夜が更けて、にぎやかな街も眠りにつく
自身の希望で一人用の部屋を宛われたは、荷物を置いて静かに城を後にした
「……バチカル、か」
城前の広場に足を運び、階下の街を見下ろしてみる
「…………」
ふわりと風が吹き、下ろした髪を攫っていく
砂漠からの風は砂の匂いを含んでいるような気がした
「――、か?」
不意に、背後から声が聞こえた
聞き覚えのある声に、特に考えず振り向く
「ガイ、」
「どうしたんだ?こんな時間に」
「少し、寝付けなくてな
いろいろと考え事をしていた」
「そうか、」
静かに歩み寄り、ガイはの隣に並ぶ
「ガイはどうしたんだ?」
「まあ、俺も寝付けなくてな」
「……そうか」
会話が途切れ、再び静かな空気が流れる
「……城に上がってくるとき、」
がゆっくりと口を開く
「ルーク、戸惑ってただろ。」
「自分の街なのに、初めてみたいだ。ってことか?」
「ああ」
ふ、と小さくため息が零れた
「俺がキムラスカの出身だってことは話したよな?けど……」
「けど?」
「ルークと同じさ。
何故だろうな……ここが自分の故郷ではない、別世界のような気がしたんだ」
「十数年ぶり、なんだろ?それなら仕方ないさ」
「そうだな。それもあるだろうし……
もしかしたら、俺は無意識のうちにここの記憶を自分の中から消そうとしているのかもしれない」
ぎゅ、とは自分の胸を押さえる
「幼い頃、ここで暮らしているときの記憶……俺の中に楽しい記憶がないんだ」
「そんなに……辛いことがあったのか?」
「両親が、殺された。」
は言葉を切って、一瞬躊躇って、答えた
「幼い子供にとって、それは死よりも辛い現実……絶望だ」
「ああ……そうだな」
どこか切なそうな表情でガイが頷く
はガイの横顔を見上げ、ふと昔の面影を重ねる
いつか見た、あの日の面影――
「……似ているな、」
ぽつりと、言葉がこぼれ落ちた
「え?」
「どことなく似ている気がするんだ、俺とガイは」
「そうか?」
「どことなく、だけどな
だからかな。ガイと話しているのは楽しい」
「そうだな。俺もと話してると楽しいよ」
くすりと、どちらからともなく笑みを零す
「ガイ、」
「ん?」
「俺はしばらくここに滞在するつもりなんだ。
もし時間があったら、街の案内とかしてくれないか」
「そうだなあ……
いない間の仕事が溜まってるし、すぐには無理かもしれないけど……
約束する。にこの街を案内するってな」
「ありがとう、ガイ」
ふっと笑っては頬にかかる髪を後ろへやった
「……なんか、髪下ろしてると雰囲気違うな」
「そうか?」
「髪長いのは見慣れてるんだけどな。
それにしても、って髪綺麗だよな」
「……」
さらりと言われた台詞に、は一瞬呆気にとられるが、
「綺麗って……それ、男に言う台詞か?」
自分に言われたことを理解して、くすくすと笑いだした
「あ、そうだったな。すまない」
「いや、ありがとう。嬉しいよ」
ひとしきり笑って、は遠くを見ながら呟く
「……父さんと、同じだ」
「え?」
「俺は顔立ち……というより、髪が母親に似ていてな。
父さんにも、母さん似の綺麗な髪だとよく言われた」
「……すまない」
「どうして謝るんだ?」
「両親のこと……思い出させて」
「謝る必要なんか無いさ。
……それに、思い出したんだ」
は嬉しそうな表情でガイに向き直る
「思い出したって?」
「楽しい思い出。一つ思い出した」
あれは、まだ私が4歳くらいの頃――
母さんの膝の上に乗って、優しく髪をとかしてもらった。
そこに仕事から帰ってきた父さんがやってきて、
『の髪は、本当に母さんによく似ているな。とても綺麗だ』
そういって大きな手で優しくなでてくれた
『綺麗って言われた!』
『よかったわね、』
バチカルでの、唯一の思い出とも言える大切な時間
「……俺にとって、バチカルは忘れたい過去の場所でしかなかった」
「……」
そっと目を伏せるの姿はどこか儚げだった
「だが……今、こうして戻ってきて……
少し、吹っ切れたような気がするよ
これから少しでもこの街を故郷だと思えるようになりたいと思う」
「それで良いと思うぜ。
過去に縋らなくたって、人は生きていけるんだ。
がそう望むのなら、俺はそれを手伝うよ」
「たとえば街案内とかな」
「そうだな」
互いにくくっと楽しげに笑みを漏らす
ガイといると、余計な気を張る必要がない
すごく気が楽で、居心地が良くて
楽しくて忘れそうになってしまう
――自分の秘密を、隠せなくなりそうになる
彼には――ガイにだけは、きっと知られてはいけない秘密
知られたらきっと、今のように話すことも、並んで戦うことも出来なくなる
だから知られてはいけないのだ
――自分が、女性の身であるということを
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あとがき
というわけで、ガイ様とデート(違
ヒロインの過去がちらっと明らかになってきます
一応ヒロインが女性であるということを漸く明言しましたね。
まあ今更なんですが(^^;
次はバチカル廃工場です。なっちゃんが加入します。
2008 12 15 水無月