カイツールから連絡船に乗り、一行はケセドニアに着いた
ヴァンはアリエッタを連れてダアトに向かうとのことで、一足先に別の船着き場へ向かっている





「やたらと人が多いなー」
港から出て、ルークは開口一番そう言った
「ここは物流の拠点だからな
キムラスカ、マルクト、ダアトのどこに物が行くにしても、必ずここを経由する」
「へぇー……」
「ここにはありとあらゆるものが揃っている。見たいものがあるなら案内するぜ」
「そうか、はこの辺に詳しいんだったな」
「なんたって“砂丘の銀狼”だもんね」
「……まぁ、な」
の微笑みがどこかぎこちなかったのは誰も気づかなかった





「バチカルまでは船で一、二日かかります。
それぞれ見たい物もあるでしょうし、夕方に港で落ち合いましょう」
ジェイドの提案に特に反対はなく、その場ですぐに解散となった
「さてと……俺はどうするかな」
ジェイド、アニス、イオンは音譜盤の解析をしに行き、四人がその場に残された
「ルーク、何か見たい物はあるか?」
「……いや、いい。テキトーにぶらついてくる」
そういい残し、ルークは人混みに消えていった
「私……少し疲れたから休める場所を探してくるわね」
その背中を追うようにティアも人混みに消えてゆく
「ガイはどうする?」
「そうだな……消耗品の買い足しでもしながら掘り出し物がないか探してくるよ」
「なら、俺も一緒に行こう。この街では顔が利くからな」
こっちだ、とは街のバザーに向かって歩き出した





「これとこれと……まとめてこれだけで。どうだ?」
「わかったよ。それで持ってきな」
「よし。交渉成立だな」
「また負けちまった。さんには敵わねえや」
苦笑いする店主に礼を言い、とガイは店を後にする
はすごいな」
「そんなことないさ」
「いや、すごいさ。こんなに街の人に慕われてるんだからな」

道具屋、食材屋、武器屋、どこにいってもは人々に歓迎された
食材屋の女店主は腕一杯の野菜をまけてくれたし、道具屋では新製品をつけてくれた

と一緒にいると、驚かされることばかりだ」
屈託のない笑顔につられても微笑む
「そんなことを言われたのはガイが初めてだ
――初めてついでに、面白い音機関の店に案内するよ」
「おっ、そいつは楽しみだな」
腕一杯の荷物を抱え、二人は音機関の話題で盛り上がりながら街を歩く
頭上から照りつける太陽が、遠くの景色を揺らしていた







「ガイー、ー、こっちこっちー」
港に着くとアニスが出迎えてくれた。
後ろには他の皆も揃っている
「俺たちが最後か」
「かまいませんよ。時間には間に合ってますし」
「それより、さっさと船に乗って帰ろーぜ」
「そうだな」
疲れた表情で呟くルークに頷き、到着している船に乗り込もうと足を踏み出す
その瞬間――

「――、危ないっ!」
背後の気配に気づいたガイが、を庇うようにその背に回り込んだ
「ガイ?!」
「くっ」
素早く放たれた一閃が、ガイの腕の皮膚を薄く切り裂く
じんわりと血がにじんで、赤い線が浮かび上がった
「ここで襲ってくるとは……早く船へ!」
ジェイドの指示に従い、イオンとルークを先頭に船へ駆け込む


さすがに船まで追ってはこず、港を出発すると一行はほっと胸をなで下ろした
「烈風のシンク……また襲ってくるとはな」
「ガイ、傷は大丈夫なのか?」
「ん?ああ、何か変な模様みたいなのが見えたけど……大したことないさ」
「よかった。……すまない、俺が油断していたばかりに」
険しい表情では頭を下げる
「気にするなって。大したことにはなってないんだし」
ぽんぽん、と肩を叩かれ、は少しだけ表情を和らげた
「そういえばジェイド、音譜盤の解析をしてもらうと言っていたな。どうだった?」
「先ほど資料に目を通しましたが……
音素同位体についての研究結果。それとローレライの音素振動数が書いてありました」
「どういうことだ?」
「六神将に関する手がかりがつかめるかと思ったのですが……今のところは彼らの目的に見当が付きません」
「そうか……」
こと“知能”の面に関してこの面子で右に出る者のいないジェイドにわからない、ということで皆が悩んでいると、




「ハーッハッハッハッハ!!
よーうやく見つけましたよー!ジェイド!」
どこかで聞いたことのあるような特徴的な笑い声が響いてきた



「この声……笑い方は……」
「やれやれ……」
ジェイドのため息がこれほどないまでに重たい
声につられるように空を見上げると、謎の空飛ぶイスに一人の男が乗っている
「あ、死神ディストだー」
アニスが悪気もなく呼ぶと、その男――ディストは、ピキリと一瞬固まって、
「薔薇!バ・ラです!薔薇のディストです!」
鼓膜が破れるかと思うほどの大声で訂正した
「あーもーうるさいなー。死神でしょー」
「黙りなさい!そんな名前、私は認めませんからね!」
「どっちでもいいが、死神の旦那は何の用だ?」
今度は呆れたようにが相手を変わる
だが、相手が六神将ということもあって、今度は油断しない
「イオンを狙いに来たのなら、俺は容赦なくアンタを斬るぜ」
イオンを庇うように彼の前に立ち、剣を抜けるように腰の位置に手を下ろす
「フン、今は導師に用はありません。
ジェイド!コーラル城で手に入れた音譜盤のデータを渡しなさい!」
びしり、とジェイドを勢いよく指さし、ディストはこれでもかというほど楽しそうに命令した
「やれやれ、何かと思えばそんなことですか。
この資料のことですかー?」
ジェイドは何の躊躇いもなく懐から資料を取り出すと、まるでディストが取りに来るのがわかっていたかのように頭上に掲げた
そしてディストはジェイドが思い描いたとおりに資料を奪いとる
「ハーッハッハッハッハ!油断しましたね、ジェイド!」
この上なく楽しそうな表情のディストに、ジェイドは平然と言葉を投げかけた
「どうぞ差し上げますよ。その書類の内容は全て覚えましたから」
その言葉にディストの表情は一変するが、そんなことだろうと仲間達はかったるそうにその様子を眺めていた
「あ……あなたは昔から人をコケにして……!」
「昔?」
だが、ディストの発した言葉に皆興味を示す
「大佐、ディストと知り合いなんですか?」
アニスが問うと、
「特別に教えて差し上げましょう!」
何故かジェイドではなくディストが答えた
「そこの陰険ジェイドと、この天才ディスト様はかつて「知りませんよ」
ディストの答えにかぶせるようにジェイドが言い切る
「何処のジェイドですか?そんな物好きは」
「な、なんですってーー!!」
「ほらー怒るとまた鼻水が垂れますよ」
「垂れてません!」
一連の流れはどう見てもディストがジェイドにあしらわれてる図であり、仲間達は傍観に徹することにした



その後、ディストが自作の機械人形で戦闘を挑んできたが、弱点を知っていたらしいジェイドの譜術により、あっさり倒すことが出来た





「なんか……騒がしかったな」
「はは、そうだな」
騒動の後片付けも終え、は船室でガイの手当をしていた
「血も止まってるし……思ったより全然浅いみたいだな」
「ああ。もう痛みもすっかりひいてる」
包帯を巻き、捲った袖を元に戻してやる
「ありがとう、
「いや……元はといえば俺のせいだしな」
「気にするなって。俺たちは仲間だろ?」
「……そうだな」
ガイの言葉で、の表情に柔らかい微笑みが浮かぶ


「もうすぐバチカルに着くな」
「もうすぐ着けるのか、もうすぐ着いてしまうのか……
何というか、複雑な気分だ」
窓からの景色は暗色の海だけになり、船内もシンと静まりかえっている
「バチカルに着いたら……お別れだな」
「ああ。でも、滞在中には会いに行くよ。ガイにも、……ルークにも」
「是非会いに来てくれ。ルークも言葉には出さないだろうけど、きっと喜ぶぜ」
「ガイは?」
「もちろん、歓迎さ」
暖かい笑顔で答えられ、は内心思う


この仲間と旅が出来て――
ガイに出会えて、よかったと――




   は「ケセドニアの人気者」の称号を手に入れた!※



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 あとがき
ディストの回です。ケセドニアは書いてて楽しいですねー。
男同士で遠慮がないのでやりたい放題いちゃつかせてます(違
まだ友達同士の範疇だと言い切りますよ!
さてと、漸くバチカルに帰れます。
 2008 12 15  水無月