『お久しぶりです。
今日は先輩の誕生日でしたね。おめでとうございます』
女の子らしく、絵文字をつけてみたメール画面を見つめ、ははあ、とため息を吐く。






――――9月
「それじゃあ、後は頼んだよ、赤也
も、大変だろうけどがんばって」
「まかせてくださいって!来年は青学をぶったおして優勝してやるッスよ!」
ぐっと拳を握り締める赤矢の隣で、はくすりと微笑む。
「それじゃあ、まずは寝坊しないようにしないとね」
「うっ……」
どっと談笑が起きて、赤也はしゅんとなる。
「たまに見に来るからな。もしたるんどるようなことがあれば……」
「わ、わかってますって!」
まだ残暑の残る中、年相応の笑顔で笑いあった。


「まあ、部活もいいが、勉強のほうもちゃんとしろよ、赤也」
「それは大丈夫でしょう。さんがついていますし」
「そうだな。、これからは今以上にしごいてやってくれ」
「ちょ、柳先輩まで!」
ほとんどが赤也をからかったり多少は心配するような話だったが、こんなに笑いあったのは久しぶりだった。


「さてと……俺たちはそろそろ帰るか。
ではな。赤也、
「ま、無理しない程度にがんばれよ」
「はい。先輩方もお元気で。
今までありがとうございました」
「よい結果を期待していますよ」
「まかせてくださいっ!!」
ふと、柳生と並んで歩いていた仁王がこちらを見て足を止めた。
「……?」
見上げて、視線がぶつかりそうになると、仁王はふい、と目を逸らした。
「……高校で、待っとる」
「え……?あ……はい」
それが、最後に交わした言葉。






そして季節は夏から秋へと流れ、今は12月。
そろそろ本格的に防寒具を出そうかと考え始める時期になった。



「はあ……」
メール画面を見て、本日何度かのため息を吐く。
メールの送信相手の欄には『仁王雅治』の文字があるのに、送信ボタンは押せないまま。




――片想いをしていた


いつからなんてわからないが、気がついたら惹かれていた。
けれど結局想いは告げられないまま、その想いは今も消えることはなく、
淡い恋心に戸惑う指先を見つめては、ため息を繰り返していた。



「おーい、―」
そんな風に物思いにふけっていると、誰かに声をかけられた。
顔を上げると、クラスメイトが教室の入り口を指している。
「隣の切腹が呼んでるぞー」
「赤也が?」
携帯をポケットに突っ込み、入り口へ向かう。
「何かあったの?」
「いや、ちょっとな。
なあ、今日部活終わった後用事あるか?」
「特に、無いけど」
それがどうかした?と目で訊ねる。
「今日先輩たちが部活見に来るってよ」
「えっ……」
「しかも今日仁王先輩の誕生日らしくてさ、部活終わった後みんなで遊びに行くってよ
んで、俺たちも来るか?って」
「……」
先輩たちが来る。
突然のことに、の思考は停止してしまった。


誕生日なのは、知っていた。
けれどまさかこんな事態になるなんて、予想してなかった。
?どうしたんだ、行かねえのか?」
「あ、えと……ちょっと待って!」


あわてて首を横に振り、ポケットの中の携帯を確かめる。
……直接、言えるなら言った方がいいかな。
できるかどうかもわからないことに仄かな期待を抱く。
?」
「あー、ゴメン……」
「え、行かねえの?」
「違う違う。そうじゃなくって……
まあいいや、うん。私も行くよ」
「オッケー。先輩に言っとくぜ。じゃあな!」
赤也が戻っていくのと同時に、チャイムが鳴る。
「……」
ポケットの中のメール画面を保存し、も自分の席へと戻った。








そして瞬く間に時間は過ぎ、放課後を告げるチャイムが鳴った。
、行こうぜ」
教室を訪ねてきた赤也に頷いて、鞄を肩にかけて、
「……あ、」
「どうした?」
そういえば、プレゼントを考えていなかった。なんてことを今更思い出す。
……けれど何が好きで、何が欲しいのかを知らない。
「……仕方ないか」
「何ぶつぶつ言ってんだ?お前、今日変だぜ」
「何でもないよ。
行こ、真田先輩に見つかったら“たるんどるっ!”って言われちゃう」
「うわ、そりゃカンベン!」




練習を始めてから程なくして、コートに足音が近づいてきた。
「あっ……」
「先輩!」
3年生元レギュラーの登場に、コート内は一気に賑わう。
「やあ、久しぶり」
たった3ヶ月と少し会っていなかっただけなのに、懐かしく感じる。
「ああ。いいよ、赤也。練習を続けて」
「ういッス!」
勢いよく頭を下げて踵を返した赤也の背中を微笑みながら見つめていると、も声をかけられた。
「やあ、
「こんにちは、幸村先輩」
「調子はどうだい?」
「まずまず……といったところです。みんな頑張ってますよ」
「そうか。それなら一安心かな。
けど、何かあったら俺たちも相談に乗るから。一人で抱え込まないでくれよ?」
「ふふ。ありがとうございます」
そんなことを話しているうちに、コートを使っての練習が始まった。
パコーン、と心地のよい衝撃音が響く。
。お前の目から見て、赤也はどうだ?」
しばらくコートの様子を見守っていた真田が不意に訊ねてきた。
「私は……頑張ってやってると思います。それに、」
はコートの中の赤也を指す。
「あれで赤也って面倒見がいいんですよ。
ただちょっと不器用というか、荒削りなだけで。
それでも、自分なりに努力して、部を引っ張っていこうとしています」
指差した先の赤也は、どこかたどたどしい手つきながらも一年生に指導していた。
「真田先輩が思っている以上に、赤也は成長してますよ。だから安心してください」
が微笑むと、真田は生真面目な表情で、そうか、と頷いた







「――それじゃあ、今日は終わりだ。解散!」
赤也の号令で部員たちがぱらぱらと帰宅を始める。
最後にコートの鍵を閉め、赤也がやってきた。
「お待たせしましたーっ」
「おつかれ様、赤也」
幸村が缶ジュースを渡す(いつの間に用意したのか)
「あざっす!
先輩、俺の部長っぷり、どうでした?」
「うん。まあまあといいたいところだけど……よく頑張ってるな、赤也」
「うむ。だが慢心はするな。さらに精進し、上を目指せ」
「わかますって。
それより、今日仁王先輩の誕生日なんスよね?」
「ん?ああ、お前たちも着いてくるんやったな」
「んで、どこ行くんスか?」
「これから決めるところですが、ここはやはり仁王君に決めてもらうのが筋でしょう」
「俺はどこでもエエきに。適当に決めてくれ」
こんなやり取りも久しぶりで、はほほえましくその景を見守る。
「やっぱこうスカーッとすることがしたいッス!」
「バッティングとかか?……あ、ボウリングもあったな」
「しかし、この時間では半端に終わって消化不良になるぞ」
時計を見て柳が冷静に言う。
「そうだね。それにも来るんだから、一緒に楽しめるものにしないと」
「えっ?あ、はい」
不意に名前を呼ばれ、ははっと我に返る。
、どこか行きたい所はあるか?」
「私は特には……」
「ふむ……なかなかいい案が出ないな」
真田が困ったように腕組みをする。
「あ、でしたらカラオケボックスはどうですか?食事もできますし」
「カラオケか……うん、たまにはいいね」
幸村はにこりと笑う。
「仁王、みんなもそれでいいかい?」
特に異論はなく、そのまま駅の近くにあるカラオケボックスに向かうことになった。




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 あとがき
仁王誕生日おめでとう!久しぶりに書いたら長くなったのでぶったぎるよ☆
仲良し立海家族が好きです。