「あー、やっと終わったぜぃ」
ぐーっと全身を伸ばし、ブン太は解放感を全身で表す。
「相変わらず長かったね、校長の話」
「つーか、あの初詣からのくだりは絶対いらねえだろ……」
「ま、年寄りやからの」
終業式の愚痴をこぼしながら、4人で校舎を後にする。
「あーあ、世間ではクリスマス・イブなんだよね。
昼間で終わりとはいえ、どうせなら一日遊びたかったなー」
はあ、とは小さくため息を吐く。
「ん?お前らどっか行くつもりだったのか?」
ジャッカルが仁王に訊ねた。
と仁王は異例のテニス部公認カップルであり、普通なら冷やかしになる話題もさらりと出てくる。
「ま、とりあえず明日にでもどっか出かけるつもりだ」
「折角のクリスマスに学校帰りの制服デートってのもなんだし」
そうか、とジャッカルは納得したように頷く。
「というか、ブン太は例の年下彼女、放っておいていいの?」
「あー、アイツ家の用事で年末まで忙しいんだってよ。
クリスマスはメール交換だけにして、大晦日の晩から一緒に初詣行くことにした」
ブン太にも最近年下の彼女が出来た。
今時珍しい清純な文学少女で、イメージ的には柳か柳生あたりの彼女に見える。
それでも互いにぞっこんなあたり、世の中わからないものだ。
「なるほどねー。それはそれでアリかも。――あ、」
そんな冬休みらしいやり取りを交わしながら歩いていると、校門の前で小さく手を振る姿を見つけた。
「精市君たちだ。やっほー」
が手を振り返すと、有季村はいつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「みんなおつかれー」
「たちこそ、お疲れ様。これから帰るところかい?」
「ああ、そうだぜ。幸村たちは何してんだ?」
「俺たちも帰るところだが、お前たちを待っていた」
真田が答えると、4人は驚いたように幸村たちを見た。
「んー、今日って何かあったか?」
特に何かあるという連絡は聞いていないはずだ。
「いや、そういう用件ではない」
「終業式とはいえ、今日はクリスマス・イブだろう?
折角だからみんなで寄り道でもしたいと思ってね」
「なるほどな。柳生までおるのは珍しいと思ったがそういうわけやったか」
仁王が視線を向けると、柳生は返事代わりに眼鏡を軽く指で押し上げた。
「そういうわけだ。お前たちはどうする?」
「おー、賛成!どっか行こうぜ!」
「そうやの」
ブン太と仁王が頷くと、おや、と柳が口を開いた。
「ブン太と仁王、は予定がある確率86%……だったのだがな」
「ま、いろいろ事情があってな」
「その様子じゃ、フラれたというわけではなさそうだね。
俺も、もしかしたらジャッカルが一人でやってくるんじゃないかって思ってたんだけどな。
それはそれでおもしろそうだし」
「おいおい……勘弁してくれよ」
冗談に聞こえない幸村の台詞に、ジャッカルが重くため息を吐いた。
「それで、寄り道ってどこへ行くの?」
「いえ、まだ特に決めてはいませんね」
「んじゃ、ボウリングにしねーか?俺、割引券持ってるぜ」
ブン太がポケットからチケットを取り出す。
「ボウリングか。たまにはいいかもな」
「そうだな。俺はかまわん」
「異論なし」
ブン太行きつけのボウリング場は、イブということで普段よりやや混んでいた。
「よーし、それじゃあさっそくやろうぜぃ」
ブレザーを脱いだブン太は、慣れた手つきでタッチパネルを操作していく。
「雅治、ボール取ってこよう」
「ああ、いいぜよ」
重さ別に分けられたカラフルなボールをいくつか手にとって比べてみる。
「んー、私はこれかな。雅治、決めた?」
「ああ」
「重そう……投げれるの、それ?」
「まあ見ときんしゃい」
カコーン!と勢いよく音を立ててピンが倒れていく。
「わ、またストライク」
「さすがだな、精市」
みんな高得点で拮抗しており、火がついたのかすっかり勝負モードになっていた。
「そらよっ」
「すごい、あそこからスペア取った!」
「やるな、ブン太」
へへっと得意げな表情で戻ってきたブン太は、ジャッカルとハイタッチを交わす。
「じゃあ、私もちょっと頑張ってみようかな」
スコア的には最下位だが、点数自体はそんなに低くない。というか周りのレベルが高すぎるだけなのだ。
「えいっ!」
レーンの中央目掛けて投球する。
パワーは劣るが、正確なコントロールで投げられたボールは次々とピンを倒していき、
「……あ、もしかして全部倒れた?」
レーン上に立ってるピンがなくなり、画面には大きく『ストライク!』と表示された。
「やった、ストライク!」
わーい、と年甲斐もなくはしゃいで、ベンチへ戻る。
「やるな、」
「まあねー」
ブン太やジャッカルとタッチをかわし、仁王のところへ駆け寄る。
「おめでとさん」
「頑張ったでしょう?」
「ああ。えらいえらい」
隣に腰掛けると、仁王に頭をくしゃりと撫でられた。
「もう、またそうやって子ども扱いする」
「はは。が可愛いからつい、な。
――さて、俺もちょっと行ってくる」
「あー、楽しかったぜぃ」
「結局精市君がトップだったね」
最終スコアのコピーを眺める。接戦を制したのは幸村だった。
「でも意外だった。雅治があんなにボウリング上手いなんて」
まあな、と仁王は唇の端で笑う。
スコアの順位では2位は常連のブン太、3位には仁王が続いた。
「たまにブン太に誘われて行っとったしな。
それに、精神集中のポイントはダーツと似とるからの」
「ふむ……たしかに、どちらも一人でプレイし、スコアを競う競技だな」
「直線状の標的を対象にするという面も共通しているな」
「あと室内で日が当たらないし」
「なるほどなー。そういわれると納得だぜ」
「……最後のは関係ないじゃろ」
「ふふ。けど、もなかなかいいスコアだったよ」
「あはは。それでもやっぱりみんなには敵わないよ。
精市君なんてほぼパーフェクトゲームだったし」
「それでもテニスとは勝手が違うからね、結構、まぐれもあったと思うよ?」
たっぷりと3ゲームを終え、ボウリング場を後にする。
「まだ時間あるな。何か食いに行くか?」
「ちょっと時間が半端じゃねーか?」
「じゃあ適当にぶらついて、食べたいもの見つけよう!」
それからコンビニで肉まん、甘味どころでみたらし、通りがかった焼き芋などいろいろ食べ歩いて、
歩きながら他愛もない話をして、クリスマス・イブの楽しい時間は過ぎていった。
「……それじゃあ、俺たちはこのあたりで失礼するよ」
「ではな」
「みなさん、よいお年を」
幸村、柳、真田、柳生が駅の方へ歩いていく。
「ん〜俺たちはもうちょっと寄り道してくか」
「お前、まだ食い足りねえのか?」
「ちげーよ。アイツらに土産買ってかねーとな」
「ああ、そういうことか。なら付き合うぜ」
ジャッカルとブン太も商店街のほうへ戻っていく。
「……私たちはどうする?」
「はどっか行きたい所あるんか?」
「んー……明日遊びに行くしね。今日はみんなで楽しめたからいいや」
はポケットに突っ込まれた仁王の手にそっと自分の手を絡ませる。
握り返してくれる手の力強さが何よりも嬉しい。
「じゃあ、今日はこのままぶらついてのんびり帰るか」
「うん」
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あとがき
本当は昨日上げるつもりでした。氷帝と同じく。
立海はどうも家族になるなー。というか普通に好きです。立海家族。
アルバム「P」の「仁王のクリスマス」を聞いて書きたくなったんです。
仁王ってなんとなくボウリングとか様になるんじゃないかなーと思い、こんな感じに。
あと、魔王様は何をやらせてもトップに決まってます←
2010 12 27 水無月