね……」
「そういえば、は何かお仕事をされているのですか?」
「俺は傭兵なんだ。ケセドニアのソルジャーズ・ギルドに所属している。
「傭兵、ですか……」
と、ジェイドは何か考え込むように腕を組み、それから静かに口を開いた
「……なるほど、話はわかった。
だが、そんなことでいいのか?」
「いえ、こちらとしては戦力も増えてその上お守りまでして貰えるのですから。
それに、いろいろとお訊ねしたいこともあるので」
「ふーん……まぁ、いいさ」
唇を端を軽く持ち上げ、はジェイドに手を差し出す
「引き受けようじゃないか。その依頼」
「ありがとうございます」
「俺は半端な仕事はしない。引き受けたからには確実にこなす。
何があってもその命は守り通してみせよう」
「いや〜頼もしいですね〜」
「何、あんたらは恩人でもあるしな。
――それに、俺も急いでバチカルに向かいたい」
一度目を伏せ、はところで、と辺りを見回す
「件の人物は?」
「別室で待機していただいてます。案内しますよ」
こちらです、と身を翻したジェイドに、と、イオンとアニスもついてきた
※は「腹ペコトラベラー」「ギルドの傭兵」の称号を手に入れた!※
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あとがき
2話です。大佐とごたいめーん。
イオンが好きです。つかアビスキャラはみんな好き(例外アリ
ソルジャーズ・ギルドってのは傭兵組織だと覚えて貰えればおk。
次はルークとティアが出てきます
2008 4 15 水無月