日差しの降り注ぐ街道をチョコボに揺られながら進んでいく。
「えっとさ、、サン、は……」
少し戸惑いながら話しかけてきたティーダにはくす、と笑う。
「でいいわ。」
「ああ、んじゃ……は何でこんなところで魔物退治とかしてるんだ?」
「そういう仕事だからよ。」
「でもってスピラじゃ有名なんだよな?こんなことしなくてももっと普通に暮らせるんじゃないか?」
チラリとアーロンの方を見やりながらティーダは訊ねる。
「……そういう生き方は私の性に合わなかった。と言っておくわ。」
「んあ?」
「いろいろと事情があるのよ。」
そんな会話を挟みつつ、一行はジョゼの方面へと続く岩場の街道─通称キノコ岩街道へと到着した。
普段は人通りの少ない場所だが、今日は武装した人間が行ったり来たりしていた。
「何か随分物々しいな。」
「例の作戦の準備みたいね。」
数日前より噂されていた討伐隊の“大作戦”
ミヘン街道で聞いたその内容は、アルベド族の大型の機械を使った『シン』の撃退作戦ということだった。
「通れるのかな……」
不安そうな複雑そうなユウナたちを背に、はチョコボを降りて検問の兵士に話を聞く。
もうすぐ作戦が開始するとのことで、関係者以外は召喚士でも通行できないとのことだった。
「やれやれ……」
は小さくため息をつき、声色を変えて兵士に話しかける。
「マカラーニャ寺院僧官長シーモア=グアド老師の招集を受けてきたわ。面会を願えるかしら?」
「はっ!奥の本部でお待ちください!」
検問の兵士はピシッと姿勢を整えると、よく通る声で告げながら、ガラガラと門を開けた。
「ところで……私の連れと言うことで彼らを通してあげられないかしら?」
「はあ……申し訳ありませんが、こちらでは何とも。」
「そう。なら、仕方ないわね。」
は背後のユウナたちを振り返ると、
「本部の方で通ることができないか掛け合ってみるわ。少し待っていて。」
そう言い残して奥へと進んでいった。
司令部へと通されたはそれとなくあたりを見回し、目的の人物を捜すが、どうにも見あたらない。
「ちょっといいかしら。シーモア老師はどちらへ?」
近くにいた兵士に訊ねると、少し前に司令部を出た、とのことだった。
「入れ違いか……」
「直に作戦が始まりますから。もうすぐ戻ってこられると思います。」
「……仕方ない。」
はこの日何度目になるかわからないため息をついた。
結局相手が戻ってくるまで入り口で待つことに決め、元来た道を戻る。
その途中、護衛の兵士を数人つけた僧官とすれ違った。
ふと足を止めると向こうもこちらに気づいてか、こちらに歩み寄ってきた。
「おまえは確か……」
「……ご無沙汰しております。キノック老師。」
が頭を下げると、僧官に囲まれたウェン=キノック老師は訝しげに眉を寄せた。
「……伝説のガードがこんな作戦に参加するとはな。」
「シーモア老師直々にお呼ばれしたので。……それに、もう十年も前の話です。」
どこか含みのある言い方に、は淡々と返す。
この男とは老師に就任してから数度顔を合わせただけだが、その奥底には薄暗いものを常に感じていた。
それ故会話は冷静に簡潔に。向こうの視線をかわすように、「それでは」とは身を翻した。
入り口の近くへと戻ると、岩と苔ばかりの視界に異彩が入り込んだ。
自分をこの場所へと呼んだ当人──シーモア=グアドだ。
「シーモア老師、お待ちしておりました。」
姿勢を正しては声をかける。
「これはこれは……もう着いていたのですか。」
「つい先程到着したばかりで──」
直立不動の姿勢で淡々と会話を続けるの瞳に、また別の影が映り込む。
「……!」
シーモアの後から入ってきたのは先程置いてきたはずユウナ達の一行だった。
「……彼女たちは?」
冷静な表情を何とか保ちは短く訊ねる。
「私の口添えで通しました。安心してください。ご迷惑はおかけしません。」
「そういうことを言ってるんじゃないわ!」
「。」
素の口調に戻りかけたの口元に細長い指が突きつけられた。
「作戦が始まります。話はまた後ほど。」
ぱし、と抗議を止めたその手を払いのけ、は一人で奥の司令部へと戻っていく。
「……えっと、今の、どういうことだ?」
ティーダ達は、入り口の近くで行われたそんなやりとりを呆然と見ていた。
「さん……何かあったのかな。」
先ほどまでとは違うの様子にユウナ達は戸惑う。
「アーロンは何か知らないのか?」
「……知らんな。」
ティーダの問いに、アーロンは一瞬間を置いて答えた。
「の問題だ。俺たちが考えても仕方あるまい。行くぞ。」
「ここは高台になりますからあまり人を集めず、必要最小限の構成で配置しましょう。」
「それならこちらに……」
司令部での作戦会議をやや離れた場所では聞いている。
作戦を決行するのは討伐隊によるので、の仕事は要人警護──今回の場合はシーモアとユウナが対象になった。
いつものことだ。とは焦りかけた感情を抑えるように冷たい岩壁に背を預ける。
会議の場からやや離れたところでは、ユウナ達を迎えたキノックがアーロンとなにやら親しげに話していた。
ぼんやりとその様子を眺めていると、一頻り会話を終えたアーロンがこちらへと歩いてきた。
「…………」
「何か用か。」
会話ができる程度の距離を空けて隣に並んだアーロンをじっと見つめていると、そう話しかけられた。
「別に……アーロン、あの男と親しかったのね。」
「……昔の同僚だ。」
「ああ、なるほど。」
「お前も初対面ではないようだったな。」
「シーモアが僧官長に就任した時だったかしら、最初に顔を合わせたのは。あの男も老師に就任した直後だったわ。」
「……そうか。」
気のせい、だろうか。
アーロンの呟く声に、あまり見たことのない感情が見えたような気がした。
返す言葉が見えず、は海へと視線を戻す。
「──まもなく作戦開始となります!」
ほどなくして回ってきた伝令の兵士の声には身を起こした。
少し振り返って見たが、サングラスに隠れて表情はよく見えなかった。
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あとがき
どうあがいてもシーモアがただの変態にしかならない苦悩
2014 4 16 水無月