「雨、か……」
空を見上げ、はぽつりと呟く。
待ち望んでいた日の出も、今年は曇り空で見えなかった。
「でも……まあ、いいか」
玄関脇に置かれていた傘を手に取り、そっと開く。
使い込まれた傘の中に入って、はくすりと微笑んだ。



雨にもかかわらず特有の賑わいを見せる城下町を通って、はのんびり城を目指す。
鉛空の所為であたりは薄暗いのに、通りは人で溢れていた。
「あ……」
ふと、あるものが目にとまった。
やわらかくて、食欲をそそる匂いがを動かす。
「――あの、これいただけますか?」





それから、いつもより少し遅い時間に登城する。
「おはようございます」
傘を閉じて、丁寧に頭を下げる。
「今年もよろしくお願いしますね」
がにこりと微笑むと、門の兵もそれにならって頭を下げた。



先日掃除した城は、床まで綺麗に磨き上げられていて気持ちがいい。
自分も侍女たちと一緒に汗を流して磨いていたので、それがまた嬉しくなる。
「よお、
「政宗様」
と、その嬉しさに頬を緩ませていると、角から出てきた主に声をかけられた。
「新年明けましておめでとうございます。
本年も国のため誠心誠意尽くさせていただきますので、どうかよろしくお願いします」
「年が明けても相変わらずだな、お前は。
ま、よろしく頼むぜ」
そのままの肩を叩こうとして、政宗は手を止める。
そして、苦笑を浮かべながら呟いた。
「Ah……新年早々、珍しいこともあるもんだ」
「何がです?」
彼の言わんとすることを理解し、はむ、と唇を尖らせる。
「そりゃ、お前がんなもん着るなんてなあ」
「別に、可笑しくはないでしょう」
「いや、可笑しいだろ。
俺は今まで見たことねえしな」
「去年もその前もその前の前も、雑務に追われて用意する暇がなかったんですよ」
「Sorry,そいつは悪かったな。
なら、来年からもお前の仕事は減らしておくか」
「そ、そんなことしたって毎年着るなんてことは……!
今年はたまたまです。ちょっと、気が向いたから……」
「Ha!どうりで雨も降るわけだ。
祭りの時ですら浴衣着ねえで年中似たような着物のお前がいきなりそれだからなあ」
「悪かったですね。
……どうせ、私には似合いませんよ」
はあ、とはため息をつく。
予想以上に落ち込んでしまったらしい。
「So good.綺麗だぜ、
政宗は軽くの肩を叩くと、そう言い残しての横を通り抜けていった。
「……まったく」
不器用なお方だ。
我が主ながらも若いものだと思ってしまう。
そして同時に、もっと不器用な男の顔が浮かんだ。




「小十郎様、にございます」
部屋の前に着き、障子越しに声をかける。
返事はすぐに返ってきて、は静かに戸を開いた。
「明けましておめでとうございます、小十郎様」
「ああ。……ん?お前、」
顔を上げた小十郎は、の姿を目に止めて思わず言葉をなくす。
「……小十郎様?」
「いや……珍しい格好をしていると思ってな」
「……そんなに、可笑しいですか」
さすがにこれだけ言われると少しへこむ。
こんなことならいつもの格好にすればよかったかもしれない。
「……そんなことはねえよ」
小十郎はゆっくりと立ち上がっての前に膝をつくと、
「――よく、似合ってる」
そう言っての唇に口付けた。
「…ん……」
しばらく触れて、それからそっと離れる。
「……新年早々、ですか」
「お前がそんな格好で来るからだ」
「えっと……褒め言葉、ということで受け取ってもいいですか?」
「……好きにしろ」
ぶっきらぼうに言って、小十郎は部屋の奥へ戻る。
はくすりと笑みをこぼして、部屋の中に入った。




「あ、そうだ」
は行きがけに手に入れたものを思い出し、懐から取り出す。
「町でお餅をついていたんで、少し頂いてきたんです。
よろしければ、お召し上がりになりませんか?」
「ああ、貰おう」
丁寧に包みを開き、まだほのかに温かい餅に端を添えて差し出す。
小十郎は一切れ食べて、美味いな、と嬉しそうに言った。
「こんな天気でも、町はにぎやかですよ。
今年も一年、国のためにがんばろうと思わせてくれます」
「お前らしい言葉だな。
――今年も頼んだぞ、
「はい。こちらこそ」


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 あとがき
遅れた挙句こんな短文章で申し訳ないorz
伊達主従はある意味似たもの主従だと思うんです。
ほんとはもっといろいろやりたかったんですが、収拾つかなくなりそうだったので;;
一応ノリだけで書いてみたやつがあります。
途中でぶった切ってありますのでご了承ください。→こちらから。