「亮さん、いるかな」
休憩時間、作業の合間を縫ってレギュラー用の部室に顔を出す
ちゃん?」
「あ、鳳君」
「宍戸さんに用事?」
「まぁ、ね。そんなところ」
「宍戸さんならランニングしてから来るって……あぁほら、ウワサをすれば」
背後を振り返れば青い帽子が目に付いた
「亮さん。お疲れさま」
「おう、。どうした?」
受け取ったタオルで汗を拭いながら亮は訊ねる
「今日はお昼過ぎに練習終わるでしょう?その後って何か用事ある?」
「特に決めてねえな。いつもみたいに長太郎と打ち合うつもりだ」
な?との後ろにいる長太郎に目配せする
「そっか……」
「何かあったのか?」
ヤケに落ち込んだ風なの表情に、もう一度訊ねる
「あ、別にそういうワケじゃないの。もしよかったら一緒に帰りたいなーって思っただけ」
にっこりと表情を切り替え、は首を横に振る
「だから気にしないで。私おばさんと一緒に美味しいご飯作って待ってるからさ」
……悪ぃ」
「あやまんなくていいって。――それじゃ、私戻るね」
手を振りぱたぱたと小走りにさっていくの背中を見送り
「……もしかしてちゃん」
長太郎が思いついたように呟く
「どうした、長太郎?」
「いえ、何でも。それより宍戸さん、」
「何だ?」
「俺、ちょっと用事あったの思い出しました。
申し訳ありませんが、今日は先に帰らせてもらいます」
「そうか……」
「すみません。今度きちんと穴埋めします」
「あぁ」









「今日の練習はここまでだ。解散!」
予定通り昼をすぎたころ練習は終わり、達マネージャーは片づけを始める
「そういえば、今日って宍戸先輩の誕生日じゃないの?」
「えっ?あ、うん。そうだけど」
って宍戸先輩と幼馴染みなんでしょ?何かあげるの?」
「う〜ん……今年はまだ決まってないや。
亮さん、ホラ、レギュラーでしょ?それに今年で終わりだし……色々と忙しいみたいだから」
「でも家だって隣同士なんでしょ?いつでもあげるチャンスあるんじゃないの?」
「そうなんだけど……亮さん、いつも鳳君と遅くまで打ってから帰ってくるから。
すっごく疲れて帰ってくるから、そのまますぐに寝ちゃうこともあるし」
「鳳君かぁ……たしかにあの二人っていつも一緒よね」
「この間までは自分が迷惑かけたからって、ずっと鳳君の練習につきっきりなの」
「大きな障害ねぇ……の恋は前途多難、か」
「今は全国も控えてるし……多分あの様子だと覚えてないと思う」
「誕生日のこと?」
うん、と頷き、はため息をつく

亮とは幼馴染みで、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた
年も一つしか違わない上に家も隣同士。同じ氷帝学園に入学したため、近所からはさながら兄妹のようだとよく言われる
実際、亮のことは兄のように慕っているし、下に兄妹のいない亮からは妹のように可愛がられてきた
そのことに不満はないし、一人っ子のには最高の贅沢とも言えた

「でも、少しは気にかけて欲しいなぁ……」
はぁ、ともう一度大きくため息をつく
その背後で、
「何かあったのか、?」
ウワサをすれば何とやら
宍戸亮本人が入り口に立っていた
「りょ、亮さん?!」
「その様子だと……まだ終わってねえのか」
「あ、うん……でもどうしてこっちに?」
「一緒に帰るって言ったのはお前だろうが」
「えっ?でも鳳君と打つって……」
「あー、長太郎は用あるっつって先帰っちまったんだよ。
お前、俺に何か用あったんだろ?」
「えっと……」
突然の申し出に困っていると、一緒に片付けていた友人が口を開いた
「あるじゃない、大事な用事が。
宍戸先輩、どうぞそのコ持ってっちゃってください」
「えっ?」
「いいから行ってきなさいって」
「でも……」
「このチャンスのがしたら次はないんだから」
友人の気迫に押され、は申し訳なさそうに、一度頷いた
「すぐに支度してくるから、亮さんは校門で待ってて」
「あぁ。悪いな」
「いえ、お気になさらずに」
あとでこっそり苦笑していた友人に礼を言い、と亮はそのばを去っていった








「亮さん、お待たせ」
「あぁ」
制服に着替えたは、門に寄りかかっている亮に駆け寄る
「ね、どっか寄り道してかない?折角早く終わったんだし」
「そうだな」
二人で何処に行こうか、とあれこれ考えながら街を歩く
、何か食ってくか?」
「私はどっちでも。亮さん何か食べる?」
「あぁ。腹減ってるしな」
亮の提案で二人は近くの喫茶店に入った
「私はカフェオレでいいや。亮さんは?」
「ペアサンドとミートスパ」
注文を取ってもらい、は感心したようにため息をつく
「ホント、よく食べるねえ」
「あの練習で腹減らないほうがおかしいだろ」
「まぁね」
くすりと笑みを零す
「それより、俺に何か用事があったんじゃないのか」
「んー……用事って言うか……質問?」
「何だよ」
「亮さん、何かして欲しいこととかない?欲しいものでもいいし」
「はぁ?急に言われてもな……
……つーか、どうしてまた?」
逆に問い返されて、はもう一度ため息をつく
「……というか、どうしてこんなこと忘れてるの?」
「?」
「今日は、亮さんの誕生日でしょ?」

 暫しの沈黙

「……あぁ、そういえば」
意外にあっさりした反応に、三度はため息をつく
「もう、亮さんったら……」
「ここんとこ忙しかったからな。すっかり忘れてたぜ」
「そんなことだろうと思ったよ。
……それで、何か欲しいものとかある?
それか、私に出来ることだったら何でもするよ」
「そうだな……」
亮は暫く何か考え込んで、
「……、今日暇か?」
「? 暇だけど」
「よし。じゃ付き合え」
「へっ?」
「特にこれといって思いつかねえしな。
、この後一日付き合ってくれ
その中で考える」
「まぁ、別にいいけど……」














「それじゃ、何処に行く?」
 食事を終え、二人は商店街をぶらつく
「とりあえずゲーセンにでも入るか」
「亮さんがいいなら」
そうか、と特に相談することもなく、二人は向かいの通りにある派手な建物に入っていった

「何する?――――あっ」
見て、とが店内の奥を指さす
「ビリヤードか」
「こんなところにあったんだ」
「折角だしやってこうぜ」
「うん!」







「よっしゃ。俺の勝ちだな」
「マッセは反則ー」
「反則ってなぁ……前に教えたじゃねえか」
「亮さん大人気ないよー
教え子が師匠にそう簡単に勝てるわけないでしょー」
ぷう、とは頬を膨らます
「それに亮さんはテニスでもそう簡単に勝たせてくれないんだし……もう」
「あー、悪かった。それじゃ次はお前がやりたいのやるよ」
「ん、別にいいよ。亮さんの誕生日なんだから、遠慮しないで」
ふわりと微笑むを暫し見つめて、亮はふいに視線を逸らす
そして、空き缶をゴミ箱を投げ入れると
「……ちょっと待ってろ。すぐ戻る」
自分のラケットを手に何処かへ行ってしまった
「亮さん……?」
疑問に想いながらも、缶ジュースを片手に言われたとおり待つ
十分も経たないうちに亮は戻ってきた
「ほらよ、」
ポス、と頭に何かかぶせられる
「え……?帽子……?」
温かくて、ちょっと汗っぽい匂いのする青い帽子
「これ、亮さんの……?」
「さっきテニスのゲーム見かけてな。気になってたんだよ。
なんかでっかいぬいぐるみとか置いてあったからやってみたんだけどな」
こんなもんしかとれなかった、と亮は自分の手に持った新しい帽子をかぶる
「それ、やるよ」
「あ……ありがとう」
かぁ、と顔を赤くして目深に帽子をかぶり直す
「まだなんかやるか?」
「んー……私はもういいや」
「じゃ、のんびり歩きながら帰るか」
うん、と頷きは亮の隣に並ぶ

二人がゲームセンターを出て間もなく、辺りはすっかり暗くなってしまった
「楽しかったね」
「そうだな。こんな風に遊んだのも久し振りだったしな」
コーヒーの缶を両手で包み込むように持ち、は隣を歩く亮を見上げる
「亮さん、何か欲しいもの決まった?」
「あー……そうだな……」
視線を逸らし、天を仰ぐ亮
「や、別に無理して考えなくてもいいよ。
折角だし、何か形に残った方がいいかなーってわたしが勝手に思ってるだけだから」
「あ、あぁ……」
何処か様子がおかしい、とは何となく悟っていたが、口に出そうとは思わなかった
ゆったりと過ぎていく時間は心地よく、危ういバランスで静かに揺れ動く
「――、」
ぼんやりとそんなことを考えてみると、隣から声が掛かった
「少し……話がある」
いつもとは少し違う表情
何も言わずに一度だけ頷いて、は亮の手招きするベンチに腰掛けた
「話、って?」
「その……今日は、ありがとな」
「あ……ううん。気にしないで」
「去年辺りから忙しかったし……久し振りにとこうやって一緒に遊べて楽しかった」
「亮さんが喜んでくれて良かった」
「それで、色々考えたんだけどよ……」
うん、と少しだけ視線を逸らして相づちを打つ
「……欲しいもの、決まったみたいだ」
「あ……」
言葉と同時に、ふわりと抱きしめられる
「俺……が好きだ。
お前といると楽しいし、お前が笑うと嬉しい。
ずっと傍にいてくれたお前を、いつの間にかこんなにも好きになってた。
だから今……お前が一番欲しい」
優しく、ゆっくりと囁かれる
抱きしめる亮の腕は微かに震えている
「亮さん……」
「……が、どう思ってるのか知りたい」
静かな言葉で、腕がほどける
「私は…………
……私にとって亮さんは、頼れるセンパイで、幼馴染みで、本当のお兄さんみたいな人で、
ずっと一緒にいる、家族だと思ってた。
けれど……私の中で、亮さんは違う存在だったの。
亮さんは、ずっと傍にいて欲しい、大切な人」
一度句切って、は遠くにやっていた視線を亮に戻す
「私も、亮さんのことが好き。ずっと傍にいたい」
……!」
にこりと嬉しそうに微笑むを、亮の腕がすっぽりと包み込む
きゅ、と腕の中にたしかな感触を感じて、亮は安堵の息をつく


「…………キスしてもいいか?」
「うん……」
ファーストキスは秋の夜空の下
とても温かくて、少し甘いコーヒーの味がした












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   あとがき
  宍戸君の誕生日祝いです。
  やっぱ名前で呼ぶと萌えますw(ォィ
  帽子は……きっと他にも持っていたりすることを希望
  んでもって長太郎は空気読める子。
  ビリヤードネタは何かでやりたいと思ってたので無理矢理入れましたw
  なんか偽物宍戸になっちゃいましたが;
  愛さえあれば何とかなる!(蹴
  2007 9 30  水無月