「うえ……ここを、渡るのか?」
ルークの表情が歪む




セントビナーでアニスからの手紙を受け取った一行は、さらに南下してカイツールを目指すことになった。
そして今、目の前の道を東西に渡って分断している川は、水位こそ高くはないがある程度の速さを保って流れている。





「今はかなり安全だ。水位も低いし天気もいいから渡りやすい」
「ああ。普通に歩いてわたれるんだもんな
何かあったら救助してやらなきゃと思っていたが」
「救助?」
「海難救助の資格を持っているんだ」
「へぇ……資格なんてあるのか」
感心したようにはまじまじとガイを見つめる
「依頼で似たようなことは時々やったが……
プロがいるんだったら俺の出る幕はないな」
「それって……」
今度はガイがを見つめて、それからぷっと吹き出した
つられたようにもふ、と微笑む
「……どうしたんだ、あの二人」
「さ、さぁ……?」




ガイとの先導で、魔物を倒しながら川を渡る。
川の水位は本当に低く、深いところでもティアの膝下くらいまでしかない
「へぇ……あの難しい理論をよく理解できたな」
「三日は徹夜したな。食事も睡眠もまともにとってなかったから次の日は食事と睡眠でほとんど終わったよ」
「ガイは本当に音機関が好きなんだな」
戦闘の合間の他愛のない会話
基本的にガイが質問してが答えるだけだが、お互いそれなりに楽しんでいた


 そう、楽しいのだと


バチカルについたら自分はなすべき事をしにいく
そしてその時、彼らとは一緒にいられない


たまたま旅の道中で出逢い
たまたま目的地が一緒なので同行した
それだけなのだ。


それだけなのに――……



ふと、は隣で楽しそうに話すガイの横顔を見やる
本当に楽しそうな、子供のような表情
とうの昔に忘れてしまった表情に、自分は今なっているのだろうか
「――どうした、?」
「いや……楽しそうだと思ってな」
「あー……、もしかして退屈か?俺ばっかり話してて……」
「そんなことはないが……
……なぁガイ、今、俺が楽しんでると言ったら、信じるか?」
十センチの身長差は、自然と見上げるアングルになる
ガイは一瞬驚いたように言葉を詰まらせて、
「……信じるさ。
俺には楽しんでいるように見える……と、思うぜ」
それでもまじめにそう答えてくれた
「なんか曖昧だな。
でも、そうか……」
は納得したように一度目を伏せると、
「ありがとう、ガイ」
表情をゆるめて、ふわりと微笑んだ
「――!」
見たことのない穏やかな表情にガイは言葉をなくす


 その表情を、綺麗だと思った


「っと……敵さんのお出ましだ。行くか、ガイ」
ちょうど敵が現れてすぐにいつものすました表情に戻ったが、確かに今、は笑っていた


――嬉しそうに、心の底から。









「――っと。
ここまできたらあと一息だ。一気に行ってしまおう」
剣を腰の位置で構えたまま、は後ろの面々に話しかける
「疲れてると思うが――イオン、大丈夫か?」
「はい。セントビナーで一晩休ませていただきましたから」
よし、と頷いては先を進む

ザブザブと足音を立てながら川を渡り向こう岸にたどり着くと、ルークがへばったようにその場にしゃがみ込んだ
「あー疲れた……
服は濡れるし靴は泥だらけだし……かったりー」
「ルーク、疲れているのはみんな同じなのよ」
「カイツールの国境には休憩用の小屋が設けられている
アニスと合流し船に乗る前に、そこで休ませてもらおう」
「できればあまり時間は取りたくないのですが……まあ良いでしょう」
と、言い終えてジェイドがふと視線をあげる
「そういえば……私たちは旅券を持っていますが、あなたたちは?」
「残念ながら俺は持ってない」
そう言っては肩をすくめる
「必要な物はケセドニアギルドで発行してもらうつもりだったからな」
「私とルークは超振動でとばされたから……」
足りない旅券は三枚
ジェイドはため息をつくと、ガイに訊ねた
「たしか、グランツ謡将もルークの捜索に当たっているのでしたね?」
「ああ。謡将にはカイツールから捜索してもらっている」
「今のままでは何も出来ませんし……
もし謡将と合流できたら無理が通らないか訊いてみることにしましょう」
「そうですね。僕の方からも頼んでみます」
「はぁ……それしかなさそうだな」
はため息をつく
「こういうやり方はあまり好きじゃないんだが……」
「仕方ないさ、起こってる事が事だからな」
「まぁな……
いや、ハプニングに巻き込まれるのも旅の醍醐味なんだ
そう滅多に体験出来ることでもないって考えることにするよ」
そう言っていつもの微笑みを浮かべるを見て、ガイは小一時間前の出来事を思い出す



  『ありがとう、ガイ』


そう言って微笑んだのあの穏やかな表情が、なぜだか忘れられなかった



  BACK   NEXT

――――――――――――――――――――――――――
  あとがき
アニメに追い抜かれたOTL;
セントビナーはすっ飛ばしました。なのでちょい短め。
フーブラス川のアリエッタはマンガでもアニメでもはしょられていましたし、
ぶっちゃけフォースフィールドのためのイベントですよ
アリエッタがライガクイーンに拾われたなんてコーラル城でもカイツールでも話せますし
とにかく仲のいい男子学生的なの目指して書いてみました。
 2008 10 19  水無月