「あり……がとう」
それが、その人――伊東鴨太郎の最期だった
十四郎の妖刀騒動は、伊東の謀反により――また、その謀反と共に、静かに幕を閉じた
彼の人気は再び戻ったみたいだけれど……それでも、彼の強い心がそれを許さないのだろう
彼は自ら謹慎処分の延期を申し出たという
「南無網………」
今は、松平さんの愛犬と、高杉一派の河上万斎に殺されてしまった山崎の葬式
とはいえ、半ばチンピラのような集団。
まともな葬式が行われるはずもなく、携帯をいじったりジャンプ読んだりetc………
その中で、ぼそりと聞こえてきた呟き
「――そういや、前から様子変だったよな……」
「ホント、どうしちまったんだろうあの人」
「……まさか、もう新選組には戻ってこない……なんていわねぇよな……」
どうして、そんなこと思うの?
みんな、トシを信じてたんじゃないの?
だったら、信じてあげてよ……
「なぁ、もう新選組は……「やめてよ!どうしてそんな――」
思わず立ち上がっていた
局長が止めるのも構わず、葬式の場なのにも構わず、
トシを信じようって、訴えかけたその時――
ドゴォン
爆音、爆風、その他諸々。なかには「ぶぉわっ」とかいう声も聞こえた気がする
「ぎゃぁあああ!山崎が化けてでたぁ!!」
驚き戸惑う声や、白い元死体等々。
けれど、その奥には――
「…………――成仏すべし、」
聞き慣れた声、低くて、それでも何処か楽しげな声
「てめーら全員士道不覚悟で切腹だァァァァァ!!」
「………」
静まりかえる式場
私も、呆然と立ちつくしていた
「……副長、」
「副長だ……」
「副長ォォォォ!!」
「副長が戻ってきたぞォォォ!」
それは突然のことで、
それでも、嬉しくて
嬉しすぎて……
「……も、やだなぁ……トシったら……」
力が抜けて、思わずその場にへたり込む
「さん?」
「……はは…は………ははは……はぁ……」
「ど、どうしたんだ?何で泣いてるんだ?!」
局長の言うとおり、気がつけば自分の頬を温かいそれが流れていた
「そうだね……何で泣いてるのか自分でもわかんないや……」
「……安心したんでしょう、あの開いた瞳孔を見て」
その言葉に振り向くと、総悟君が呆れたようにため息をついて、ある方向を指さしていた
「さっさと行った方がいいですぜ。このままだと怪我人が出ますんで」
「総悟君……」
彼の指先にあるのは……ずっと信じていた大切な人
「……ん、ありがとう」
「――トシ、」
隊士達に容赦なくげんこつを食らわす仕方のない副長に声をかける
「……」
「復帰早々、怪我人出さないでよね。もう」
「……悪ぃ、」
「あーあ……屋敷もボロボロにしちゃって……また修理しなくちゃ」
「そうだな」
「なに他人事のように言ってんの?」
「うるせぇよ」
いつもと変わらない口の利き方。
……トシだ。
「………お帰りなさい、トシ」
「あぁ」
そんな慌ただしい葬式の後――
二人、屋敷の裏庭で話をする
「……トシ、やっぱり戻ってきてくれたんだね」
「まぁな」
「でも良かった……これで、決心が付きそう」
「………決心?」
「うん……トシには、話しておきたかった」
トシの顔を見たら迷いが吹っ切れたし
「あのね……
……私、新選組を抜けようと思うの」
「何だと……?」
「先の伊東さん……ひいては、河上万斎による新選組壊滅の陰謀。
とある線から、私は一足早くその情報を手に入れた。
トシがいなくなって……それでも、新選組は守らなくちゃいけないって思って……」
突き詰めて、追いつめた。
それは、私の油断だった
「……私、捕まったの」
「な……」
「もう、わかるよね……?
私……」
自慢じゃないけど、自分は可愛い方だと思う
周りからもそう言われることは多いし
そうでなくても、年頃の娘が捕まれば……結果は一つ
「……お前……」
「無謀だってわかってたのにね……
……その後、隙を見て助けてもらったけど」
「……それだけ、なのか」
「何とかね。
それでも、一度敵の手に渡ったこの身。
もういられない。新選組にいるわけにはいかないの」
過ぎてしまった以上戻ることは出来ない。
だから今は潔く身を引くべきなのだ
「……だってこれは私の責任だから。
トシを探し出して、無理にでも引っ張ってくるべきだったのかもしれない。
けど、それをしなかったのは私自身。
……ごめんなさい、勝手なまねして」
「……隊士を辞めて、その後はどうする
向こうにつくとかいうわけじゃねぇだろうな」
「まさか。
あんな女性の扱いが酷い所なんていきたくない
ここの方がよっぽど扱いが良かったわよ」
思わず笑みがこぼれる
――それは、酷く自嘲的だったのかも知れない
「消える気、か」
トシの声は、何処か寂寥を含んでいた
「……多分、そう言うことになると思う」
「考え直す気はないのか」
「ないよ。もう決めたから」
もう、迷いはないから
「だから……トシが戻ってきてくれて良かった。
最期に伝えたいこと、あったから」
「……?」
「ありがとう、トシ。
あなたの傍にいられて幸せだった」
ありがとうの言葉がこんなに切なくなるなんて知らなかった
思い出が溢れ出してくる。
一緒に戦い
一緒に走り
一緒に夜を過ごした
あなたを、愛している……これからもずっと
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「――行くな」
ぐい、と自然に彼女の腕をひいていた
隊を抜ける?
捕まった?
犯された?
やり場のない怒りと苛立ち
そしてなにより、彼女の「ありがとう」と言ったときの切なさが……
「勝手に消えるとかぬかすんじゃねぇ
誰がいいっつった」
「でも……私はもう……」
「捕まったとか犯されたとか、そんなこたぁどうでも良いんだよ」
「えっ……?」
「勝手に俺の傍からいなくなるな」
抱き寄せて、腕に強く力を込めれば微かに震える体
「過ぎたことは仕方ねぇ。
だったらもう……誰にも触れさせねぇだけだ」
どくん、との鼓動がダイレクトに伝わる
「大体、何の理由があって惚れた女をそう易々と手放さなきゃなんねぇんだ」
そう言い聞かせれば、は何か考え込むように俯いた
「……でも、けじめはつけなきゃ。
新選組隊士としてのけじめは、ちゃんとつけなきゃいけないと思うし、
……少なくとも、私が隊士として活動する資格はもうないよ」
「それなら……俺の物になればいい」
「は?」
「俺の女房としてなら問題ねぇだろ」
「あ………」
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あとがき
無理くり作った土方さんドリ。
お題第5弾です
後回しにしたのは、今日発売のジャンプでかこうと思ったためです
ありがとう、といえば伊東さんの最期の言葉が凄く印象的でしたから
ホント、あの「ありがとう」は切なくなります。マジで。
2007 9 11 水無月