ミヘン・セッションが始まる。
手筈通り、囮のコケラが入っている檻へと雷撃が落とされた。
鼓膜を破らんばかりの爆音が響く中、皆の注目が集まる。
しかし、コケラが悲鳴を上げる気配はなく、さらに雷撃が追加され、音はますます激しくなった。
「……ちょっと。あれ、マズいわよ。」
顔をしかめながら事の成り行きを見ていたがぽつりと呟く。
直後、何かが壊れるような轟音とともに、巨大な影が頭上から降ってきた。
「下がれ!」
「下がりなさい!」
同時に叫んだのはとアーロンだった。
ズドン、とそれが着地した衝撃で高台が揺れる。
たちまち、どこからか悲鳴が上がった。
「こいつは……」
「合体したのか?!」
想定外のことに驚き戸惑う兵士達を手振りで下がらせ、は我先にと前に躍り出る。
特徴的な外観を繋ぎ合わせた異形。一目で『シン』の眷属とわかるそれを、は鋭く睨みつけた。
「失敗するとはいえ……ここまでのとばっちりはないでしょうが!」
懐からナイフを取り出し投げつける。だが、左右の腕に当たるとそれはたやすくはじかれてしまった。
「装甲型のパーツか……なら──」
魔法の詠唱に入ろうと距離を取る。
その背後で、またも破壊音が響き、地面が揺らいだ。
「っ……まさか!」
振り返ると、似たような異形がもう一体現れていた。
「あなたたち──!」
逃げなさい、と言いかけたの視界に、人影が走り込んでくる。
「こっちはまかせるッス!」
駆けつけたティーダ達がもう一体のコケラの前に立ち並んだ。
「!」
目配せしながらアーロンがの隣に並ぶ。
「了解。さっさと片づけましょう!」
ホルスターから銃を抜き、魔法陣を展開させる。
「業火の弾丸、瞬雷の矢──降り注げ!」
引き金が引かれ、二色の光が弾けた。
正面からアーロンが切り込み、その間を縫うようにの放った弾丸が休みなく炸裂し続けた。
瞬く間に腕が消滅し、頭が垂れ下がる。残るは胴体のみだ。
は両手に構えていた銃を連結させると、胴体部分の中心に狙いを定めて撃ち抜いた。
一瞬の静寂。苦しみもがく様子も見せず、コケラは絶命した。
「とりあえず大丈夫そうね。……向こうも終わったようだし。」
ふぅ、と息をつき、気を緩めたのもつかの間。
先程のコケラよりもさらに強大な──否、桁違いで、禍々しい空気があたりを覆い尽くした。
「『シン』──!」
肌を内側から震わせるおぞましい気配は、この世のモノとは信じがたい、けれど妙な現実感を伴って近づいてきた。
ゆっくりと姿を現した『シン』に向けて、まずはアルベド族の機械による砲撃が浴びせられる。
崖下の海岸線では生み落とされたコケラくずを排除すべく討伐隊の突撃が始まっていた。
しばし人間たちの猛攻が続いたところで、『シン』はその進行を停止する。
その行動が何を意味していたのか。瞬時に判断できた者は咄嗟に皆同じ行動を取った。
「全員、退避しなさい!!」
全力で叫んだの背後で、『シン』が動いた。
黒い外装を解除し、頭部から重力を練り上げ、徐々に拡大させていく。
やがて自らの巨躯を覆うほどに溜め込まれたソレが、一気に解き放たれた。
その瞬間、世界の全てが停止した──
重力波により、前線で戦っていた舞台は跡形もなく消し飛び、部隊は一瞬にして壊滅した。
さらにその余波が高台の司令部にまで押し寄せてくる。
「させない……!」
咄嗟には防御魔法を展開するが、威力を押さえきれず吹き飛ばされてしまった。
「っ……ん……」
大地から伝わってくる振動で、はゆっくりと瞼を持ち上げる。
どうやら吹き飛ばされた衝撃で気を失っていたらしい。
幸い大した怪我はなく、は立ち上がり、辺りを見回した。
すぐに目に付いたのは、赤い衣だった。
「アーロン!」
その正体に気づくなり駆け寄ると、肩を揺すりながら名前を呼ぶ。
何度か繰り返したところで、小さく呻いて、アーロンはゆっくりと体を起こした。
「よかった……大丈夫?」
「ああ。」
ほっとは安堵の息をつくと、立ち上がったアーロンをじっと見つめた。
「何だ?」
「いえ……ユウナたちを探しましょう。」
二人が周囲を捜索し始めてすぐ、何者かが戦っているであろう、音と振動が伝わってきた。
「──あそこ!」
は海岸の近くに魔物──『シン』のコケラと対峙する者の姿を見つけると、反射的に走り出していた。
「シーモア!」
はシーモアを庇うように前へ躍り出る。彼の傍にはユウナもいた。
軽く息を整え、目の前のコケラを観察する。どうやら先程ティーダたちが相手をしていたコケラのようだ。
「なんて生命力……二人とも下がっていなさい!」
は銃を構えると、アーロンと共にコケラへと向かっていった。
素早い動きでが翻弄し、アーロンが切り込む。
弱っていたためか、コケラはあっけなく動きを止め、今度こそ幻光虫となって消えた。
他の仲間達の無事を確認し、は海岸を見下ろす。
すでに多くの亡骸が海岸に横たわっていた。
圧倒的な力だ──それでも、まだ人間は諦めていなかった。
海岸の上に設置されたアルベド族の兵器が唸りをあげ、すさまじい量の雷撃が『シン』めがけて放射される。
ユウナ達が張りつめた表情で見守る中、は背を向けて拳を握りしめる。
そして、無情な終わりを告げる轟音鳴り響いた。
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あとがき
PS3のFF10HDリマスターやりはじめました。ムービーのクオリティがおかしい(褒め言葉
2014 4 16 水無月