『……まさか、がね』
…………え?
『ホント、がっかりだぜ』
ジェクト……?ブラスカ……?
『彼女にはいろいろと期待していたけど……残念だ』
どういうこと……?
『まったくだ
まさかが、落ちこぼれた召喚師だったなんてな』
それって――――
「――っぁ!」
がば、と飛び起きる
「っはぁ……
…………夢?」
辺りを見回し、自分の見たものが現実でないことを確認する
「……落ちこぼれ、か」
ぽつりと呟き、夢の内容を思い出す
十年と半年前、この身は召喚師だった
キーリカの村で生まれ育ち、才能があるといわれて召喚師の修行を始めた
結果、晴れて召喚師になることができた
ただ、それだけだった
『がっかりだ』
3体目の召喚獣を手に入れた頃だった
『才能があるって聞いてたけど、ただ若いだけの落ちこぼれじゃないか』
信頼していたガード――恋人の言葉に、深く傷ついた
そして――――
「ふ……」
その責務から、逃げ出した
全てを捨てて、ただただ逃げた
生きる理由も、人を信じることも捨てて、自分の落ち着ける場所を探して必死でもがいていた
そんな中、ブラスカ、ジェクト、アーロンの3人と出会い……
「――10年、か」
「どうした?」
傍らに目をやると、眠っていたはずの男が起きあがりこちらを見ていた
「起こしてしまった?」
「まぁな
それより、何を考えていたんだ」
「いや、私も年を取ったなぁ、と」
「?」
「10年。時がたてば人も変わるものだね」
「そうだな」
おもむろに立ち上がり、は備え付けのグラスに水を注ぐ
「……懐かしい夢を見た」
一口流し込み、ぽつりと語り出す
「ジェクトとブラスカ……それに、アイツもいた」
「アイツ?」
「昔のガード。もう顔も声もほとんど忘れたつもりだったけど」
「たった1人のガードだったのだろう。忘れられなくても無理はない」
「そうね……」
ふ、と寂しげな笑みがこぼれる
「アーロン……一つ、訊いてもいい?」
ぐい、とグラスの水を飲み干し、はベッドに身を乗り出す
「ジェクトやブラスカは……私のことを恨んだりしていなかった?」
「どういうことだ」
「旅の途中で拾ったのは、落ちこぼれて全てを失った召喚師……
そんな女が一緒にいて、迷惑じゃなかった?」
その瞳には、10年分の想いが宿っていた
「ずっと目を背けてきたのかもしれない……」
気づかない振りをして、訊かれるのが怖くて、
自分の影から逃げ続けていた
「10年前――二人は私のことをどう思っていたの……?
あの場所にいた意味は何だったの……?」
涙が一滴、白い頬を伝う
「――」
その意味は計らずともわかる
アーロンは黙ったまま、の身体を抱き寄せた
「俺からは何も言えない
答えはお前が導き出さねばならない
だが……」
ぐ、とを抱く腕に力がこもる
「10年前……ブラスカはお前に不思議な力を感じると言っていた。ジェクトも同じようにな
あいつらはお前のことを仲間だと信頼していた
ブラスカはその命を預けても、ジェクトは背中を任せてもいいと。
だからこそ、あいつらは未来を……
ティーダとユウナを俺たち二人に託した」
「……アーロンは?」
腕の中で籠もる声は、かすかに震えている
「10年前と同じだ。仲間として、信頼している」
「アーロンの口からそんな言葉が出るなんて」
くす、と思わず笑みをこぼすと、だが、と続きの言葉が降ってきた
「互いにこのような身体でなければ、傍にいてやりたいと想っていた」
どくん、と触れた肌の内側で鼓動が高鳴る
それは――……すでに叶わぬ願いで……
抑えていた気持ちが溢れそうになる
「……、とりあえず今夜はもう寝ろ」
それを悟ったのかアーロンはをベッドに運び、向き合うようにして抱き込んだ
「疲れたせいで悪い夢でも見たんだろう
こうしていてやるから、もう少し寝ておけ」
ぐい、と無骨な指が涙を拭う
「……ありがとう」
悪い夢だと思っても、払拭しきれない過去が、想いがのしかかる
それを忘れたくて、包み込む腕の、身体の温もりに全てを預けた
不思議と、この腕の中でなら全てを忘れられるような気がして……
悪い夢を見ることは、なかった
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あとがき
漸くラストです歌詞お題。
元・召喚師ヒロインの夢です
冒頭の部分はあくまでもヒロインの深層意識から生まれ出た想像で、
実際にはアーロンの言うように信頼されていたんですよ
ただ、過去の経験が未だトラウマになってしまっている……
そんなのを書いてみました
遅くなりすぎましたが、これで歌詞お題完了です!
2008 2 17 水無月