――マイカ総老師在位50年記念トーナメント、ビサイド・オーラカ奇跡の優勝
――大会終了直後、スフィアプールに魔物出現。『シン』の影響が疑われる
――ミヘン街道、一時封鎖のお知らせ……






「シーモア老師が召喚し、魔物を撃退……ね」
一面の記事をさっと流し読み、適当に畳んで机の上に放る。
「何がしたいのやら……」
仕事に備えて武器の手入れをしていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
「お休み中のところ、失礼致します」
廊下に立っていたのは客室担当の女性だった。
「何か?」
今日は誰も呼んだ覚えはないはずなのだが……
「その、大変申し訳ないのですが……」
女性は言い難そうに口篭る。
「本日は部屋が満室となっているのですが、召喚士様の御一行がいらしたもので、その、お部屋を……」
「……部屋を開けろって?召喚士ってのもいいご身分になったものね」
「い、いえ!お客様はこちらの部屋でお休みなさってください。
ただ、その……相部屋にご協力いただけないでしょうか?」
告げられたのは、予想外の内容だった。
「相部屋?」
「はい。部屋の都合で、お一人様分ベッドが用意できなかったもので……」
「ふーん……そりゃまたずいぶんと大所帯な召喚士もいたものね」
よほど過保護に育ったのだろうか、などとぼんやり考えを巡らせてみる。
「ま、どうせ1日もしたらここを発つし……あとは相手の人と直接交渉させてもらえる?」
「かしこまりました。相手方のお客様を呼んでまいります」
女性がいなくなると、は再び武器の手入れをし始めた。






それから程なくして、またノックの音が聞こえた。
「はい」
「相部屋を希望されるお客様をご案内しました」
「ありがとう。さて……」
ドアを開けて、女性に礼を言う。


それから隣に立っている人物に視線を移して――


「――え?」
は、言葉を失った。


まさか、そんな、どうして、
一瞬で頭の中が真っ白になる。


「…………」
相手は何も言わない。
「あの……お客様?」
凍りついた空気の中、居心地が悪そうに女性がを見上げる。
「宿泊予定は1日とのことなのですが……如何でしょう?」
「ああ、ええと……「相部屋でかまわん」
が答えるより先に、相手のほうが頷いた。
低い男性の声に、は反射的に眉を吊り上げる。
「ちょっと、何勝手に……」
「何か問題があるのか?」
「それは……」
「ならいいだろう」
はあ、とは呆れたように溜め息を吐いて、女性に向き直った。
「まあいいわ。私も相部屋でかまわないから。手間かけさせてごめんなさい」
「いえ。ありがとうございます。それでは失礼致します」
深く一礼して、女性は去っていった。


足音が遠ざかってから、は相手を部屋の中へ招き入れる。
「はあ……」
開口一番、漏れたのはまたも溜め息だった。
「……で、何の冗談よ」
ベッドに腰掛け、相手の男性を見上げる。
赤い衣が翻って、相手も同じようにこちらを見下ろす。
「どうしてアンタがこんなところにいるわけ」
「それは俺の台詞だ。お前こそ何故ここにいる」
決して友好的とは言えない視線が交錯する。
「……」「……」
しばらく二人はそうしていたが、やがての方が小さく溜め息を吐いて、視線を逸らした。
「融通利かないのは、相変わらずね」
言葉の中に呆れたような笑みを含めて、はもう一度見上げた。
「久しぶり……ね。アーロン」
「……ああ。あの時別れて以来になるか」
そうね、とは小さく頷く。
「正直言って、さっきは驚いた」

扉を開けた瞬間、言葉を失った。

そう言っては口元をわずかに緩ませる。
「大抵のことに驚かない度胸と経験はつけたつもりだったけど……
敵わないわね。アーロンには」
「今更だろう」
僅かに笑みを浮かべて、アーロンも隣のベッドへ腰を下ろした。
「とはいえ……俺も驚いたことに違いはないな」
「え?」
「薄く気配は感じていたが、扉が開くまでお前だという確信はなかった。
先ほどまで、お前がここにいることも知らなかったしな」
「そうなの?ちっともそんな素振り見せないのね」
「……俺がどういう性格かはわかっているだろう」
「十年前までならね」
ちらりと、隣のアーロンを見やる


その背中も、言葉も、表情も……十年前の彼とは違っていた。


「……何かあったの?」
そして纏う雰囲気もどこか変わっていて、
微かに不安を覚えながらもは訊ねる。
「……」
「あまり話したくない……ということ?」
アーロンは何も答えない。
無言は肯定と受け取って、はふと先ほどの女性の言葉を思い出した。
「それより、さっき召喚士がどうのって聞いたけど……」
「ああ。共に旅をしている」
「また……ガードになったの?」
頷くアーロンを見て、の表情に僅かに影が差す。
「……あれだけ辛い思いをしたのに、また誰かのために剣を預けられるの?」
「ああ」



「……そう」
は小さく頷いて、顔を上げる。
「それだけの人に出会えたということね。
アーロンにそこまで言わせるような召喚士か……」
どんな人物かと想像を巡らせていると、不意にアーロンが立ち上がった。
「?」
どうした、と訊ねる間も無く腕を掴まれて、そのまま引き上げられる。
「っ……アーロン?」
「話がある。少し付き合え」
「ここでは駄目なの?」
「お前に会わせたい奴がいる」
「え?」
行くぞ、との腕をつかんだまま、アーロンは部屋を出て歩き出した。




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  あとがき
 プロローグです。お相手はアーロンさん。ヒロインは傭兵をやっています。
 原作沿いの連載なので引用が多くなりますが、どうか見守ってやってくださいm(_ _)m
 2008 2 24  加筆修正  水無月

 2011 3 20  修正のあとがき
 長らくお待たせしてスミマセンでしたm(_ _)m
 あれからまたFF10を引っ張り出してストーリーを自分なりによく読みこんでみました。
 つくづく名作だと思います。そして改めて、きちんとこの話を完結させたいと思いました。
 修正についてですが、ヒロインの基本設定・役目、話の流れはほぼ変わりません。
 ただ、性格がだいぶ変わっています。戦い方や言葉遣いにはわりと顕著に現れるかもしれません。
 もしも前のヒロインが好きだ!という方がいましたら、申し訳ありません;;
 この新しいヒロインも好きになっていただけると嬉しいです。
 それではまた、よろしくお願いします。