「バトル!天空騎士パーシアスでプレイヤーに攻撃!」
光を纏った白馬の騎士が攻撃の態勢を取る、
この攻撃が通れば勝てる──終わる。
「早く……終わらせないと……」
どことなくよぎる不安を振り払い、はっきりと攻撃を宣言する。
「ダイレクトアタック!」
「リバースカードオープン。罠カード──」
「?!」
非常な声が告げる。
閃光に包まれるフィールド。
そして、私の視界は白く塗りつぶされた──
「──ぁ?!」
目が覚めると同時に、身体がビクン、と跳ねた。
「ぁ……はあ……っ……」
胸が苦しい。何度か深呼吸を繰り返すと、息が詰まるような感覚は徐々に消えていった。
「大丈夫か?」
抑揚の欠けた声に意識を向けると、見慣れた顔がこちらを覗き込んでいた。辺りはまだ暗く表情はよく見えない。
「え……?どうして……」
「訊きたいのはこちらだ。ずいぶんとうなされていたようだが、何かあったのか?」
「あ……えっと……」
言葉を交わして、ようやく現実感が戻ってきた。
はゆっくりと身体を起こし、小さく口を開く。
「……夢を、見るんです。」
ゴーストによる騒乱から数日が過ぎた。
遊星たちの活躍もあって大きな被害は出なかったが、ゴーストという得体の知れない存在との命がけのデュエルは、恐怖となっての記憶に残った。
「あれから何度か夢に見るんです。
ゴーストとデュエルをしていて、とどめの一撃で返り討ちにあって……
倒れた私を、その相手が見下ろしているんです。そしてヘルメットを外すと、」
言いかけて、ははっと口をつぐむ。
「っ……」
──デュエルに負けたを冷徹に見下ろしていたのは、今目の前にいるこの男だった。
絶望の中で意識が遠のいて、そこで悪夢は終わる。
夢だとわかっていても、思い出すたびにあのときの恐怖と不安に心が塗りつぶされていく。
「…………」
ふるふる、との身体が震えている。
デュエルのセンスが飛びぬけているというだけで、彼女も元は一般人だ。
恐怖を感じるのは当たり前といわれればそうなのだろう。
「……ダメですね、私。
遊星やアナタの力になるって決めたのに……覚悟、全然できてない……」
声もかすかに震えている。ぎゅ、とシーツをきつく握る手は白くなるほどに力がこめられている。
「こんなままじゃ……私、パートナー失格ですね。」
そんな、今にも泣きそうな表情に、胸の奥が強く締め付けられるような感覚を覚える。
「──、」
自分は何をしてやれるのか、と考えるよりも先に身体が動いていた。
「あ……」
弱弱しい声がこぼれる。
手を伸ばして抱き寄せると、小柄な彼女は難なく腕の中に納まった。
「辛い思いをさせてしまってすまない。
……キミの悩みに気づいてやれなかった、私こそパートナーとして失格だった。」
「っ……」
否定するように、は小さく首を振る。
「、キミはこれまで何度も私の力になってくれた。だから今度は私がキミを支える番だ。」
ゆっくりと、諭すように言葉を続ける。
「キミは一人ではない。チーム5D'sという仲間がいる。そして、私というパートナーがいる。
苦しいときはいつでも助けを求めればいい。何があっても必ず駆けつける。」
「何が、あっても……?」
「ああ。約束する。私たちはパートナーなのだからな。
そしてキミとなら、どんな敵にも立ち向かえる。私はそう信じている。」
その言葉をかみ締めるようにしばしうつむいて、それからゆっくりとは顔を上げた。
「……そう、ですよね。私は、一人じゃないんだ。」
「もう大丈夫だな。」
「はい。ありがとうございます。」
少し照れたようには微笑む。
手の甲をくすぐる細い髪を軽く梳きながら、柔らかなその根元に顔を埋める。
そっと口付けると、驚いたような声がこぼれた。
「おまじない、というやつだ。もう悪い夢を見ないようにな。」
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あとがき
短編の練習として取り組むお題、トップバッターはまさかのアンチノミーさん。
あれだね、名前呼べないの、難しい。
最後に無理矢理オチ付けた感。
つむじにキスしようと思うと背が高くないと!で真っ先に思いついた高身長キャラだったので。
2013 10 30 水無月