全て失った
手に入れた物は全てこぼれ落ちて、
この瞳には涙すら残らなくて
守るものなど、何もなくて
それでも――あいつらは必死に守っていた
「よっと……大丈夫?銀時、小太郎」
「なんとかな」
「そっちはどうだ」
「私は上手く撒いたよ。
堅いのは晋助が始末してくれてる。そうそう、後で辰馬も合流するって」
「そうか」
頷いた銀時の隣に、はよいしょ、と腰を下ろす
全力で走ってきたのだろう、高い位置で結われた髪がやや乱れていた
「、こっちへ来い」
「ん、何?」
そそ、とは向かいの小太郎に歩み寄る
「髪に葉が絡んでいるぞ……
――――よし、とれた」
「ありがと、」
「それに、随分髪も乱れているぞ」
「えっ?あぁ、結構飛ばしてきたからかな」
「今暫くは時間が空くしな。直してやろう」
する、との髪をほどき、小太郎はそれを丁寧に整えていく
「――こんなものか」
きゅ、と飾り紐を結び、小太郎は満足げに呟いた
「ありがと、小太郎」
ふふ、と笑みを零す
友達以上恋人未満。
それが、幼馴染みである小太郎との関係だった
「おいおい、こんなときによくんなことしてられんなー、お前ら」
気怠げな呟き
声の主――銀時は、そう言いながら大きな欠伸をする
「ちょっとした息抜きじゃない。
それに、私より小太郎の方がこういう上手いし」
ぎゅ、と鉢巻をし直しながらは再び銀時の隣へ腰を下ろす
「それに、私だってバカじゃないんだから。時と場合の把握ぐらいちゃんとしてるよ」
「わーったわーった」
わしゃわしゃと髪をかき回す銀時
程なくして、と二手に分かれた晋助が、少し遅れて、やや遠くに足を運んでいた辰馬が戻ってきた
「さて――これからどうする?」
話を切りだしたのは晋助だ
「辰馬の話と照らし合わせると……増えた敵の数は十人あまり、対してこっちの戦力は二十人減。ちょっと痛いね」
「だが、一対一、もしくは一対二になった場合の戦闘能力に関してはおおよそこちらが上だ。
まだ完全に不利になったわけではあるまい」
「それに、こちらには地の利がある天の利もあるじゃき。勝機は消えてとらんぜよ」
「とりあえず作戦――と言いたいところだが、」
言いかけて、小太郎はちらりと正面を見やる
「銀時、お前はどう思う」
「………別に、どうも思っちゃいねーよ。
作戦なんて考えてねーし……
俺は俺の守るもんを守るために刀を振るだけだ」
「銀時……」
静まりかえる空気に、はす、と立ち上がる
「?」
すたすたと四人の中央を横切って、は隣の倉庫に入り
「えーっと………」
すぐに戻ってきた。――腕一杯に袋を抱えて
「、どうした?」
「空気が重いの。
みんな疲れてることだし、取り敢えず何か食べて体力回復させないと
そっちの方が頭の回転も良くなると思うし」
はい、とは手際よく水と干菓子を配る
「む……だがまぁ、の言うことにも一理ある
ここはしばし休息を取るとするか」
がさりと包みを開き、菓子を口に放り込む
「……ねぇ」
各々のペースで食べ、水で一服していると、ふいにが口を開いた
「ねぇ……一つ、良いかな」
「何だ?」
「もし、……もし、この戦いが終わっても……
……みんなは、今のままでいてくれる……よね」
不安げなの声
「どういう意味だ、」
「……最近、怖いの
他のみんなが……何だか、凄く怖いの
国を守るためじゃなくて、自分たちのためだけに斬ってるように見えて……」
「……」
「みんなは、違うよね……?
今も、これからもずっと……変わらない、最高の仲間でいてくれるよね……?」
泣きそうな表情の
「当ぜ「たりめーだ。馬鹿なこと言ってんじゃねぇ」
答えようとした小太郎の言葉を遮り、銀時はぽん、との頭に手を置き、
「とりあえず、今から町へ降りるぞ。
高杉は守護隊の偵察、ヅラと坂本は西、俺とは東にまわる」
珍しく指揮を執って四人に指示を出した
「……わかった」
「了解だ」
「まかしときんしゃい」
「ん、りょーかい」
一瞬驚きの間が空いたが、四人はしっかりと返事を返す
「念のため、時間をずらして出るぞ。
まずはヅラと坂本、次に高杉、最期に俺達が。
――半刻後、寺子屋の裏に集合だ」
「――よし、そろそろ出るぞ」
「ん、わかった」
かちゃりと腰に刀を帯び、二人は小屋を出る
日は傾き、時期に夕方となる頃合いだった
「――銀時っ、危ない!」
街道の裏に入って、突然が叫んだ
刹那、ひゅお、と風を切る音
「――っ!」
キィィン、と甲高い音
の足元には、一本の矢が転がっていた
それを確認した銀時は、はっと顔を上げると、
「――!、伏せろ!」
の体を倒し、刀を振るった
キィン、キィン、と連続して何かのぶつかる音
そして、次の瞬間――
「――わっ?!」
ぐん、との体は地面から離れていた
「ちょ、何するの銀時!」
「少し我慢しろ!」
呆然としていたを抱え上げ、銀時は脱兎のごとく路地裏を抜け出した
「はぁ――っはぁ……」
「大丈、夫?」
「まぁ――な、」
荒い息を整える銀時に、はそっと訪ねる
「どうして、私を置いていかなかったの?」
「あ?」
「私を置いていけば楽に逃げれたのに……」
「バーロ、んなことできっかよ」
「どうして?」
「変わんなっつったのはお前じゃねぇか」
「……?」
「オメーが死んじまったら色々と変わっちまうじゃねぇか」
「銀、時……」
ゆるりと息をついて、銀時はを見つめる
「……なぁ、」
「ん?」
「お前は一人じゃねぇだろ」
「えっ?」
「俺達に変わるなとかなんとか言っときながら、自分の命捨ててんじゃねぇ」
「……ゴメン。
でも、私何かより銀時たちの方が……大事な物持ってる」
きゅ、と強く握りしめられる手のひら
「私には、守るものなんてなくなった
けれど、銀時たちには大事な物、守る物がある
銀時たちには、いずれ与えられるべき光があるんだよ」
切なげな表情
じーっとその表情を見つめて、銀時はゆっくりと手をかざすと
ぱこん
「った……!」
の額にデコピンを食らわせた
「な、何するの!?」
「バーロ。何言ってんだお前は」
「え……?」
「お前だって、俺達の大事な仲間だ。守るべき物だ
なのにお前が勝手に死ににいくんじゃねぇ」
それにな、と銀時は笑みを浮かべる
「光は待ってるんじゃねぇ。最初からあんだよ。
ちっぽけな、人一人分の光だけど、ちゃんとあるんだよ
俺にも、ヅラにも、高杉や坂本にも。……お前にもな」
「銀時……」
「もしお前の光がなくなって、真っ暗になっちまったんなら……
俺の光をわけてやる。
俺の光の中に、お前を入れてやる」
柄にもなく真剣な銀時の言葉に、その銀髪さえも輝いて見えた
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あとがき
遅くなりましたがお題第6弾は銀さんです。
ぶっちゃけ夢じゃないですora
とにかく攘夷志士&皆を名前で呼ぶヒロインちゃんが書きたかっただけです。
正直、ヅラを小太郎と書くのは結構抵抗ありました
とりあえず攘夷的な物がお好きな人はドウゾー
2007 6 13 水無月