「!ガイ!早く早くー!!」
港の入り口で、アニスが手を振っている
だがその様子はどこかおかしい
急ぎ足で駆けつけ現場にたどり着くと、その理由はすぐにわかった
「これは……!」
「一体何が……」
もくもくと立ち上る黒煙。傷つき倒れ込む人々
そこには惨劇と呼ぶに相応しい光景が広がっていた
「何があったんだ?」
腕を組み考え込んでいるジェイドに訊ねてみる
「神託の盾の襲撃に遭いました
襲ってきたのは妖獣のアリエッタです」
「先を越されたか……」
「アリエッタは船の整備士と……」
ティアの言葉が一度途切れる
「……ルークを、連れて行ったわ」
「!」
とガイの表情が同じように固まる
「アリエッタは二人を連れて行き、イオン様を連れてくるよう要求してきた」
そう言ったヴァンの表情は至って冷静で、は思わず彼を睨みつけた
「……アンタの、部下だろうが」
「この命令を出したのはアッシュだ。
今回のことは完全に奴らの独断になる」
「っ……!」
は身を翻し、港を去ろうと足を踏み出す
「どこに行くんですか」
「ルークを取り戻してくる」
「……行き先はわかっているんですか?」
「……」
無言のまま、堅く握られた拳が思いきり壁に打ち付けられる
「……どこにいたって探し出す。
あいつを死なせるわけにはいかない」
静かな声だが、そこからはいろいろな感情が読みとれた
「やれやれ……あなたが熱くなってしまうとはね……」
呆れたようにジェイドはため息をつく
「ルークと整備士の二人が連れて行かれたのはコーラル城です」
東にある古い城だ、とガイが説明した
「船の整備ができるのは連れて行かれた人だけだそうですし、六神将の狙いも気になります。
どちらにせよ、コーラル城には行く必要があるでしょうね」
「……そう、だな」
少し頭が冷え、は堅く握った拳を解く
「ルークが攫われたのは、先に行った私たちの不注意でもあるわ」
ティアが隣に並ぶ
「別に誰が悪いって訳でもないんだし。さっさとルークを取り返して帰ろうぜ」
な?とガイに肩を叩かれ、は小さく頷いた
街道の分かれ道を東に進んでいったところに、その城は存在していた
草木が生い茂る荒れ果てた庭。朽ちて倒壊した石の柱。そして、明らかに人の物ではない気配
「ここがコーラル城……」
「何か不気味ィー。ホントに人いるのー?」
「来いと言ったからにはいるのでしょう」
携帯用の音素灯を点け、ジェイドは辺りを見回す
「ふむ……それほど広いわけではないようですね」
「とにかく探すしかない」
気を引き締めて一行は城の中に入る
風化しかけた門をくぐると、コツン、と大理石の床を叩く音がやけに響いた
玄関先の広間に出て、一度歩みを止める
「薄気味悪いわね……」
「ああ……魔物の気配もする」
城に入った直後から、様々な視線を感じている
「も〜、根暗ッタのやつ!
私のルーク様をこんなところに攫ってくるなんてどういうワケ?!」
「確かに……どうして奴らはルークを……?」
アニスの言葉を聞いて、がぽつりと呟く
「どうかしたのか?」
「……いや、何でもない。さっさと探そう」
曖昧に返事を返して、先を促す
――……思い過ごしだと良いが
何気なく辺りを見回して、は内心呟いた
「……それにしても、ずいぶんな荒れようだな」
不意にが、誰にともなく訊ねる
「ここはどういういわれの城なんだ?
俺も傭兵業は長いが、こんな城は初めて知った」
「別邸だよ。ルークん家の」
その問いに答えたのはガイだった
「ここは元々ファブレ公爵家の別邸なんだ。国境もすぐ近くだしな」
「それが何でこんな風に?」
「前の戦争で敵が侵攻してきてやむなく放棄したって話だ。
今じゃもう誰も住んでいないただの廃墟さ」
「……前の戦争……そうか……」
は立ち止まり、天井を仰ぐ
「?」
「悪い、すぐ行く」
小走りで追いつき、ガイの隣に並ぶ
どうした?と訊ねられ、は適当に誤魔化した
「……ガイ、どうして奴らはここを指定してきたんだと思う?」
「?……そういえば、確かに変だよな」
何年も前に放棄されたような城のことを真面目に知っているのは妙だ
「もしかしたら、敵はルークやファブレ公爵のことを知っているのかもしれない」
「ん……?そういえば、」
ガイが遠くを見つめながら呟く
「七年前にルークが発見されたのも、この城だったな……」
「そうなのか?」
「ああ……傷だらけのボロボロの姿で発見され、記憶はおろか、言葉さえも失って帰ってきたんだ」
「記憶がないのは……辛いだろうな
覚えていたと言うことすらも忘れてしまっているんだから」
「ああ……そうだな」
場内の捜索を開始してから結構な時間が経った
「見つからないわね……ルーク……」
「あと探してないのは……屋上、か?」
コツコツと石の階段を上っていくと、やがて頭上一面に広がる青が目に入った
「――やっと来た……です」
ぽつりと、風に乗って聞こえたのは抑揚に乏しい声
「あれは……!」
ぬいぐるみを抱え、背後に魔物を従えた小柄な体躯
その傍らにたつライガの足下には、傷だらけの男性が倒れている
「……イオン様を渡してください、です」
「その要求にはお答えできません
それに、ルークの姿が見あたりませんね。彼はどこです?」
ジェイドの返答が勘に障ったのか、アリエッタは強くぬいぐるみを抱きしめる
「……教えない」
アリエッタの言葉を攫うように、ざぁっと風が吹きすさぶ
「アリエッタ、あの人キライ……あなたもキライ……みんな、キライ……!」
アリエッタの感情が徐々に激昂していく
「あの人、アリエッタのママを殺した!アリエッタの敵!」
「殺した……?どういう事です?」
「チーグルの森でのこと……忘れたなんて言わせない」
その返答に顔色を変えたのはティアとジェイドだった
「まさか……ライガクイーン……?」
ティアの呟いた名前に、アリエッタの表情がキッと鋭くなる
「ママは、何も悪い事なんてしてない。
ママはただ……アリエッタの弟と妹たちを護ろうとしただけなのに……!」
大切な人を奪われた悲しみと憎しみ
純粋な気持ちが、痛いほどに突き刺さる
「……それでも、俺たちは進まなければならないんだ」
双方の沈黙を破って、が前に出る
「そこの人は返してもらう。ルークも返してもらう
悪いがこっちには素直に取引に応じる気はない
力ずくでも返してもらう」
双剣の片割れを抜き、まっすぐ突きつける
アリエッタは一瞬びくりと身を強張らせて、それでもすぐにを睨み返して、
「こっちも……力ずくで渡してもらう……です!」
そう言うなり控えていた魔物達を一斉に向かわせてきた
「来るぞ!」
は素早くもう片方も抜き、襲いかかってきたフレスベルグの爪を受け止める
「!」
あっけにとられていたガイ達もすぐに応戦に入った
「行くよトクナガ!」
「ティア、整備士の人を頼みます」
「わかりました」
それぞれの得意な攻撃でライガとフレスベルグを攻める
「――リミテッド!」
そのど真ん中を突っ切るように、光の柱が落ちてきた
「っ?!」
「譜術か?」
こちらが怯んだ隙に体勢を立て直すライガとフレスベルグ
「あの娘は譜術師か……厄介だな」
「根暗ッタのやつ、ほんと根暗なんだから!」
アニスが巨大化したトクナガで跳んでいく
「……ガイ、耳を貸してくれ」
冷静に距離を取りながら、はガイを呼ぶ
「司令塔のアリエッタを叩けばあとは楽なはずだ。
俺とツートップ、行ってくれるか」
「どうするんだ?」
「俺が隙を作る。
合図して一泊で突っ込むんだ」
「わかった。……無理はするなよ」
「ああ」
頷き、は剣を構えた
「――行くぞ」
譜術で応戦するジェイド達の合間を縫っては駆ける
狙うはアリエッタただ一人のみ
ぎらりと二色の刀身が光る
「!」
主の危機を察したのか、二体の魔物が番犬のように立ちはだかる
「どけ!」
は強く地を蹴って跳ぶと、大きくふりかぶってフレスベルグの後頭部に峰打ちを叩き込んだ
そのまま落下しながら身を捻ってライガの背中に強烈な踵落としを決める
そして、地面に降り立つと同時に剣の切っ先を二体の魔物の急所に突きつける
「ガイ、今だ!」
魔物が怯む一瞬の隙に、ガイは素早い身のこなしでアリエッタとの距離を詰める
「あ――」
「悪いな」
ガイは剣の鞘でアリエッタの鳩尾を打った
「けほっ……」
アリエッタは何度か苦しそうに咳き込み、茫然自失といった体でぺたんとその場に座り込んだ
「そん……な……」
ほろりと、その瞳から涙がこぼれる
「…………キライ、」
うつむき、アリエッタは呟く
「みんな……キライ……
アリエッタに意地悪する……
アリエッタの大事な物取っちゃう……」
涙混じりの声、憎しみと悲しみの入り混じった負の感情
「……一番キライなのは、アニス……!」
「!」
「アニスさえいなければ……
アリエッタはいつまでもイオン様のそばにいられたのに……
アニスが……アニスが……!」
アリエッタの悲痛な声が響く
「違うんです、アリエッタ」
その悲痛な叫びに答えたは、その場にいた誰の物でもない声
「イオン様?!」
「すみません、みなさん。
どうしても気になったのでヴァンに無理を言って連れてきてもらったんです」
言葉通り、イオンの後ろにはヴァンが付き添っている
カイツールで待っているはずのイオンがいることに驚きを隠せない皆を置いて、イオンはアリエッタに歩み寄る
「アリエッタ……」
「イオン様……ごめんなさい、イオン様……」
「謝るのは僕の方です……すみません、アリエッタ……」
「イオン様……アリエッタのこと、キライにならないで……」
「違う……違うんです、アリエッタ」
ぎゅ、とイオンの小さな手が、それより小さなアリエッタの手を優しく握る
「何を言ってもあなたを傷つけたことの言い訳にはなりません
ですが……これだけは信じてください
僕は……導師イオンは、あなたをキライになってはいません!」
「イオ……ン……様……」
ぱたりと、イオンの胸にもたれかかるようにしてアリエッタは気を失った
「……気力だけで立っていたんだな」
倒れ込んだアリエッタをヴァンが抱き上げる
「部下の不始末――手を煩わせましたな。
彼女は私が責任を持って預かりましょう」
「お願いします、ヴァン」
ヴァンがアリエッタを連れて去っていく
その背中を見送って、は長く息を吐いた
「……ここに、ルークがいなくて良かったと思う」
私はまた、自分のエゴで人を傷つける
いつしか空は灰色に染まり、しとしとと降る雨が彼らの身体を濡らしていった
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あとがき
漸くコーラル城半分来ました。……遅っOTL
アリエッタ大好きですー。ロリっ子ー(ぇ
可愛いんですよ。純粋で素直で。
ついつい長くしちゃいました。
個人的にイオ×アニもイオ×アリも好きです。
あー可愛いなーオイ。
2008 11 10 水無月