「ーッ!!」
きっと、叫ぶよりも身体が先に動いていた
「ゼローッ!!」
けれど、伸ばした手は届かなくて、
あと一歩、彼女の傍にいたら、助けられたのに
事の始まりは今朝
最近発見された未開の島で、レプリロイドが何者かに破壊される事件が相次いでいるとの報告があり、ハンターベースはこの島の調査に、ゼロを隊長とした小隊を派遣することになった
「私も同行するわ」
メンバーとの顔合わせ、確認を行っていたところに凛とした声が通る
「――?」
かちゃり、と専用のメットを装着しながら、はゼロに歩み寄る
「ここ数日、あの島で妙なエネルギー反応が頻繁にでているの。
何かレプリロイドのものであるとは思うんだけど……これだけは自分の目で確かめないと」
「危険度も内部状況も未知数なところに、人間(そ)の身体で行くのか」
「アーマーは最高基準に合わせてあるわ
戦闘用レプリロイドを相手にしない限りは安全よ」
「……そのレプリロイドが潜んでいるかもしれないぞ」
「そうなったら、貴方が守ってくれるのでしょう?」
整った顔で綺麗に微笑まれ、ゼロは一瞬言葉に詰まる
「最低限自分の身を守る術は整えてあるわ。
迷惑になるようなことだけはないはずよ」
きっぱりと言い切る彼女の瞳には迷いがない
「――好きにしろ。俺は止めない」
ゼロはそう言い残し、足早にその場を去った
「ここが……あまり荒れている様子がないわね」
例の島に入り、少し進んだところで、が呟く
「随分古いけど、最近誰かが手を加えた形跡はないわね」
「ああ――だが、外からの客は歓迎されてないようだな」
ゼロと同じ方向に視線を合わせ、は息をのむ
視線の先には――無惨に破壊されたレプリロイドの亡骸があちこちに転がっていた
頭部、胴、四肢、
どこも一撃で切断されており、その潰れた切り口から内部の構造が見え隠れしている
そしてどのレプリロイドも、心臓部に埋め込まれている核が強引に抉り取られていた
「これが、例の……」
「だろうな。そして同一人物による犯行だ」
「――そうね。武器は……おそらく、平刃の、先の広い形のセイバー。
目的はわからないけど……イレギュラーか、思考が限りなくそれに近い奴よ」
「こんなことをする奴の思考なんざ興味のかけらもないがな」
「まぁ、ね……先に進まないと何ともいえないけれど」
そうして小隊はしばらく先に進んだ
「妙ね……」
「どうした?」
「例のエネルギー反応なんだけれど……
ソナーの反応がおかしいのよ」
データの端末を操作しながらは眉をひそめる
「反応の方向が一致しないの」
「どういうことだ?」
「今は3つのソナーを使っているのだけれど、それぞれの反応源の方向が一致しないの
時々合うのだけれど、すぐに分かれてしまうし……何が起きているの?」
「それを調査するのが任務だろう」
「そうね……
だけどこれは――「おっと。もうそこまできたのか」
突然割り込んできた声に、皆驚き、咄嗟に身構える
警戒を強め、辺りを見回すと、通路の壁にもたれかかる影があった
「あれは――?」
コツコツと軽快な足音をたて、それは近づいてくる
そして、その姿が光の元にさらされ――
「お前は――!」
瞬時に何かを悟ったゼロが、一歩前へ出た
「ゼロの旦那、久しぶりだな」
「ダイナモ……今度は何を企んでいる!」
セイバーに手をかけ、ゼロの鋭い言葉が飛ぶ
「新しいご主人様のために身を粉にして働いているのさ」
悪びれた様子もなくいけしゃあしゃあと言ってのけるダイナモに、ゼロはさらに鋭い視線を向ける
それだけで生物を射殺せそうな視線をくぐり、ダイナモは普通に近づいてくる
「――というわけで、こいつはもらってくぜ!」
「えっ?」
ほんの、一瞬のことだった
「よ、っと」
相手の素性を知らず、事情が飲み込めないは、軽々とダイナモに担ぎ上げられた
「ちょ、何?!」
「じゃあな!」
そのまま、ダイナモは走り去ってしまう
「あ……ゼローーッ!!」
「待てっ!……ーーッ!!」
互いに手を伸ばすが、その指先がかすっただけで、二人は引き離されてしまう
「この俺としたことが……」
吐き捨てるように呟き、抜かれる暇を与えられなかったセイバーから静かに手を下ろす
ぎり、と奥の歯を噛みしめ、ゼロは拳をきつく握りしめる
あと一歩。それだけだった
届くことの無かった指先をじっと見下ろす
の立場や仕事のことを考慮し、彼女とは常に一歩距離を置くようにしていた
それが互いにとって一番良いことだと思っていた
それなのに――
「隊長、どうしますか?」
気を遣いながら、部下の一人が訪ねる
「――俺が、奴を追う。
お前たちは先に進んでいろ」
振り向くことなくそう言い残すと、ゼロは閃光の如く駆けだした
目の前で彼女を連れ去られ、何もできなかった自分
怒りとともに押し寄せてきたのは、後悔の波
この状況に陥り――ようやく、自分にとっての彼女の存在に気づく
愛だ恋だと戯れるつもりは無い
ただ、護るべき存在なのだと
「――ダイナモ!」
ザリ、と地面を踏みしめる音が響く
「意外と早かったな」
「あいつは――は何処だ!」
「まぁそう殺気立つなって」
「に何かしてみろ。この場でお前を再起不能にしてやる」
「怖いねえ。――いや、なるほど。そういうことか」
にやりと意味ありげに口角をつり上げ、ダイナモは楽しげに言う
「冷酷無情で名高い旦那も、女が絡むと熱くなるんだな」
「――いつまでお喋りを続ける気だ?
悪いが俺は先を急いでいる。死にたくなければそこをどけ」
静かに、抑えられた口調だが、その蒼色の瞳には強い怒りが宿っていた
「俺としては旦那を相手にする気はないさ。こっちもただじゃすまねえし
けど、あの女はもらっていくぜ。仕事だからな」
「そうか――ならば、力ずくで通るまでだ!」
風を斬る音と共に、赤い閃光が疾る
きいん、と刃のぶつかり合う音が木霊し、拮抗し合う二つの影
幾度と無くぶつかり合う二人は、互いに一歩も引かない
冷たいさっきに満ちた空間で、赤い影――ゼロはゆっくりと、構えたセイバーをおろした
「もうやめるのか?」
嘲るような口調でダイナモは訊ねる
「――あぁ。そのつもりだ」
酷く静かな、落ち着いた口調
「へえ。面白いこともあるも……――――っ?!」
笑みを浮かべたダイナモの言葉は遮られ、その表情が瞬時に凍り付く
「――終わりだ」
瞬時に彼の視界から消えた赤い閃光が、その背後へ音も立てず降り立つ
「がっ……!」
ごとりと鈍い音を立て、ショッキングピンクのセイバーが藍色の腕と共に転がり落ちる
「なっ――」
驚愕の表情を浮かべるダイナモに、ゼロは冷然とした口調で言い放つ
「言ったはずだ。
俺は先を急いでいる。これ以上お前につきあってやるつもりはない」
一度だけ背後を振り返り、ゼロはさらに奥へと駆けていった
「――!」
一番奥のエリアに駆け込むと、その奥には金属の無機質な台が設置されていた
そして、その上に横たわる白い影
「!」
駆け寄り、安否を確かめる
死んだようにぴくりとも動かない
マイナス方向に働く思考を振り切り、その白い身体を抱き起こす
「…………」
薄く、ほんの少しだけ開いた唇から、微量の息が漏れている
「眠っているだけか……」
目立った外傷も見つからず、何よりその身の無事に安堵し、ゼロは彼女の肩にそっと手をかける
「、起きろ」
「…ん……」
何度か肩を揺すると、わずかに身じろぎして、ゆっくりと瞼を持ち上げる
「ゼロ……?」
「気がついたか」
「私……」
「詳しい話は後で聞く。歩けるか?」
「……ダメ、力はいらない」
弱々しい声音で答える
「そうか」
「……迷惑かけたわね」
「気にするな……それより、少しじっとしていろ」
「えっ?あ――」
言うが早いか、ゼロは、くたりと腕に身を預けるを、そっと抱きかかえる
「ゼ、ゼロ?!」
「動けないのなら仕方ない。――少し、我慢していろ」
「あ、うん……」
普段より優しい声音で窘められ戸惑いを感じながらも、はゼロに身を預けた
ゼロはの身体の重みを、
はゼロの腕の感覚を、
互いの存在を間近に感じ、二人は内心、そっと安堵の息をついた
「……ゼロ、」
「なんだ」
「ありがとう、というべきよね……」
「気にするなと言っただろう
今回は敵を前にしながら早くに始末しなかった俺の不手際だ」
「それは……私の油断よ。
だから……」
きゅ、とはゼロの胸元に顔を埋める
「?」
「ごめんなさい。本当は……少し怖かった」
うつむき呟くの身体は、小刻みに震えている
「……」
ぎゅ、と華奢な身体を強く抱き、ゼロは耳元でそっと囁いた
「お前は……俺が護る。何があってもだ」
誓いのように額に寄せた唇が、優しい熱をともした
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あとがき
Brandy様のロックマン20周年企画に投稿した作品です。
ヒロインの豹変にはつっこまないでくださいOTL
ダイナモは都合上勝手に出てきてあっさり消えました;ファンの人ごめんなさい;;
ゼロってクールなキャラ設定だけど結構熱血系ですよね。
2007 12 9 水無月