「、」
    昼休みにはいると、頃合を測ったように声をかけられた
    「ゲンマ、」
    「今、時間あるか?」
    「ん、昼休みに入ったところ」
    「そうか。じゃあ、これから昼飯か?」
    「そ。今朝寝坊しちゃって……今日は外食にするつもり」
    答えながら、は束ねた髪をほどく
    くせっけのない黒髪がはらりと肩に落ちる
    「――っと」
    ふいに、ゲンマの腕が伸びてきた
    「?」
    する、とゲンマの無骨な指が髪を梳き――
    「落ち葉、ついてたぞ」
    ぱさ、と足元に枯れ葉が落ちた
    「ありがと」
    はにかみながら、照れたように笑う
    その可愛らしい表情に、ゲンマもふ、と笑みを零す



    「――さて、行くか」
    くるりと踵を返し、ゲンマは歩き出す
    心なしか、歩幅はやや小さい
    「何処行くの?」
    「昼飯、だろ」
    当然のように答えるゲンマに、は呆然と立ちつくす
    「おい、行かないのか?」
    くい、と誘うようにゲンマは長楊枝を上下させる
    「ん――、今行く」
    小走りに歩き、はゲンマの隣に並ぶ

     春先の穏やかな陽気が優しく降り注いでいた

















    「――それで、用事って何なの?」
    「ちょっと聞きたいことがあってな」
    「ふぅん……何?」
    近所の定食屋で二人向かい合いながら会話を交す
    「お前、明日か明後日、いつが空いてる?」
    「んー……ちょっとわからない、かな。でもどうして?」
    「週末から長期任務でな。半年ばか家を空けなくちゃなんねぇんだ」
    「そうなの?」
    「あぁ、だから色々と片付けとこうと思ってな。お前の手も借りたいんだが……」
    「う〜ん……いつ空くかわからないけど、空いたら手伝いに行くよ」
    「そうしてくれると助かる」








    「……そういや、ここんところ忙しそうだな、お前」
    定食屋を出た後、ふと思い出したようにゲンマは切り出す
    「うん……ちょっと難病の患者さんがいて……」
    すとん、との表情に影が落ちる
    「……今日ね、この後手術なの。
    もう一人先生が着いてくれるんだけど……
    これが結構厄介でさ……」
    はは、と寂しげな、今にも泣き出しそうに笑う
    ゲンマは暫しその表情を見つめ――、
    「――非番だから、いつでもこい」
    そう言い残し、病院を後にした






















    「ただいま――……」
    真夜中を過ぎた頃、
    病院での仕事を終えたは、真っ直ぐゲンマの家へと向かった

    「おつかれさん、遅かったな」
    奥から現れた弦間は、私服に着替えてエプロンをつけている
    「ゲンマ……」
    「随分疲れた顔してるじゃねぇか。メシは?」
    そう訪ねられて、台所から漂ってくる香りに気づく
    用意してくれてたんだ、と内心感謝しつつも、
    「ゴメン、いらない……」
    口をついてでたのは、力無い言葉だった




    「んっ………」
    カーディガンを脱ぎ捨て、ソファに倒れ込む
    「はぁー………」
    長く息を吐いてす、と目を閉じていると、
    「勝手に寝るなコラ」
    突然ぐい、と頭部が持ち上げられた
    「あ……」
    それは静かに下ろされ、首筋の辺りに温かい感触を感じる
    「ゲンマ……何やってんの」
    「見リャわかるだろ」
    「そーじゃなくて……まぁいいや」
    ふぅ、と一息ついて、は体を起こす
    そして、静かに口を開いた
    「今日の手術……初めてだったの。
    何とかうまくいったんだけど、あんな風に臓器を治療する手術なんて初めてで……」
    ぐ、と強く握られる拳
    「怖かった……どうしようもなく、怖いと感じた……
    それなのに、この腕は自分の物じゃないように動いていて……」
    震えるの体


     は、凄腕の医者だ
     木の葉一の規模を誇る木の葉病院の中でもその実力と経験数は他に引けを取らない
     それでも、は手術の前後になるとこうしてゲンマの家に来ている



    「患者さんがね、目が覚めたとき――ありがとう、っていったの。
    辛いのに、笑顔でそう言ってくれたの……
    私よりも、何倍も辛いはずなのに、
    力強い笑顔で、ありがとう、って……
    本当の私は……こんなに弱いのに……」
    ぎゅ、と、震えるの体をゲンマは優しく抱きしめる
    「お前は……弱くなんかねぇよ
    ギリギリの命に直面すりゃ、誰だってびびる。
    それを怖いって癒えるのも一つの強さだ。
    手術だって、ちゃんと今考えるべきことを考えていられたんだろ?
    それもお前の強さだ。
    弱音はいたからって、弱いわけじゃねぇよ」
    慰めの言葉をかけ、ゲンマはひょい、とを抱き上げる
    「わっ――ちょ、ゲンマ?」
    向かっている先は――寝室





    「きゃ……」
    ばさりとベッドの上に投げ出され、包み込むようにゲンマに抱きしめられる
    狭いベッドの上、密着し合う体は熱を放つ
    そして――――








    「ゲン…マ……」
    途切れる息で、はゆっくりと言葉を漏らす
    「ん?」
    「任務……ちゃんと、戻ってきて……」
    「……あぁ」
    「私……ゲンマが、いなきゃ……ダメ……なの、」
    「んなこと……わかってる」
    「ゲンマがいれば……強い、私でいられる……」
    は漏らすようにそう言うと、くるりと体を反転させ、
    「……ゲンマが、好き……」
    そう言い残して眠りに落ちていった




      あなたが頑張っているから、私も頑張れる

      あなたが命をかけるなら、私は全力で命を救う

      愛しているから――応えたいと思う

      互いを思っているから――強くなれる




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       あとがき
     お題第7弾は私の原点であるゲンさんです。
     久し振りに書いたら文章がまとまらなくなってしまったという悲劇;;
     最近スランプー。でも頑張ります
     2007 6 14    水無月