「、今週の日曜って空いてる?」
  「え……?あ、うん。空いてるけど、何で?」
  「部活が休みになったから、一緒に出掛けないか?」


  それは、珍しくも嬉しい深司からのデートのお誘いだった





   深司とは付き合って二年目
  告白は深司の方からだったけれど、それ以来深司から何かを
  振ってくると言うことは皆無に等しかった
   だから内心、今日のデートはとても楽しみにしていた


  「おまたせ深司。おはよう」
  「あぁ、」
  自分が着くなり歩き出した深司の隣に並ぶ
  「えっと……今日は何処に行くの?」
  「××スクエアとかいう所」
  「最近出来たレジャー施設だよね。私まだ行ったことないんだ」
  「ふーん……まぁ、俺も行ったことないけど」
  ちらりと一瞬だけこちらに向く視線は少し高い
  自分も会わせるように視線を深司の方へ向ける
  「あ……じゃあ、今日は一日二人でゆっくりと回ろうか」
  「まぁ、そうだよな……」
  「……どうかしたの?」
  「別に。何でもない」











  「わぁーおっきいー」
  電車に揺られること20分。
  長いような短いような時間で着いたそこは、まるで別世界のようだと思った
  「凄いところだね、深司」
  「テレビであれだけ紹介してるんだし、このぐらいでなきゃ興ざめするだろ」
  「それもそっか」




   それから二人であちこち見て回った
  雑貨屋を見たり、CDショップで試聴したり、ブティックに入ったり……
  ありきたりだけど、久し振りの二人の休日を心の底から楽しんだ




  「あー、一杯買っちゃった」
  「ホント、買い物好きだよな」
  「女の子だもん。
  ……っていいたいけど、久し振りのデートだから楽しくってついつい」
  思わずこぼれる笑み
  注文したアイスティーを飲みながら、ちらりと正面の深司を盗み見る
  いつもと変わらないすました表情


  ……楽しく、ないのかな

  思い返してみれば、いつもそうだった気がする

  互いに部活で忙しいから、滅多にこんな機会なんてないし……
  偶に一緒に出掛けることがあっても、私の方が行きたいところばかり行ってもらっていた
  深司は……何も言わずに着いてきてくれたけど、
  本当は……どうなんだろう




  「……ね、深司」
  「何?」
  「私、行きたいところもう殆ど行ったから……
  今度は深司の行きたいところ行こ?」
  「……別に、特にないけど」
  「でも、私ばっかり悪いよ。
  どんなところでも良いから、ね?」
  「……わかった」









   再び電車に揺られること十数分
  駅のロッカーに荷物を預け、深司について歩いていく
  「わっ……」
  初めに連れてこられたのは、街角のスポーツショップ
  深司らしいな、と思いつつ店内を見回していると
  「――、」
  店内の一角から深司の呼ぶ声がした
  「何かあった?」
  「これ、どっちが良い?」
  示されたのは二つのリストバンド
  濃い色の、青とグレーの二種類
  「んー……こっちかな。
  深司の好きな色だし」
  グレーの方を指さして答える
  青色も好きだけど、なんとなく深司の好きなグレーを選んだ
  「ふーん……ま、いっか。
  じゃあちょっと待ってて」
  意味ありげな言葉を残し、深司はレジへ向かった




  「――お待たせ。ほら」
  店を出るなり深司は小さな包みを投げてよこした
  「あ、うん。――あれ?これって……」
  中に入っていたのは、先程見せられた青色のリストバンド
  「俺はこっちだけど……、その色好きだろ」
  「あ、うん……でも何で?私そっち選んだのに」
  「ならどっち選ぶのかって興味あっただけ
  ……まぁ、どっち選んでも渡すのは同じだけど」
  そう言って深司はくすりと愉しげに微笑んだ
  「――!」
  どきん、と胸が鳴る
  深司がキレイに笑うのは知ってたけど、
  こんな不意打ちって……!


  「――ほら、行くぞ」
  「あっ、うん……」
  慌てて隣に並ぶ
  心臓はドキドキしっぱなしだったけれど、
  その反面凄く嬉しかった

  深司は……どう思ってるのかな
  もっと、知りたい……









   その後、ゲームセンターに行って時間を潰していると――
  「……どうしたの?深司」
  深司が窓の外に目をやっている
  「何かあった………あ、」
  隣に立ってみてみると、そこにはよく見慣れた施設があった
  「テニスコート何てあったんだ……」
  「気づかなかった」
  「そうなの?」
  じっと深司の表情を見つめる
  テニス……やりたいのかな
  「あのさ、深司……もしかして、テニスしたい?」
  「そりゃそうだろ。コートがあったら打ちたくなる」
  「そうだよね。じゃ、行く?」
  とん、と一足先に着く
  「行くって……はいいわけ?」
  「もちろん。
  言ったじゃない、深司に付き合うって。
  それに、テニスしてる深司を独り占めできるんだし」
  恥ずかしい台詞を言ってみると、深司は一瞬驚いたように目を見開いて、
  「……がそう言うんなら、行く」
  やや早足で、テニスコートへと向かった










  「――はっ!」
  パコーン、パコーン、と乾いた音の中にボールが飛び交う
  「ゲ、ゲームセット!」
  審判の言葉を聞くと、深司はかったるそうにこちらへ戻ってきた
  「スゴイね、さすが深司!」
  「別に、あんなのどうせただの予行練習だったし……」
  事も無さげに呟いて、深司はジュースで喉を潤す





   「――そこ、悪いけど使わせてくれない?
   こっちは時間限られてるんだし、良いでしょ」
   テニスコートに着くと、丁度コートは最後の一箇所が空いていた
   だが、同時に仮に来たのが自分たちの他にもう一組
   ラケットとボールは借りれたモノの、これでは意味がない
   どうしようか考えている傍らで、深司は唐突に切り出した
   相手は、この辺りのワルで、このコートの特殊な常連らしい
   当然のごとく突っかかってきた相手に大して、
   「じゃ、これで決着をつける」
   深司はさらりとそう言ってのけた
   「勝った方がコートを使える。そういうことで」



  珍しく好戦的な深司の態度に、自分が驚いてしまった
  そして――深司ら6−0で圧勝。
  コートの権利は自分たちのモノだ。



  「さてと……、ラケットもって」
  「えっ?」
  「俺一人だけ打っててもつまらないし……ほら、早くコート入って」
  「う、うん……」
  言われるままコートに入る
  けれど……
  「……何怯えてんの?」
  「えっ?あー……だって……」
   深司は全国大会に出場したスーパープレーヤー
   一応自分もテニス部だけど……
  「深司にまともなボールなんて返せないって………」
  ケタが違いすぎるのだから
  怖くない方が不思議
  「……に本気のボール返すわけないだろ。
  ちゃんと手加減するから、リラックスして打ってくんない?」
  「……ん、わかった」
  深司の言葉を信じて、ラケットを握り、構え直す


   ボールを高く投げて、サーブを打って………





   日が暮れるまで、ずっと深司と打っていた
  もちろん、自分には隙がありすぎて深司に何回も取られたけれど、
  深司もわざと取られたりしてくれて………

  
   楽しくて、楽しくて、ただそれだけで
  この時間だけで、もう何もいらないとさえ思えた







  「――楽しかったよ、深司。今日はありがとう」
  「ふーん……まぁ、俺も楽しかったし……ありがとう」
  深司にお礼を言われて、正直ちょっとビックリした
  「……あのさ、深司、一つ聞いていい?」
  「何?」
  「今日、ずっと私に付き合ってもらったようなモノだったけど……本当に、楽しかった?
  その……もしかして、気疲れしてるとかないよね?」
  思い切って気になったことを聞いてみた
  「……たしかに疲れたけど、楽しかったのは本当」
  髪を掻き上げ、深司は天を仰ぐ
  「と一緒にいるだけで楽しいから、俺は。
  今日も、のテニスとかもわかったし……だから楽しかった」
  「深司……」
  「とは一緒にいて飽きないし、一緒にいればもっとのことがわかるから
  ずっと傍にいて、もっと色んなコトを知りたいと思う」

  その言葉と深司の微笑みで、不安な気持ちがすべて霧散していった













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   あとがき
歌詞のお題得票数トップは伊武くんでした。
日付かわってゴメンナサイ。無茶な内容でごめんなさいorz
結局はラブラブだったということで…………
2007 6 7  水無月