「んー空気がおいしー」
両腕をいっぱいに伸ばして深呼吸をする。
は爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込むと、後ろの恋人を振り返った。
「リーバーもこっち来たら?景色もすごく綺麗」
「あー、後でな」
が、当の本人――リーバーは、気だるそうに返事をし、卓上を埋め尽くす書類とにらめっこをしている。
「相変わらず仕事熱心ねぇ」
「仕事で来てんだろうが。――これ目ぇ通しとけ」
ほい、と比較的薄いファイルを渡される。
「はいはい。わかってますって……」
受け取ったファイルを開きつつ、は小さくため息をついた。





今回の任務は、とある山の中でたびたび目撃されている謎の物体の調査。
人手の少なさと他の仕事との都合もあいまってかリーバーが駆り出され、アクマ等何らかの理由で先頭になった時のため、が護衛についた。
目的地から最寄の宿まで結構な距離があるので、実際に調査に行くのは明日になっている。





「ほんと、真面目なんだから……」
今日はどこにも行かないのでゆっくりできると思ったのに
ファイルの中身をざっと眺めつつ、ちらりとリーバーの横顔を盗み見る。
あれやこれやといくつもの書類を見比べ、時折ペンで書き込み、眉根を寄せて考え込む。
そんなに書類あった?と訊ねると、別の仕事のモノだと言われた。
――疲れてるくせに
は一通り目を通したファイルを閉じると、静かな足取りでリーバーの隣に歩み寄る。
「それ、1ページ飛んでるんじゃない?」
「ん?……あー、それでか」
なにやらずっと同じ書類を睨みつけて考え込んでいるのを見かねて声をかけると、リーバーは大きなため息をついてぐったりとソファに沈み込んだ。
「どうりで内容がつながらないわけだ。
助かった。
白い一面から足りなかった書類を見つけ出し、先ほどの書類と見比べて、ようやくリーバーはに向き直る。
「まったく……仕事熱心なのはいいけど、少し無理しすぎ。
護衛で来てるのに、当の本人に過労で倒れられたら意味ないでしょ」
リーバーの隣に腰を下ろし、額を軽くつつく。
「それに……任務とはいえ、せっかく二人きりになれたんだし……」
ちょっとくらい公私混同してほしい、と思うのはわがままだろうか?
急にしおらしくなったを見て、リーバーは小さく息をつく
「悪かった」
細い体に腕を回すと、それが予想外だったのか、はすんなりと腕に収まった
「俺がお前に心配かけてちゃ本末転倒だよな」
「リーバー……」
「んなことにも気が回らねーなんて……
あー、もうすっかり体に染み付いてんだなぁ。あの室長がやたらと仕事溜め込むせいで……」
まったく……と溜め息をついて、リーバーはもう片方の腕も回し、を緩く拘束する。
「やわらけー……久しぶりだな。この感触」
「急にスイッチ入ったのね」
それに応えるように、もリーバーの首に腕を回した。
「あそこまで言わせてまだ仕事続けられるほど俺は人間出来てねぇって」
苦笑し、軽く口付けを落とす。
「にしても、ホント久しぶりだな。こうして二人で過ごすの」
「まぁ、私も先週まで任務で出てたし……」
「最後に抱いたのはいつだったか……ってそう睨むなよ」
「馬鹿なこと考えるほうが悪い」
せっかくいい雰囲気だったのに。とは一瞬の隙をついてリーバーの腕から抜け出す。
「とりあえず私お風呂入ってくるから、その机片付けときなさい!」
そして呆気にとられるリーバーにそういい残すと、浴室のほうへと姿を消した。




「……はぁ」
一人になった部屋――浴室のシャワーの音は聞こえるが――で、リーバーは再びため息をつく。
するりと腕をすり抜けたの体温が恋しい。
あのまま彼女の体を抱きしめて眠ってしまいたかった。



仕事柄ほとんど休日は重ならなくて、会えるのは多くても一月に一回程度。
互いに不器用で、限られた時間をうまく使えなくて、
それでも彼女のことを思えば何てことなかったはずだった。
「馬鹿、か……」
なのに今さっき彼女に触れただけで、こんなにも自分の中の劣情が抑えきれなくなる。
「抱きてぇなんて……餓鬼かっつーの」






「んーいいお湯。
さすがアジア支部長オススメだけある−」
日本の文化として名高いオンセンを満喫したは、上機嫌でリーバーのいる部屋に戻ってきた。
「あがったよー。リーバーも後でどう?」
「ああ――ってお前その格好……」
「浴衣だよ。前にユウが着方教えてくれてね。
郷に入れば郷に従えって言うでしょ?
試しに着てみたんだけど……変?」
反応の返ってこないリーバーに、は不安げに自分の姿を見直す。
「……いや、変じゃねぇけど、」
はぁ、と三度目の溜め息をついて、リーバーは腕を伸ばす。
「……覚悟、できてんだろうな」
予告もなしにを抱き寄せ、耳元で訊ねる。
「リ、リーバー?」
「欲求不満の人間にここまでしといて、今更馬鹿とか言うなよ。
――を抱きてぇ」
ぼん、と音が出そうな勢いでの顔が赤くなった。
「……ら、」
そして、小さな声で言葉が返ってくる





一度だけなら、と恥ずかしそうな声で。




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 あとがき
なんじゃこりゃ!
最初は温泉でほのぼの〜とか考えてたのに何をどう間違えたのかこの終わり。
ともかくリーバーさん誕生日おめでとう!遅れてゴメンだZE!
あとなんか途中で口調がわからなくなった!
 2009 9 10   水無月