「私についてきて。残された最後の力を使って、みんなを導く!」
    絶望だけを残し崩れゆく塔の中心で、凛とした言葉が響く



     幻獣、魔導、人間………
    小さく限りない欲望と、僅かな希望
    世界をも変えた壮大な戦いは、静かに幕を閉じた




    「急いで!崩れるわ!」
    地の底からのような轟音と共に崩れる塔を、出来るだけ速く駆け抜ける
    「魔石が……!」
    パキン、と儚い音を立てて、碧色の宝石は跡形もなく消えていった
    「魔法が消えていく……」
    「幻獣が……幻獣の存在そのものが、なくなってしまったから……」
    体内にその古の血を宿すティナとはより敏感にその変化を感じ取っていた



     消えゆく力
     ドクン、と時折体が熱くなる
    「っ……!」
    「、大丈夫か」
    「平気――それより、ティナは……?」
    やや前方を走る少女に視線をやる
    魔石と同じ碧色の髪がせわしなく揺れている
    「………」
    「どうした?」
    「……セッツァー、残っている魔石は?」
    「そんなところまで数えてられるか」
    「そうね。――マディンは、まだ残っている?」
    「おそらくな。だが、それと何が関係あるんだ?」
    「……聞きたいことが一つ、ある」
    呟いたの瞳が、強く煌めいた












    「お父さん……?」
    鉄くずと瓦礫で出来た道の真ん中で、ティナが突然立ち止まった
    その手に握られた魔石は、微かな光を放っている
    「ティナよ、お別れだ」
    「えっ……?」
    「マディン……!?」
    告げられた言葉に呆然と立ちつくすティナをそっと支える
    「この世界から幻獣が消える。幻獣の血を引いたお前ももしかしたら……」
    それは儚げな言葉
    「でも、もし人間として何か大切なものを感じとることができたのなら……
    おまえは人間としてこの世界に……」
    それは淡い言葉
    「マディン……それは、あなたの願い……?」
    の瞳は、ハッキリとその正体を見据える
    「……ティアに、似てきたな」
    「彼女のようでありたいと願うわ」
    「ティナを頼みたい」
    「……私もティナと同じ体よ?消えてしまうかもしれない」
    「ならば、君も消えぬようにと願おう」
    そう言い残してマディンは静かに、溶けるように消えていった
    「お父さん……」
    「ティナ、走るのよ。あなたが生きることがマディンの願い」
    ティナを促し、はもう一度だけ彼のいた空間を見つめた






    「全員乗り込んだか!?脱出するぞ!」
    舵を握るセッツァーに、はそのことを目で合図する
    「どうやってここを出るんだ?」
    「――私が、」
    誰に言われるともなく、ティナが前に出た
    「私についてきて。
    残された最後の力を使って、みんなを導く!」
    淡い紅色の化身とと化したティナに導かれ、飛空挺が飛び立つ




    「まだ飛ぶのかよ!?」
    「あの塔の高さは半端じゃないわ。もう少し遠くへ飛ばないと瓦礫と魔力に巻き込まれる!」
    が叫んだ刹那、目の前を儚い碧の光が舞っていった
    「……今の、は……」
    「最後の魔石が……!」
    慌てて前方に目をやると、少しずつ、ティナの体が傾いてきている
    「ティナの力が……!」
    「ティナ!もういいわ!あなたの力はもう…」
    飛び続けようと、この船を導こうと必死になるティナに仲間達の声が飛ぶ
    「ティナ――「下がって」
    す、と皆を制し前に出たのは
    甲板の先で、鮮やかなブロンド髪が舞う
    「ティナを消えさせたりはしない
    私の力で……助けてみせる!」
    の体を深紅の光が包み込む
    「我が身に宿りし力よ……この大気を震わす魔導により、彼の者へと伝われ」
    詠唱と共に、の姿が変化する
    深紅の髪、深紅の翼、深紅の炎
    「……!?」
    驚く仲間達に、は極力静かな声で語る
    「私の力をティナに送り込む」
    「そんなことをして……は大丈夫なの?」
    「大丈夫……であると願うわ」
    「それって……保証はないってコト?!
    ダメだよ、!」
    今にも泣き出しそうなリルムの叫びに、は、ふと穏やかな笑みを向ける
    「……いいのよ、これは私の償い」
    「償い……?」
    「十数年間逃げ続けてきた。
    自分の力、宿命、過去、存在する理由からも……」
     寂しげな笑み
    深紅に包まれたその笑みは、酷く儚げな印象を放っていた
    「ティナにあって、皆と旅して……気づかされた。
    私のすべての理由を、大切なことを。
    そして……私が今すべきことは……」
    ぐ、とのオーラが増す
    「ティナを、救うこと……!
    この命にかけて、ティナを消えさせたりはしない!」













    「ここまで来れば大丈夫か……?」
    「ティナ!」
    ゆっくりと加工していく少女を船がギリギリのタイミングで拾う
    「ティナ!……ティナ!!」
    ぐったりと横たわるティナの周りに仲間が集まる
    「下がって……
    ………気力の底まで使い果たした感じね」
    静かな声で呟き、はティナの額に手をかざす
    「……満ちよ、生けよ、我が炎
    光となり、力となりて、彼の身に宿れ」
    の体を包んでいた光が徐々にティナを纏っていく


    「……ん……あれ……?私……」
    固く閉じられていたティナの瞳がゆっくりと開いた
    「ティナ!」
    「私……いったい……」
    「もういいんだ、ティナ。全部終わった。みんな無事だ」
    「そう……なの……?」
    「あぁ、そうさ、が……「――!」
    安堵に胸を押さえる皆の傍らで、切羽詰まった声が飛んだ
    「、おい!」
    「セッツァーどうした!?」
    「が目を覚まさない」
    焦りと苛立ちの表情を浮かべるセッツァーの腕の中、はぐったりと身を横たえている
    萌えるような深紅の翼は消え、髪は元のブロンドの髪へと戻っていた
    「まさか……が?」
    「消えちゃうの……?」
    「そんな……!」
    再び不安の渦に巻き込まれる中、セッツァーはぐ、とを抱える腕に力を込める



     が消える?
     まだ伝えていないことが山ほどあるのに
     見せたいモノも山ほどあるのに

  
    『世界中の景色を絵にして表すの。素敵だと思わない?』
    

     絵を描きたかったんじゃないのか
     言いたいことだけ言って勝手にいなくなるのか




    「……消えるな……」


     自分だけの翼も

     憧れていた星も

     大切なモノをたくさん失ってきた

     それでも今ここにいられるのは、他でもないこの仲間達の、
    という、かけがえのない存在のおかげだというのに……

 

    「俺の傍にいろと……言ったじゃねぇか……」
     切望していたことを呟く
    十数年流さなかった涙が一筋、静かにこぼれ落ちる


    その雫はの首元へと落ちて――



     その細い体を、眩い光が包んだ

     そして――――………












     1年後――
    「――で、次は何処だ?」
    「ナルシェ辺りが良いわ。今頃だと雪山がキレイだと思う」
    「了解だ」
    舵を握るセッツァーは、ふ、と楽しそうに笑みを浮かべる
    「あれからもう一年ね……」
    「そうだな」




     数え切れない出会いと別れ

     ケフカとの壮絶な戦い

     そして僅かな希望から生まれた奇跡




     「――!」

     白い光に包まれる瞬間、その声だけが耳に響いた
  

     夢を見ていた気がした


     そこにあったのは……懐かしい顔
    大好きな父さんと母さん、憧れだった姉さん
    親身になってくれた、マディンを始めとする幻獣達………




     あぁ、そうか――……


     私……もう……




      『……消えるな……』

      『俺の傍にいろと……言ったじゃねぇか……』



     この声は……


     そうだ、私は………







    「セッツァーのおかげよね、戻ってこられたのは」
    「そうだな」
    「そこはちょっとぐらい喜んで欲しいわ」
    「わかってるさ」



     そばにいたい、
     そばにいてほしいと、強く願った



   ”……ごめんなさい、私はまだ、そちらへは行けません――”









         「セッツァー……」

  



    目覚めて、開口一番に呼んだのが自分の名前であることに柄にもなく喜びを感じた
    どうしようもなく愛しいと感じた

    最も大切だと思う、かけがえのないたった一人の存在



    「――……ちょっとセッツァー、聞いてる?」
    「聞いてる。それに、焦る必要なんてないだろ?」
    「えっ?」
    「時間はたっぷりある。
    ――これからはずっと傍にいるんだろ?」
    「……そうね」
    恥ずかしそうに、それでも嬉しそうにはにかむ彼女の唇に、そっと口付けた



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   あとがき
  日付かわってしまいましたora
  三作目はセッツァーさん。エンディングのシーンです
  念のためにヒロインのことをちらりと。
  幻獣と人間のハーフ。マディン・マドリーヌ夫妻とは仲良し
  姉がいます。セッツァーとは多分ラブ……?
  最後やっつけ仕事でゴメンナサイ;
  精進します;;
  2007 6 9