「あ!来たよ、アーロンさん。」
「遅いっつーの。こっちは腹減ってんだぞ。」
連れてこられたのは公司内の食堂だった。
円卓を一つ陣取っている集団の元へ、アーロンはを連れて行く。
「アーロン、何やってたんだよ。」
「お前たちに会わせておこうと思ってな。」
そう言ってを彼らの前へ出す。
「ちょっと、何なのよ。」
はもちろんのこと、彼らも意図がわかっていないようだった。

「えーと……誰?」
ちょうど正面に座っていた金髪の青年が困ったように訊ねる。
「それは私も聞きたいわ……」
は溜め息を吐いて、相手を一人ずつ見る。
訊ねてきた青年をはじめ、大人しそうな少女やらロンゾ族やらと個性豊かな顔ぶれだ。
「とりあえず、この人たちが一緒に旅をしてるって人たち?」
「ああ。」
頷いて、アーロンは言葉を続ける。
「ブラスカの娘と……ジェクトの息子だ。」
「――!」
文句の言葉は一瞬で消えてしまった。
どうして今日はこうも予想外の人物に会うことが多いのか。
「あの……?」
言葉を失うに戸惑いながら、少女が声をかける。
「あ、ああ……ごめんなさい。少し驚いただけだから。」
小さく息を吐いて、自身を落ち着ける。
「あの人たちの子供に会えるとは思ってなくて。」
「父の知り合いなんですか?」
「親父のこと知ってんのか?」
金髪の青年と少女が同時に訊ねてきた。
「ええ。……自己紹介がまだだったわね。」
ゆっくり頷いて、は自分の胸に手を当てる。
「私は。十年前……ブラスカのガードとして、ジェクトやアーロンたちと旅をしていたわ。」
その瞬間、彼らの表情が一変する。
「あ……お、お名前は存じております。」
女の子と、その隣に座っていた男女が立ち上がり、恭しくエボン式の礼をした。
「ブラスカ様を守った伝説のガード……スピラで知らない人はいませんよ!」
どうやら自分は思った以上に有名らしい、とは困ったように笑う。
「そんな大層な人間じゃないわ。畏まらないで。」
「は、はい!」
「名前を、聞いていいかしら。」
「ユウナです。まだまだ未熟ですが、召喚士として旅をしております。」
「そう……アナタは?」
「ティーダっス。一応、ガードってことで。」
「一応?」
「えっと……何つったらいいか……」
ティーダと名乗った青年が口篭る。
「……まあ、細かい事情は聞かないでおくわ。」
他に座っていた三人の名前もそれぞれ聞いた。
アーロンも含め、皆がガードなのだという。
「へえ……多いのね。」
「よく言われます。」
率直なの感想に、ユウナは小さく笑う。
「でも、私にとってガードは安心して背中を預けられる人ですから。
そんな人がたくさんいてくれて、幸福だと思っています。」
は一瞬虚を突かれたような表情をして、
「……そう、ね。そうかもしれないわね。」
それからしみじみとした口調で頷いた。





そのまま流れで彼らと食事を共にすることになった。
七人で楕円状のテーブルを囲む。
大人数での食事は久しぶりのことで、自然と会話にも花が咲いた。
さんは、この十年間何をしておられたんですか?」
「まあ……適当にぶらついてた、というか……仕事で各地を回っていたわ。」
「仕事、ですか?」
「今はフリーランスの傭兵をしているわ。
仕事なんてほとんど街道の魔物の討伐だけれど。」
「あ、あの!」
話を聞いていたユウナが、不意に改まって切り出す。
さんは……ジェクトさんのこと、何かご存じないですか?」
「ジェクトのこと?」
はちらりと隣の席に視線をやる。
アーロンは、我関せずといった感じだ。
おそらく”そういうこと”にしているのだろう。
「……悪いけど、何も。十年前に別れたきりよ。」
「そう……ですか……」
「……死んだ、という話もまだ聞いていないわ。
旅をしていればどこか出会える機会があるかもしれないわよ。」
あ、とユウナは一瞬呆気にとられたような表情をして、それからくすりと笑った。
「?」
「いえ、その……さんも、アーロンさんと同じことを考えてるんですね。」
「どういうこと?」
「ルカでアーロンさんにお会いしたときも、同じように仰ってたので。」
アーロンが?とは驚いたようにもう一度隣に視線をやる。
「へえ……」
「……何だ。」
「別に?変わったのは見た目だけじゃないってことね。」
「え?それってどういう意味ッスか?」
興味ありげに口を挟んできたのはティーダだ。
「ああ、アーロンの昔の話が聞きたいの?」
ティーダははっきりと頷く。
周りへの興味を隠さない所は、確かにジェクトに似ている。
「まあ……昔はもっとわかりやすいヤツだったかな。
詳しく聞きたかったら、本人に頼みなさい。」
隣から強く諌めるような視線を感じて、はそう切り上げた。






それからはまた、他愛もない話に花を咲かせる。
「へえ……じゃああなたが優勝したオーラカの……」
「俺なんて大した事ないッスよ。
コイツが来てくれたから優勝できたようなモンですし……」
な。とワッカはティーダの肩に腕を回す。
「出来る選手の才能を見抜くのも重要なことじゃない。」
「あ、ありがとうございます!」
「でも残念だったよな。
あんなことにならなきゃもっとパーっと派手に優勝祝ってたってのに。」
そう言ってティーダは小さくため息をついた。
「ああ、突然魔物が現れたとかって話ね……」
は先ほど読んだ新聞の記事を思い出す。
「あなたたち、その時スタジアムにいたのよね?」
「あ、はい。」
「……その時の様子、詳しく聞かせてもらえる?」




シーモア老師の召喚獣による一掃で、マイカ総老師をはじめ観客に死傷者はでなかったという。
ユウナたちの話を聞き、は藍色の瞳を細める。
「……その召喚獣については、何かわからない?攻撃の特徴とか……」
「えっと、そこまでは……」
「そう……」
「すみません、お役に立てなくて。」
「気にしないで。変なことを聞いて悪かったわ。」
ぐい、とグラスの中の水を飲み干し、は席を立つ。
さん?」
「いろいろと話を聞きたいところだけど、明日に仕事を控えているの。
私はこのあたりで失礼させてもらうわ。」
ひらり、と手を振って、は食堂を後にした。



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  あとがき
 パーティキャラとご対面。
 ワッカはそんなに嫌いじゃないので褒めてあげてますが、現実的に考えると
 監督・コーチとしてはダメダメですよね、ワッカさん。
 2013 1 8   水無月