「――見えた、あれがカイツールだ」
が前方に見える門を指し示す
「これでキムラスカはすぐ目の前って事か」
「ようやく帰れるんだな」
疲れていたルークの表情が明るくなる
「とはいっても、これから船に乗ってアベリア大陸を目指さなきゃいけないんだ
すぐにつくとはいえ、三、四日はかかるだろう」
「それ以前に、旅券がなければここを通ることすら出来ませんがね」
それを言うなよ……とげんなりする一行の視界に、何やら奇妙な光景が飛び込んできた
「――だからぁ、魔物に襲われて無くしちゃったんですよー。
通してください、お願いしますぅ」
何やら一人の少女が門番と問答を繰り返している
「通せないものは通せないんだ。出直してきな」
「ぶーぶー
……っち、月夜ばかりと思うなよ」
教団の紋章が入ったピンクの制服
ツインテールにぬいぐるみを背負った背中
「アニス、ルークに聞こえちゃいますよ」
考えるまでもなく、イオンが声をかけた
「きゃわーんvアニスの王子様ー♪」
にぱーと笑顔でアニスはルークに抱きつく。
同じくらいの勢いで、傍らに立っていたガイが飛び退いた
「とりあえず、アニスが無事で良かったな」
「そうですね。
ですが、あの様子を見る限りアニスの旅券は……」
「はい……逃げてくる途中で無くしちゃったんですぅ……」
「足りないのは五枚ですか……
謡将の姿も見あたりませんし、どうしたものか……」
「僕とジェイドは旅券を持っていますし……僕の名前を出せばなんとかならないでしょうか」
「しかしそれでは……」
困った表情を浮かべる一行の中で、ルークが不意に言葉を発した
「つーかさ、そんなのいらねえんじゃねえの?」
一瞬の間が空く
『はぁ?』
皆の声が見事にそろった
「いや、ルーク、それは……」
なんと返答すればいいのか。と言葉を選んでいると、ルークはさっさと門の前まで進んでしまった
また何か来た、と門番達が向き直る
そしてルークは門番達を正面から見据えると――
「キムラスカ王国国王インゴベルト六世の甥、ファブレ公爵家子息ルーク・フォン・ファブレだ!
国に帰るから通せ!」
迷いもなく、言い切った
『…………』
またも間が空き、
「……いや、坊主、つくんならもうちょっとマシな嘘を考えてこい」
検査官はそういって呆れたように手を振った
「嘘じゃねーって!」
「じゃあ証明書か旅券を見せろ」
「そんなもんなくったって伯父上に会えば…「ルーク、一度止まれ」
ぽす、と軽く頭を叩いてやり、は検査官に話しかける
「連れの失言を詫びる」
「あんたは旅券を持っているのか?」
は首を横に振り、軽く頭を下げるとルークを連れて仲間達の所へ戻った
「ってて……何すんだよ!」
かなり強い力で腕を捕まれていたルークは同じ背丈のを睨む
「あれ以上の騒ぎになったら旅券の有無に関わらず通れなくなる可能性がある
そうなったら皆に迷惑がかかるだろうが」
「んなもん、俺が伯父上に会えば……」
「それ以前の問題だと言って……「そのくらいでよろしいでしょう」
の言葉を遮るように、仲間ではない誰かの声が背後から聞こえた
「その声は――」
皆が一斉に振り向く
「ヴァン師匠!」
ティアと同じ瞳と髪の色
そして教団の紋章が入った衣を纏った男が、門をくぐってこちらにやってきた
「ヴァン……!」
ティアがすかさず武器を構える
「!」
ヴァンがティアを見据えるのと、が腕を伸ばしたのは同時だった
「ティア、落ち着け。ここでは戦うな」
メイスの柄を押さえ、諭すように言い聞かせる
「っ……ごめんなさい」
ティアはメイスをしまったが、ヴァンに対する視線は相変わらず厳しい
「……貴公は?」
ティアの鋭い視線を受け止めながらも、ヴァンはに問いかける
「ソルジャーズ・ギルドのだ
わけあって彼らと行動を共にすることになっている」
「ソルジャーズ・ギルド……“砂漠の銀狼”と名高い・か」
「そちらは神託の盾騎士団総長のヴァン・グランツだな
ルーク達から話は聞いている」
ところで、とは握手する間もなく話を切り替える
「謡将が来られたということは、ここは通れるのか?」
「ああ。必要な分の旅券は持ってきている」
「なら、とりあえずここを通って中の施設まで進まないか。
立ち話で済むような話でもないだろう」
「……?」
いつもとどこか違う雰囲気のにガイが訊ねる
「どうかしたのか?怖い顔してるが……」
はガイの言葉にはっと目を見開き、
「……いや、少し疲れたみたいだ。」
うつむきがちにそう呟いた。
「アンタ達も疲れてるだろ。中で座って話そう」
「……つまり、今回の襲撃にグランツ謡将は無関係と。そういうことですか」
「直属の部下が動いていた、という点では無関係とも言えなく無いが……
事実、私は何も知らされていなかった」
カイツールの施設で休憩がてら情報の整理をすることになり、ジェイドやヴァンを中心に話が進められた
「――すまない、少し風に当たってくる
方針が決まったら教えてくれ」
その一方では早々に話し合いの場を抜け、人気のない所に座り込み空を眺めていた
「……っは」
呼吸が苦しくなったような錯覚に、思わず胸を押さえる
まだ国境を越えただけだ
大地も大陸も変わってはいない
「わかってる……わかっているんだ」
自分に言い聞かせるが、胸の動悸は収まらない
国境を越えただけで、ここがキムラスカであるというだけで、
こんなにも焦りを感じる
こんなにも自分の内側を押さえきれなくなる
「私は……まだ未熟だというのか……」
腰の双剣に手を添えると、慣れたはずの剣がやけに冷たく感じた
ひやりと、まるで拒絶するかのような冷たさ
「っ……」
怖い
怖い、
見えない闇に飲まれそうになる
国が近づいてから、心がざわつく
自分の中の衝動が抑えられなくなりそうになる
「――?」
「っ?!」
だから、すっかり慣れたはずの気配にも気づけなかった
無意識、無自覚、
そんなことばがぴったりだった
「――っ……」
「……?」
困惑したようにこちらを見下ろすガイ
その喉元に突きつけられた緋色の刀身
剣を握っているのは……自分の手
「あ……」
すぅっと意識が戻ってきて、は呆然と腕をおろした
がしゃん、と手から剣がこぼれ落ちる
「私は……」
何を……?
そう呟きかけたところで、ガイがすぐ傍らにしゃがみ込んできた
「おい、大丈夫か?顔が真っ青だぞ」
「あ、いや……わ、」
私は、といいかけてははっと我に返る
「っ――わ、悪かった……ガイ、怪我はしてないか?」
「俺は大丈夫だ。の方こそ、大丈夫なのか?」
「ああ……少し、考え事をしていただけだ」
「それならいいんだが……ほら、」
差し出された手を素直に取り、はゆっくりと立ち上がる
「すまない。心配をかけたな」
リアは小さな声で詫びて、落とした剣を鞘にしまった
「あー……出発か?」
「ああ。ルーク達は先に行ってる」
とりあえずこれからバチカルまでの行程
ヴァンと行動を共にすること
が疲れていると言うことを考慮して、ガイが一人で呼びに来たこと
ガイから一通りの説明を聞き、は了解の意で頷く
「みんなは先に行ってるんだな。
なら早く行こう。港までは少し距離があるからな」
「そうだな」
二人は頷きあうとカイツールの国境を後にした
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あとがき
カイツールはどうするかたっぷり悩みました。
で、アッシュは出てきませんでした。
そして今更アニスの口調がわからないorz
ヒロインは直感でヴァンを危険だと感じています
2008 10 27 水無月
2011 5 2 修正