翌朝――
「ふわ……あれ?」
早くに目を覚ましたパンネロは、テントの前の二つの影に目をとめる。
「おはよう、。それにバルフレアさんも……」
「あ、パンネロ。おはよう。」
「ヴァン達はどうしてる?」
に尽きっきりだったバルフレアは、ちらりと視線を送って訊ねる。
「ヴァンとアーシェはまだ寝ているみたいです。
バッシュさんも少し前には起きていたみたいで………フランはちょっとわかんないです。」
「そうか、」
一言返事を返し、再びに目をやる。
「……、本当にやるつもりか?」
「やる」
「そこまでする必要はないと思うが、」
「いいの。偶には使わないと鈍って来ちゃうし………
それに、こうでもしないとこのイライラ解消できそうにもないから。」
「そこまで言うならお前に任せるが……無茶はするなよ。」
「大丈夫よ。無茶なんて相手じゃないし。
『この子』で跡形もなく吹き飛ばしてやるわ。」
すっかり日が昇った頃、達は昨日の岩場へと足を運んだ。
以外の6人は何処か緊張した面持ちで、
当のは鋭い目つきで辺りを見回し――
その背中に、軽く人の背丈以上はある大きな包みを背負っていた。
「……それ……」
躊躇いつつもヴァンが声をかけるが、は何も答えなかった。
「――見えたわ、」
スコープを覗きながらフランが知らせる。
「戦闘開始、だな。」
楽しげに呟かれたバルフレアの一言で、皆は一斉に前へと躍り出た。
を覗く全員が、即座に魔法の詠唱を始める。
は自動連射のライフルを構え、隙のない銃撃でモブを攻める。
「さすがになかなか当たってくれないか……上手くよけやがって、」
苦々しげに呟かれた言葉に、ヴァンの表情が曇る。
「お、おい、大丈夫か?。」
慌てて確かめると、は唇の端と持ち上げ、ふ、と微笑った。
「心配しなくても大丈夫よ。」
いつもと変わらない口調でそう言い、はライフルを下ろす。
「どうやらコレの出番みたいね。」
呟き、背中の包みをゆっくりと下ろす。
「みんな、さがってて。
――大丈夫。すぐに終わるから。」
言われたとおりに皆が下がり、同時には包みの紐をほどく。
「さーて、久々にいくかっ!」
ばさりと、覆っていた布が取り払われ、『それ』は姿を現す。
『……!?』
その正体に、皆は驚き目を見開く。
それは、黒光りする金属とプラスチックの塊――――ライフルだった。
だが、それは人の背丈――パーティで一番の長身であるフランよりも遙かに高かった。
グリップも普通の物より二回りは大きく、シリンダーも通常の二、三倍はある。
スコープも大型の遠距離用で、分解されているバレルの長さは尋常ではない。
ただ一つ、照準をあわせるための装置だけが、適当な大きさで取り付けられていた。
「、何だよそれ?!」
「ライフル」
「それはわかるが……明らかに大きさがおかしいだろう。」
「特注だもの。」
「が、使うの?」
「他に誰が?」
皆の質問に軽く答えながら、は撃つための準備を進める。
「………、説明しておけ。」
呆れたようなバルフレアの一言で、は一度作業を止めた。
「これは私がアルケイディスの職人に特注でつくらせた品なの。
数キロ離れたターゲットでも確実に撃ち抜けるようにね。
――で、まぁ、私がその後改造を重ねて、今に至るってこと。」
にっ、とは自慢げに笑みを浮かべる。
「名前は“ゼウス”。私の大事な相棒よ。
精度も申し分ないし………まさに芸術品ね!」
熱弁を振るうの肩を叩き、バルフレアはため息をついた。
「と、とにかく私に任せて!いい?」
強引に話を押しきって、は準備を再開する。
「それはいいけど……、そんな大きいの、大丈夫?」
「心配ご無用。何てったって相棒だし?」
巨大ライフル――“ゼウス”を担ぎ、は狙撃体制に入る。
「弾込めには時間が掛かる………1つで決めるよ。」
呟くように言いながら、照準を合わせてハンマーをあげる。
かちり、と音を聞き、作動していることを確認する。
一列に並んだバレルとシリンダーを確認して、太い引き金に手を添えた。
「ようし………――それっ!」
ずどん、と重く太い音が響き、弾が発射される。
反動でのけぞりそうになる身体を何とか支え、は二発目を発射した。
二発の弾はモブの腕を貫通し、その太い腕は抉れたように地面へと落ちた。
「ようし……次は足、いくよ」
反動でやや崩れた体制を尚し、スコープを覗き込む。
レンズを通すと、ターゲットが逃げようとしている様子が見えた。
「逃がすかっ……!この……!」
素早く照準を合わせ、引き金を引く。
立て続けに二発食らって、モブは片足も落とし、その場で怯んだ。
「よっしゃ、ラスト……――っ!」
体制を立て直し、ゼウスを担ぎ直す。
刹那、肩に激痛が走った。
「――っやば、反動来た………」
ぐらりと身体が傾く。
ゼウスに寄りかかって何とか持ちこたえるが、次の弾は撃てそうにもない。
「体鈍ったな……」
「アホか」
思わず漏れた苦笑にかぶって、呆れたような声が聞こえた。
「バルフレア……」
「何が任せてだ。フラフラじゃねぇかよ。」
呆れたように言いながらも、バルフレアは片手でゼウスを支え、もう片方の腕での身体を抱きとめた。
思わず顔が赤くなる。
「そもそもだな、こんなバカみてぇなものつくるところから間違ってんだよ。
特注でつくるのはかまわねぇけどな、もっと計画して依頼しろ。自分にあった物を作れ。」
「ま、前使ったときは6発持ったわよ。」
「前って……俺達と会うより前だろうが。」
「まさかここまで腕が鈍ってるとは思わなかったから………」
呆れたようにため息をついて、バルフレアはゼウスを見上げる。
「ま、すんだこと悔やむよりさっさとやるべきことを済ませる方が先だな。」
そう言いながらバルフレアはゼウスを構えた
「……?」
疑問符を浮かべながらは何とか立ち上がる。
ゼウスを構えるその姿に違和感はなく、パッと見は、普通に使いこなしていそうにも見える。
「バルフレア、あの……――っ?!」
訊ねようとした声は、いきなり抱き寄せられて遮られた。
「ちょ、ちょっと……?!」
「早く仕留めろ。お前に任せてるんだ。責任もって最後までやれ。」
厳しい口調で言われ、は口を紡ぐ。
自分のミスが許せなかった。
あんな大見栄切ったくせに………
けれど、もうゼウスを撃つほどの力は………
「――大丈夫だ。俺が支えてやる。」
不安がよぎった瞬間、頭上からの優しい声。
顔を上げると、ヘーゼルグリーンの優しい瞳がそこにはあって、
胸が高鳴ると同時に、酷く安心する。
「でも、これは反動が……「俺を誰だと思ってる?」
自分のミスの所為で、バルフレアまで巻き込みたくない。
止めようとした言葉は、自信たっぷりのセリフにかき消された。
「バルフレア……」
「ほら、構えろ。」
バルフレアに促され、の手が伸びる。
不思議と、肩の痛みは感じなかった。
「――用意は良いか?」
「いつでも。」
何とか平静を装うが、内心の動揺は酷かった。
息が掛かるほどに身体が密着していて、鼓動が聞こえるのではないかと思ってしまう。
耳元で囁かれる低い声にも、身体が疼いてしまう。
「よし――撃つぞ。」
引き金にかけた手に、バルフレアの手が重なる。
促されるままに、引き金を引く。
ずどん、と重い音が響き渡った。
「………ったく、バカなヤツだ。」
静寂の中、不意にバルフレアが呟く。
「こんなにデカイ反動くるヤツ使う女なんて、そういねぇぞ。」
「バルフレア……?」
「俺でも7,8発あたりが限界だな………
――――おい、。」
「えっ、あ、何?」
「例の宝……はどうした?」
「え、あ、その……一発目でたたき落としてあるから………多分、ターゲットがいた場所に落ちてると思う。」
「回収しにいかねぇのか。」
「あ、いかなきゃ………!」
ターゲットのいた、今は血溜まりとなっている場所に歩み寄り、はブレスレットを拾い上げる。
「よかった……壊れてなくて……」
懐から水の石をとりだし、二つに割ってブレスレットを清める。
「ホント、よかっ…――」
ぐらりとの身体が傾く。
隣に立つバルフレアが慌てて抱きとめた。
「おい、大丈夫か?」
「力入んない……」
「ったく……」
ひょい、と抱き上げられ、は言葉を失う。
「――っ!」
「暴れんな。この方が楽だろうが。それに……」
安心、するだろ。
そう囁かれて、顔が熱くなる。
そんな優しい瞳で見つめられたら……
何も、言い返せないじゃない……
「……ありがとう、バルフレア。」
「この礼はいつかしてもらうからな。」
「ん……わかってる。」
その後依頼主に討伐の報告をし、一件落着。
宝を取り返して上機嫌なの奢りで、その晩は普段より豪勢な食事になった。
「ところでさぁ、……」
不意にパンネロが切り出す。
「んー、何?」
「どうして、あんなに大きなライフルをつくったの?」
「そうよ。使うの大変なのはわかっていたんでしょう?」
パンネロの質問にアーシェも加わり、すぐに皆の注目が集まった。
グラスの酒をぐいっと一気に飲み干し、は一息ついて口を開く。
「何て言うか……私、一番になりたかったんだ。」
「一番?」
「そ。イヴァリースで一番の狙撃手。……それが私の夢だった。」
「だからあんなに大きなライフルを?」
「まぁ、大まかなところはそんなところ。
どんなに離れた物でも、確実に撃ち抜けるように………
自分のこだわりを詰めた、世界に一つだけの武器。
何かカッコイイでしょ?――ずっと、憧れていたの。」
「へぇ……そうだったんだ……」
「まぁ、空賊に加わってからは使う機会もめっきり減っちゃったんだけど……
それでも。置いていく気にはなれなくてね。」
「大切な相棒……だから?」
アーシェの問いに微笑み頷いて、は席を立つ。
「ちょっと飲み過ぎちゃったみたい……部屋で一休みしてくるわ。」
「イヴァリース最強の狙撃手……か、」
バルコニーの手すりに持たれ、ぽつりと呟く。
冷気を帯びたそよ風が疲れた身体心地よかった。
そっと肩をさする。
反動で痛んだ肩は大分回復してきている。
ぼーっと空を見上げていると、誰か入って来る音が聞こえた。
「……バルフレア、」
「肩はもう良いのか?」
「ん、大丈夫。もう平気。」
羽織っていたベストを椅子にかけ、バルフレアが隣に立つ。
「……ね、バルフレア。」
呟くようにが切り出す。
「さっき言ってた続き……」
「……」
「狙撃手の話の続き……聞いてくれる?」
「……あぁ、」
「私……確かに狙撃手としての道を歩んでいた。
最強を目指して……毎日の鍛錬も欠かさなかった……」
でも、本当は最強の称号なんてどうでもよかった
ただ、力が欲しかった……
力さえあれば、叶うと思っていた――
「あの日からずっと願っていたの………」
「何をだ?」
「――最速の空賊の、隣。」
「――!」
「砂海亭で初めて見つけたとき、凄く驚いた。
それから決めたの。
この人の隣に立つって。」
そのために目指した。“最強”の名を
最速の隣に立つには、最強にならなけらば。そう思ったから。
彼が銃を使っていることはわかっていたけれど……
自分にも銃しかなかったから………
この銃で、最強になることを誓った。
「フランが羨ましいとかじゃなくてさ……ただ、バルフレアに近づきたかったの。
最速の空賊バルフレアに惹かれて――……」
ふ、との顔に微笑が浮かぶ。
「でも――もういいの、
今、こうしてバルフレアと一緒にいられる。
狙撃手ではないけど、バルフレアに認めて貰えたから……」
「……」
「ね、バルフレア。」
「何だ?」
「今回の戦いで……改めて思ったの。
私……まだ狙撃手の夢、諦めたくないって。」
はまっすぐにバルフレアを見つめる。
「そのために……もう一度修行し直したい。
一からってワケじゃないけど……ちゃんと、やり直したいから……」
真剣な表情に、バルフレアはふ、と笑みを浮かべる。
そのまま静かにを抱き寄せた。
「バル…フレ…ア……?」
戸惑うの唇に、そっと自分のそれを押し当てる。
「…ん……」
触れる感触と解け合う温度が心地よい。
暫し時間が過ぎ、どちらからともなく離れる。
腕の中のを覗き込み、ふ、と微笑んでみせる。
「……最強の狙撃手か。
確かに、俺の隣に立つならそれくらいなってもらわねぇとな。」
けどな、と耳元で低く囁かれる。
「……無茶はするなよ?それと――
―――俺の傍を、離れるな……」
「ん……約束、する。」
静かな、宵の闇の中
ゆるりと時間が流れていった。
-----------------------------------------------------------------
あとがき
1000ヒット記念の続きです。漸くupできた……;
ただでっかいバズーk……もといライフル使う女の子が書きたかっただけです;
銃器関係はあちこち調べてあさりまくって書きました。
楽しく読んでいただけたら幸いです。
2006 12 20 水無月