「アーチャー、ちょっといい?」
夜が更けて、皆が眠りにつき始める頃
静かな、それども凛と通った声を耳にする
「どうした、」
「なかなか寝付けなくって……お話、してもいい?」
梯子に捕まり上目遣いに訊ねてくる
月明かりにてらされたその表情は酷くキレイに映った
「別に構わないが」
「そっか」
よいしょ、と屋根に登ろうとする彼女にそれとなく手を差し出す
「あ、」
言葉を紡ぐ前に、ぐい、と引っ張ってやると、そのままこちらに倒れ込んできた
「あ、ありがと……」
「……まったく。足元が暗いのだから、明かりぐらい用意してくるものではないのか?」
腕の中にピッタリ収まったを下ろし、その隣に自分も腰を下ろす
「ゴメン、士郎達起こしちゃいけないと思って」
彼女らしい気の遣い方だ、
「だが、君がそれで転んでしまっては本末転倒だろう
……と、言いたいが、置いておこう」
「? 何で?」
「あまり君をいじめると、凛に何を言われるかわからんからな」
「いじめって……!」
一気に頬を紅く染める様子は、暗がりでもハッキリとわかる
「もう凛ってば……何言ってるわけ?」
ぶつぶつと拗ねたように呟く仕草が可愛い
「君は……話すと言うよりは一人で喋りに来たみたいだな」
「えっ?あ……ゴメン」
「謝ることではない。
一人で百面相をしている君は端から見ている分には愉快だからな」
「ひゃ、百面相って……
私、そんな風に見えたのかな……?」
かぁっと赤らめた頬に手を添えて、一瞬だけちらりとこちらを見やる
「何、気にすることはないこの暗がりの上に、この場にいるのは君と私だけだ」
「それは……そうなんだけど、」
暫し恥ずかしそうに俯いていたが、やがて開き直ったのか、はぐい、と天を仰いだ
「……満月が、キレイね」
ぽつりと零すように呟かれた言葉。
「満月の夜は好き。
好きな自分も、嫌いな自分も、全部同じに照らしてくれる」
す、と満月に向かって伸ばされる腕
細く、白く、掴んだ瞬間に折れてしまいそうな腕
その印象が――そのものへと繋がる
「――っアーチャー?」
ぎゅ、と思わず彼女を捕らえていた。
「ねぇ……どうしたの?」
「……」
白く、華奢な体
淡く儚げな印象
月の光に包まれ、消えていきそうだと思った
戦う術を持たず
戦う意志を持たず
ただ、見届けるだけの存在
――守るべき、大切な存在
「……君は、何処へも行くな」
「えっ……?」
道具として呼ばれただけの自分に、ただ一度だけ自由が与えられたのなら……
迷わず、こう願おう
「君は私が守る……約束しよう」
「アーチャ……――っん…」
月夜の幻想に思いを馳せて、唇と共に約束を重ねる
「――愛している、」
とんだ戯言だと知りながらも、伝えずにはいられなかった
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あとがき
一周年企画二人目はアーチャーさんです。
同位のセッツァーさんは五十音順と言うことで明日に。
なかなかネタが思いつきませんでした;;
一応相思相愛です。
からかうのは楽しかったんだけどなぁ………
2007 6 8 水無月