形のない時間




  A.M.1時 
 「――ゼロ?」
 ベッドの軋みを感じ、声をかければそれは反応した。
 「起きていたのか、
 まぁね、と答えれば呆れたようなため息が返ってくる。
 「ため息つかない。幸せ逃げるわよ?」
 「うるさい」
 ゆっくりと体を起こし、ベッドの縁に腰掛ける。
 「それに……良いのよ、私は。
 帰ってきたのも10時過ぎだし……」
 それより、とは顔を上げる。
 「ご飯食べた?私はもう適当にすませてきたけど」
 「あぁ。エックスと飲みに行ったついでにすませてきた」
 「そう」




  とゼロは警視庁に勤めている同僚だ。
 は抜群の情報操作で捜査を進め、ゼロは行動力と判断力の高さを買われ、隊の指揮をとっている。
 また、二人のコンビネーションは群を抜いており、右に出る者がいるかと問えば……たとえ国内であって も答えはNoだろう。




 「――あぁ、そっか。エックス帰ってきたんだっけ。さっきエイリアからメール来たけど」
 ゼロの言葉を思い出し、確認するように呟く。
 エイリアは情報収集を担当するエックスの幼馴染みであり、の同期だ。 
 「あぁ、丁度現場に居合わせてな。
 おかげで無事容疑者を逮捕できた」
 そりゃあね、と思わず苦笑を漏らす。
 「警視庁実力ナンバー1,2を争う二人が揃って逮捕できない奴なんていないんじゃないの?」
 

  エックスとゼロは入ったときからのライバルであり、良き友である
 二人の実力は入隊当初から一際目立っており、現在では警視庁で1,2を争っている。


 「まぁ、二人揃ってたのに捕まえられなかったら確実にクビ切られてたね」
 「物騒な話をするな」
 「物騒でも話が出来る状態で帰ってきてくれたら私は良いけど」
 くすりと微笑み、こつん、とゼロの胸に額を押し当てる。


 「おかえり、ゼロ」
 「あぁ」



  この短いやりとりがこんなにも幸せに感じる。
  ゼロが無事だった。
  現金な話かも知れないけど、私にとってはそれだけでもう十分だと思える。
  疲労感とか、不安とか、待ち遠しいとか、
  そんな感じの身体に溜まった複雑な感情が、ゼロの声を聞くだけで一気に抜けていく。
  ゼロがいるだけで、世界が変わって見える。

  「――」
 名前を呼ばれ、顔を上げれば海のような蒼色の瞳がすぐ間近にあって、
 見つめ合い、どちらからともなく口付ける。
 「…っん……」
 深くなる口付けに息苦しさと快感を覚え、ぎゅ、としがみつけば
 「――寝るか?」
 少しだけ離れた唇から優しく囁かれる。
 「ん…そうする」









  A.M.9時
 「…んん……」
 ふと目を開けると、同時にその声を拾った。
 声の主はこの腕の中で穏やかに眠っている。
 「――もうこんな時間か」
 ベッドサイドの時計に目をやると、いつもの起床時間はおろか、始業の時間すらもとっくに過ぎていた。
 寝過ごしたか――、と内心こっそり呟くが、大して気にはならない。
 むしろ、このままでいたいという脳天気な欲望の方を強く感じる。
 肌が触れ合う感触、胸元を擽る髪の香り、シーツに残る温もり
 手放し難いと、つい腕に力を込めてしまう。
 「……ん……ゼロ?」
 もぞ、と身動ぎ、そうっと瞼を持ち上げるは、まだ何処か夢現のような状態だ。
 「起こしたか、」
 「んー……そうかも」
 こういったことに関して否定したことのないこの女は、思い返すと遠慮した節はほとんど無い。
 それでも、愛おしく感じる。
 「――惚れた弱み、か」
 何気なく呟く
 「………」
 すぐに自分の失態に気づき、慌ててに目をやるが、どうやら聞こえてはいないらしい。
 瞼は閉じかかっていて、意識は殆ど夢の中だ。
 「寝たのか……」
 自ずと広がる安堵感に、自分ではないような感触を憶える。
 
 ――否、自分であることにはかわりはない。
   ただ、変わったのだろうな。
  という存在が、自分を変えた。

 考えてみて、我ながら甘くなったものだと苦笑する。
 
  事件・犯罪の止まない世の中。
 ますます凶悪になっていく犯罪に対処するため、はより遅くまで情報処理を行い、自分も危険な現場に赴くことが多くなった。

  それでも、帰ったらそこにある笑顔と、「おかえり」の一言でその辛さを忘れられる。


 「――
 強く抱き寄せ、肩口に優しく唇を落とす。
 肌を重ねるのも良いが、こうして穏やかな時間も悪くない。
 

  そんなことを考えながら、いつしかゼロも眠りに落ちていった。













  P.M.4時


 「――寝ていたのか……」
 意識がハッキリとしてくるにつれ、自分が何をしていたのかを思い出す。
 「……」
 目元に掛かる金髪を払いのけ、腕の中の女に目をやる。
 横顔に掛かる髪を避けてやれば、「んん……」と低い声が漏れた。
 「…ゼロ……?」
 「起こしたか」
 「ううん……何となく起きた」
 日本語なのかそれは、と内心突っ込みながらも、時計に目をやる。
 「もう四時回ってるな」
 そだね、と同じく時計に目をやる
 だが、時間などさほど気になることではない。


  “非番は二人揃って”という約束があってか、なかなか取れない休み。
  今日は実に三ヶ月ぶりの休みなのだ。



 「ねぇ、ゼロ」
 「何だ?」
 「そろそろさ……指輪、買わない?」
 何気ない会話のような口調で訊ねる。
 
  出会って7年、同棲を始めて3年。
 職場の仲間……特にアクセルとバレットの後輩コンビからは、「いい加減結婚しろ」とよく言われる。


 「そうだな……今から買いに行くか?」
 「んー……」
 考えているような間延びした声。
 答えを考えているわけではないのだろうな、と思っていると、答えが返ってきた。
 「今日は……いいや」
 「そうか」
 答えを聞き、再び強く抱き込む。
 人肌の布団の温もりに包まれ、淡い匂いを吸い込む。
 鼓動が聞こえるほどの距離に、安心する。





  愛の言葉を囁くわけでもない、

  特別なことをするわけでもない、

  ただただ相手の生を感じる。


  とらわれない

  かまわない



  自分たちだけの時間


――――――――――――――――――――――――――――――――

   あとがき
  ロックマンX・Zero夢同盟様の企画に提出したものです。
  一応刑事パラレル。メンバーは8ので。
  ぶっちゃけスーツっぽいのを着せてみたかっただけなんですけどね;
  あとは何だかんだでいちゃついてる二人のベッドトークとか(笑