「ペース落ちてるぞ!腕下げるな!」
青空の下、広いグラウンドによく通る声が響きわたる。
あの体格のどこから出ているのか。などと頭の片隅で思いながらは前を見る。
ショートながらも女性特有の柔らかさを有した髪は同じような背格好ながらもよく目立つ。
「よく走るなあ……」
四Kg超の銃を抱えてのハイポートは体力に自信のある人間でもかなり辛い。かく言う自分もペースを落とさずにいるのがやっとだ。
ゴールを目前に、とりあえずは自分の目標順位をクリアすることはできそうだ。ーなどと考えていると、前方の一人が、ダッとスパートをかけた。一人、二人、みるみる追い抜き、先頭集団に続いてゴールする。
「うわあ……」
驚きやら呆れやらの呟きがこぼれる中、彼女はゴールの向こうで仰向けに倒れ込んだ。
「誰が倒れていいっつた!腕立て!」
教官の怒号に歯軋りしつつもすぐに腕立てを始めている。その光景を横目に、は順調にゴールして待機列に並んだ。
図書隊の防衛部に入ってまもなく知った彼女の名前は笠原郁。背が高くて活発な女性、というのが第一印象だった。だが共に訓練に励むようになって、猪突猛進、熱血という言葉のほうがしっくりくることがすぐにわかった。
同時にインプットされたのは、そんな彼女とよく声を張り合ってる指導役の上官、堂上篤二等図書正。
他の男性隊員に比べて十cmは背が低く、ことあるごとに背の高い郁と張り合っている姿は良くも悪くも覚えやすかった。
──特に何が、というわけではなかった。気がつけば、目で追っていた。
その日はなぜか食堂が混みあっていた。よく見ると新人隊員以外にも士官の姿がけっこう見える。
「どっか……あ、」
はきょろきょろとあたりを見回して、一カ所の空席を見つけた。
すぐ隣で向かい合わせになって食事をしている二人は士官の制服を着ているので、新人は寄りつきにくいのだろう。
目上の人に対する苦手意識がさほど強くないは、これ幸いと静かに歩み寄った。
「すみません。こちら、使わせていただいてよろしいでしょうか。」
ああ、と顔を上げた相手に、一瞬言葉が詰まる。
「堂上教官。」
「ん?……、だったな。」
「はい。」
軽く頭を下げて立っていると、堂上と向かいで座っていた士官が口を開いた。
「ほら、立ってないで座ったら。いいだろ、堂上。」
「ああ、そうだな。」
二人は少しトレイをずらしてがおけるようスペースを作った。
「……失礼します。」
トレイをおいて席に着く。何となく、堂上の隣は避けた。
「キミ、堂上の受け持ち?」
「はい。といいます。」
「俺は小牧。堂上と一緒に新人教育担当してるから、どこかで当たるかもしれないね。」
よろしく、と小牧は柔和に微笑む。
小さく頷いて、は箸を手に取る。
「さん、図書隊の訓練はどう?」
「厳しいと思います。」
は生真面目に答えた。実際、ぼつぼつと脱落者が出始めている。
「特にこいつ、鬼教官って聞いてるけど?」
「うるさい。」
茶化すような小牧の言い方に堂上がふてくされたように噛みつく。
「えっと……堂上教官のご指導は、厳しいですがわかりやすいです。」
若干言葉に迷ったあげくそういうと、堂上は小さく手を振った。
「、無理にフォローしなくていい。」
「良かったじゃないか。彼女には好評みたいで。」
「?」
意味深な言葉に首を傾げていると、
「気にするな。こっちの話だ。」
堂上はそう言ってトレイを持ち席を立った。小牧も同じように立ち上がる。
「それじゃあ、俺たちはこれで。」
「はい。」
小さく頭を下げて、二人が見えなくなってからは食事を再開した。
あとから知ったのは、士官用の食堂は利用者の年齢層が高いため、メニューによっては士官がこちらの食堂を使うこともある。ということだった。
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あとがき
友人リクエストで書いたら思った以上に楽しくて長くなってしまいましたw
シリーズ物、という形で上げさせていただきます。
堂上教官お相手、ということで原作のラブラブカップル好きの方(自分もですが)はご容赦くださいm(_ _)m