「そういえば、もうすぐ阿散井君の誕生日だね」
「へっ?」
すっかり忘れていた、何て口が裂けても言えなかった
バースデープレゼント
「恋次の……誕生日?」
「もう、ちゃんったら何寝ぼけてるの?
月曜日なんでしょ?阿散井君の誕生日」
桃副隊長に言われて日にちを数えてみる
月曜日……つまり明後日は――8月31日
ソレは紛れもなく、幼馴染み・阿散井恋次の誕生日だった
「え、えぇ……まぁ」
「私と吉良君は何かプレゼント用意するつもりだけど……ちゃんはもう用意した?」
「えっ?」
「プレゼント、何かあげるの?」
「えーっと……い、一応」
「そっかぁ、じゃあ同じ物がかぶらないようにしなくちゃね」
「そ、そうですね」
はは、と渇いた笑いを零しながら会話に耐える
「そうだなぁ……吉良君にも相談しないと……」
「あっ、桃副隊長、そろそろ時間ですよ!」
「えっ?あっ、本当だ!」
がたん、と勢いよく立ち上がり、桃は慌てて身支度を整える
「すっかり話し込んじゃった〜〜
それじゃ行って来るね、ちゃん!」
「あっ、慌てて転ばないでくださいねー!」
ばたばたとせわしなく出ていった桃を見送り、ははぁ、とため息をつく
「やっばー……すっかり忘れてた……」
幼馴染みの阿散井恋次とは流魂街に住んでいたときからの付き合い
何だかんだ言って一緒にいることが多く、幼馴染みというよりかは腐れ縁に近い関係
真央霊術院や瀞霊廷に入ってからも同じクラスだったし、剣術にしろ軌道にしろ専らの練習相手はお互いだった。
その関係は今も途切れることはなく、恋次の性格あって暇があると木刀を手に数時間ぶっ通しなんてこともざらだ
「……プレゼント、か」
呟きながら壁に背を預け体の力を抜く
「何あげてたっけなぁ……」
ぼんやりと思い返してみる
恋次は甘党なので、大抵は和菓子の詰め物ですませていた
お買い得品を買って袋にちょちょいと細工を施してやればソレらしく見えるし、
あまりに手が込んでいる物や高級すぎる物は恋次が好まないと思ったから
「でも……恋次ももう副隊長だしなぁ……」
第三席とはいえ、席官と副隊長
目には見えない壁で隔てられたような孤独を感じる
「はぁ……」
二度目の大きなため息をつく
「憂鬱だー……「雛森副隊長はいるか?」
そこへ誰かの声が聞こえた
若いのに渋い感じの声の男の人。
「あ、檜佐木副隊長」
どもです、と気怠げに会釈しながら体を起こす
「か。雛森はいないのか?」
「何か日番谷隊長に呼ばれてたとかでさっき出ていきました」
「そうか……」
「用件だけ賜っておきましょうか?」
「コレに目を通しておくように。
と、それから明後日の正午から副隊長会議があるということを伝えておいてくれ」
「わかりました。伝えておきます」
「頼んだぞ」
じゃあな、と踵を返した檜佐木の服の裾をすかさず掴む
「何だ?」
「ちょっと相談のって下さい」
「……一応仕事があるんだが」
「少しで良いんで」
「……何の相談だ」
「プレゼントです」
「はぁ?」
唐突すぎてわからない、と檜佐木は眉をつり上げる
「もうすぐ……月曜日が恋次の誕生日なんです」
「阿散井の?」
問い返そうとして、檜佐木はあぁ、そうかと納得したように軽く頷く
「そういや幼馴染みだったな。お前ら」
「すっかり忘れててプレゼント用意してないんです」
「忙しかったからだろ。あいつは副隊長でお前は三席だ。忘れるのも無理はねえ」
「それでも一応幼馴染みっていうか……腐れ縁だし、何か用意した方がいいと思って」
「健気だな、お前も」
「そんなんじゃないですよ。
……で、何あげたらいいと思いますか?」
「あいつの嗜好はしらねえけど……菓子折あたりが無難じゃねえか?」
「恋次は甘党なんで、その手は結構使ってます」
「なら、普通の料理でも良いんじゃねえのか?」
「お総菜とかですか?」
「あぁ。あの手の男にはありがたいと思うぜ」
「お総菜、手料理……それもありか。
あんがとございます檜佐木副隊長。参考にします」
「あぁ。それじゃあ俺は行くぜ」
くるりと踵を返し、今度はその場から去っていった
「料理、かぁ……
うーん……でも何が良いかなぁ……」
一人腕組み考え込む
「………よし、取り敢えず色んな人に話を聞こう。
恋次と仲のいい人……桃副隊長はダメだから……
まずは……」
立ち上がり、書き置きを残して部屋を出ていく
「…………で、」
十番隊詰め所
「どうしよっかなーって。乱菊さん、良い考えない?」
「そうねぇ……他に誰かに訊いた?」
「副隊長には訊けるだけ。あとは四番隊でお世話になってる人とか」
「それじゃあ、何か考えたの?」
「多数意見で手料理とか。甘い者は死ぬほどあげてるんで」
「料理って何を持ってくの?」
「煮物とか、そんなの」
「ふーん?」
「煮物とかは日持ちするし、一日おいても美味しいから。
あとは金平牛蒡とかかな。恋次の好みは大体わかってるし。
今晩か明日作って包んでおいとけばいいかなーって」
「んー……まぁいいんじゃない?アンタがそれで良ければ」
「……?」
どこか冷めた態度の乱菊に首を傾げる
「そうねぇ、アタシも何か用意してやろうかしら」
「乱菊さんが?!」
「何で驚くのよ」
「乱菊さんはむしろたかる方じゃない」
「うっさい」
ぼすっと脳天に軽い手刀が入った
「それにしても、どうしてウワサの一つも流れないのかしら……」
突然、退屈そうに乱菊がぼやく
「ウワサ?」
「そ、ウワサ」
「どんなウワサ?」
「アンタと恋次よ」
「私達が?どうして?」
「アンタ達互いに部屋に泊まったことあるでしょ?」
こくんと頷く
「で、ちょくちょくご飯食べてるでしょ。一緒に」
「うん」
「修行も大抵一緒でしょ」
「そだね。大体一緒」
無自覚な感じに乱菊は盛大にため息をついて、
「アンタ達、デキてるの?」
呆れたような口調で直球を投げた
「デキてるって……私と恋次が?」
「他に誰がいんのよ」
「何言ってるの乱菊さん。私と恋次は幼馴染みで友達。それだけだよ」
にこりと笑っては腰を上げる
「よーし!そうと決まれば早速材料買いに行かなくっちゃ。じゃあね、乱菊さん!」
ぱたぱたと慌ただしく詰め所を後にする
その背中を見送って、乱菊は再びため息をつく
「ホント、素直じゃないんだから……」
「……はぁ、」
ぱたぱたと急ぎ足で歩いていたはずが、いつの間にか駆け足になっていた
「何やってんだろ、私……」
『アンタ達、デキてるの?』
その言葉が、少し痛かった
『私と恋次は幼馴染みで友達。それだけだよ』
境界線を勝手に引いたのは自分
「恋次は、きっと……」
私をそう言う対象には見ない
「…………もーいいや。今日はもう帰ろ」
ざり、と地面を踏みしめ、帰路に就いた
2日後――
「――さてと、お昼の休みにしようか。ちゃん」
「はーい。桃副隊長」
事務処理ばかりで退屈していたので、この間に少し体をほぐそうかと考える
「恋次でも誘おうかな……」
ぼんやりといつもの調子で考えていると、
「あ、そういえばちゃん」
「何ですか?」
「阿散井君にプレゼント渡しに行かない?」
「・・・えっ?」
「また寝ぼけてる〜。今日なんでしょ?阿散井君の誕生日」
「あ、――」
結局プレゼントは用意できなかった
そしてなるべく考えないようにした
そうさ、一度くらいあげ忘れがあったって別に気にならないだろう
「――ちゃん?」
「あー……私、プレゼント置いてきちゃったんです。
後で自分で渡しに行くんで」
「そっかぁ。じゃあ渡しに行って来るね」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振り、桃を見送る
「……ふぅ、」
背中が見えなくなって、ゆっくりと息を吐く
恋次……
ちくりと胸が痛む
あの日、帰り道でずっと考えていた
ずっと押し込めていた何かに押し潰されそうだった
誰かに助けを求めた
誰か……?
ああそうか、
私は……
何故だか無性に、アイツ会いたくなった
「……早退する」
『?!』
ぽつりと言い残し、荷物も持たずは詰め所を飛び出した
「確か東の森で大型の虚が出たというので今朝から出ています」
「そう。ありがとう」
六番隊詰め所にはいなかった
次は、とはその場を後にする
走って、前だけを見て、そして――
「いた……!」
漸く、見つけた
整備されていない草むらの、隊舎の入り口で、
恋次本人は訳がわからない、という表情で呆然とこちらを見つめている
「、お前……「恋次!」
すう、と深く息を吸い込む
「誕生日、おめでとう!
プレゼント用意すんの忘れた、ゴメン!」
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あとがき
遅れた恋次誕生日。オメデトウ。
ツンデレヒロイン……は無理でしたorz
友達以上恋人未満って難しいですよね。幼馴染みとかも
形としては→恋次で、乱菊は気づいてる。