「確かこの先に村があったはず……」
色あせてきた地図と、辺り一面緑に囲まれた平原を交互に見ながら呟く
ルグニカ平原の真ん中に立ち、旅人はしばし地図と睨み合って、再び歩き出す



 年は二十歳頃。金属で補強した灰色のコートを纏い、細く束ねた髪が垂れている
 漆黒の髪から、鏡のような灰銀の瞳がのぞいている
 コートを締めている太いベルトには、亜麻色の鞘に収められた剣が二本提げられていた





「しばらく北の方だったからな……道忘れたし……」
はぁ、と深いため息をつき。荷袋を軽くあさる
「食料もつきてきたし……どうすっかな」
今にも鳴りそうな腹をぐっと押さえ、旅人――は歩き続ける








「――ん?」
しばらく歩いていると、一本の大きな木が目に付いた。
所々に鮮やかな臙脂の葉を着けた大樹が、群から孤立して、ただ一つそこに立っていた
「こんな木があったのか……」
感慨深げ木を眺め、その根元に歩み寄る
「ちょうどいい。ここで少し休むか」
担いでいた荷を下ろし、根本に腰を下ろす。
「近くで見ると本当に大きいな」
木の幹に背を預け、ふ、と軽く息をつく
柔らかい風が吹き、頬にかかる髪を撫でていった








「――ん、」
暫くそうして休んでいると、どこからか生き物の気配を感じた
「これは……獣だな。群れではなさそうか……」
体を起こし、すぐに動けるよう身の回りを整える
「食えるものだといいが……さて、」
ちゃき、と腰の剣に手をかけ、全身の感覚で気配を感じる








「――そこっ!」
ざん、と鞘から抜いた剣で一薙ぎし、斜め後方の茂みを揺さぶる
ざざっと茂みを騒がせ飛び出してきたのは三、四頭のサイノッサスだった
「……ハズレ、か」
残念そうに呟き、は剣を構え直す
朱に塗られた刀身が日の光を浴びて淡い輝きを放つ
「こっちも空腹だっての……仕方ない」




「――ふう」
剣を鞘に収め、足下に転がる魔物の焼死体を一瞥し、ため息をつく
「はぁ……ムダな体力使った……」
再び木の根本に腰を下ろし、空を見上げる
「もう暫く休んで、誰か来たら道を聞くか……」
剣をベルトごと外し、ふ、と軽く息をつく
「とりあえず結界くらいは張っておくか」
は目の前に手をかざし、すぅ、と目を閉じた
「――いい樹だね。少し力をもらうよ」
誰にともなく呟き、は詠唱を始める
「地の神よ、我にその恩恵を分け与えたまえ。我が身に守りの力を」
ぽう、と足下から音素のような光が発し、静かにの周囲を覆っていく
「よし、なかなかの出来だ」
大地の力で組み上げられた結界では呟く
「さて、と……一休み、するか……」
木の幹に身体を預け、はゆっくりと意識を閉じた





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同刻、マルクト帝国軍艦タルタロス・ブリッジにて――――
「カーティス大佐!」
自分を呼ぶ声に、ジェイドは書類をめくる手を止める
「何があった」
「進行方向に音素反応が。第二音素と思われます」
「第二音素?」
大地の力である第二音素は、微弱だが常に大地からも放出される
「誤差の修正は?」
「してあります。確認済みです」
部下の返答にジェイドは考え込む
地表のものよりも強い反応は、何か生物の行動が原因と考えられる
「動きは?」
「まったくありません」
「そうか――「ジェイド、」
再び思考に戻ろうとすると、別の若い声が呼び止めた
「どうかしましたか?」
「進行方向に謎の音素反応がありました。魔物ではないようですが」
「……気になりますね。僕も見に行って良いですか?」
軽く頷き、ジェイドは部下に指示を出す
「艦を一度止め、音素の反応地点へ向かう」
「はっ!」
指示がわたったことを確認し、ジェイドはブリッジを後にする
「ありがとうございます、ジェイド」
隣に並び、イオンはジェイドを見上げる
「かまいませんよ。危険因子である可能性も否定できませんから」
「……でも、僕にはあれが危険なものとは思えません」
「そうであることを願いましょう。これ以上の面倒はゴメンです」
いいながらジェイドはとある船室の前で止まる
「伝えるんですか?」
「一応、協力してもらう形ですから」
あまり面白くなさそうな表情で、ジェイドは鉄の扉を叩いた



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 あとがき
やっちゃいましたアビス連載。相手は華麗なガイ様です
けどガイ様しばらくでてきません;まずは大佐からです
自分の中でも好きなヒロインなので、原作に忠実に(?)
時々ぶっとんだ設定でがんばりたいと思います。
言わずもがなですが、最強設定ヒロインです
 2008 4 7 水無月